50話 アイアンゴーレムとの遭遇
「……」
「……」
「……」
面白くないのは三色トリオである。
トラクマドウジの表情は明らかに恋をする男のもの。
その対象が黒髪姫カットの美女。
彼女たちも自分の容姿に自信を持っている。
しかし、輝夜のそれは次元が違っていた。
実は輝夜、化粧を一切していない。
だというのに三色トリオの実体、及びドッペルドールに完勝してしまっている。
尚、デューイの本体、四国・美保がこの場にいた場合、この三色トリオは確実に汚泥を舐める展開となるだろう。
輝夜の姿が見えなくなって、明らかに落胆の表情を見せるトラクマドウジ。
そんな彼にまったく関心が無いトウキはトマカレーライスに夢中だ。
輝夜はどうせ爆速で食べ尽くすだろうと思い、三人分のトマカレーライスを運んできていたのだ。
「ところで―――俺たちに話って、なんですかい?」
ジャックが埒が明かないと感じ取り、トラクマドウジに食事に誘われた理由を問うた。
「あぁ、それですか? 単に関心があったんです」
チラリ、とトラクマドウジはトウキを流し見る。
「アイアンゴーレムの件ですか。そんな気はしていましたよ」
「あぁ、畏まらなくとも大丈夫です。僕は本部の幹部ではないので」
その返答にジャックは意外という表情を見せた。
「じゃあ、遠慮なく」
「えぇ、僕もか達苦しいのは苦手です」
実際は、幹部よりも権限は上。
特別枠に納まっているのがトラクマドウジだ。
彼は良い意味で人が悪い。
「アイアンゴーレムと遭遇したのは―――――」
時は少し遡る。
アイアンゴーレムとの遭遇場所は旭川の近く。
当初、ジャックたちは【米】を手に入れるために移動中だった。
現在の主食、米は実のところ猛獣が実らせるものだ。
その猛獣の名は【お米シャワー】。
猛獣のカテゴリーではあるがDLは0。
外見は人間の美少女で、頭の上の方に長い耳が生えている。
特徴的なのが髪が稲になっている、ということだろう。
ちなみに全裸で色々と危うい。
個体差があり、爆乳が大雑把な味の米を実らせる。
ちっぱいは味、粘度、粒の大きさが揃っている、等とても優秀だ。
知能は犬か猫程度。
臆病で警戒心が強く、逃げ足が速い。
その逃げ足、時速70キロメートルにも及ぶ。
荒地での走破性能も破格であり、二本足であることから壁もよじ登って逃げ果せる事も可能。
無策で捕獲するのは相当難しいだろう。
ただし、一度、心を許すと懐いてくれる。
そのため、地下牧場にて家畜として飼育されているのだが、その光景はかなりアレなものになっている。
なのでその風景は全てモザイクだ。
見せられないよっ!
ただ、繁殖方法がいまだ不明。
恐らくは雄がいるのだろうと推測されるも、今日に至るまで発見されていない。
なので、定期的に補充する必要があるわけだ。
ちなみに、米の収穫には専用の櫛を使う。
それを使用して彼女たちの髪を梳いてやると米が収穫できるというわけだ。
米は一ヶ月ほどで収穫できるようになり、お米シャワー一頭……一人というべきか、から3キログラム収穫することが出来る。
その重さのため、彼女たちも髪を梳いて米を取り除いてくれることに感謝しているもよう。
そもそも、髪を丁寧に梳いてくれるのが心地いいようで、終始ニコニコして大人しい。
ただ、そこまで持ってゆくのに時間が必要で、捕獲するのは出来れば幼体が良い、とされていた。
「お米、見つからねーな」
「そう簡単に見つかるようなものじゃないわよ」
DBCの後部可動ユニットで周囲を見渡すトウキとデューイ。
お米シャワーは日中に活動する。
しかし、動く事が殆どない。
彼女たちは水と光合成で栄養を自らの力で生み出す。
したがって、狩りをする必要が無いのだ。
そうなると水場を見つけるのが発見への近道となる。
一応は目星を付けているが、水場は他の猛獣も利用するので、お米シャワーたちはさっさと水を飲んで巣に帰省する習性を持っていた。
それが、お米シャワーが見つかり難い理由である。
「んを? お米、発見」
「うん、私も見つけた……けど」
必至に逃げるお米シャワーたち。
それを追いかけているのが巨大な巨人。
件のアイアンゴーレムだ。
どうやら、お米シャワーたちを人間と誤認しているようで、誤ってアイアンゴーレムのテリトリー内に侵入してしまったお米シャワーたちがかなりの数、犠牲になっている。
今回も知らず知らずのうちにテリトリー内に足を踏み入れてしまったらしく、半べそを掻きながら全力で逃げている最中だ。
幾らお米シャワーたちの足が速くとも、一歩の大きさが違う。
あと数分で、彼女たちは巨大な足によってペチャンコにされてしまうだろう。
「あれ、見なかったことにしない?」
「しない」
「ですよねー」
デューイは諦めた。
トウキは既にやる気満々だったし、何よりもお米シャワーたちが可哀想だったから。
「ジャック! ついてないわ! 私たち!」
「帰りてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
ジャックは叫びながらハンドルを切った。
目指すはアイアンゴーレム。
動く要塞だ。




