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43話 たまね牛

巨大な玉ねぎの頭に、筋肉が凝縮されたかのような真っ黒い身体。

それは紛れもなくたまね牛。


しかし、それは―――――――。


「でけぇっ!」


圧倒的な巨体。

その体長、実に15メートル。

頭高8メートルにも及ぶ。


最早、それは獣ではなく怪獣のそれだ。


「たまねーぎ!」

「鳴き声の自己主張が激しいっ!?」


たまね牛の鳴き声に思わずツッコミを入れてしまうデューイの気持ちは分からないでもない。


お前のような牛がいるか、というものだ。


しかし実際に目の前にいるのだから仕方がないというもの。


この奇妙な牛だが、実は草食動物である。

性格も温厚で敵愾心は殆ど持たない。


しかし、彼らを前にして一つだけ絶対にしてはいけない事があった。


それは、たまね牛に【赤】を見せてはならない、ということだ。


たまね牛にとって、【赤】とは宣戦布告の意味を持つ。

意図的、無自覚などは関係なく、赤を身に付けている事は即ち、戦いのゴングを鳴らすも同じことなのである。


そして、ここには【赤】を持つ者が二名。

疑わしいのが一名ほどいた。


赤毛のデューイは仕方がないとして、赤兎のトウキは完全にアウト。

即座にバニースーツを脱ぎ捨てるべきであろう。


ジャックも赤っぽいハンドガンを所持している。

たまね牛的には疑惑の判定となるが、まぁいいか、の精神で纏めてぶちのめすつもりだ。


尚、たまね牛のぶちのめす、は概ねミンチという解釈でよろしい。


「たままぁぁぁぁぁっ!」


たまね牛が後ろ足で地面を蹴り上げる。

攻撃するぞ、との合図だが、それでアスファルトの道路が豆腐のように抉れる光景は恐怖を誘発させるには十分だ。


「うはぁ、話には聞いていたが……まともにやってられんぞ」


ジャックは効果があるかどうか疑わしいハンドガンを構える。

こんな事なら長弓の方が良かったか、と考え瞬時に大差ないかと溜息を吐いた。


「わっはっはっ、活きがいいなっ! こいつは美味そうだ!」


一方でトウキは、勝利してたまね牛の牛丼を食べる事を既に妄想していた。

ドバドバと溢れる唾液が華奢な顎を伝い、大きな乳房にポタポタと滴る。


ぶっちゃけ、きちゃない。


「やれやれ……どうしたものか」


といいつつも既にビームスナイパーライフルに手を伸ばしているトーヤ。

実は彼女、これをぶっ放したくてうずうずしている。


ただ、どこを狙うかだ。


たまね牛に捨てる部位は存在しない。

全てが美味しく食べられる、というありがたい食材なのだ。


ビームスナイパーライフルで仕留める、となると流石の玉ね牛でも耐える事などできず、命中した個所が完全に焼け焦げて食べられなくなるだろう。


狙うなら頭部か心臓。


頭部の玉ねぎが食べられなくなるのは本末転倒。

そして、心臓の部位はコリコリとした食感が堪らない部位。


共に損失するのは大きな痛手となろう。


「(こいつはお預けかな)」


これらを考慮し、トーヤはいつもの相棒を手に取った。


「マジでやるの?」

「もちのロン。狙うのは首だ首!」


トウキは愛刀の三毛猫を構える。

如何に巨体のたまね牛とはいえ、首を跳ねられたら即死であろう。


腹ペコ娘はそれをよく弁えていた。


「ひえぇ~、私、死んじゃうかも」

「でぇじょぶだ。【ピー】ボールがある」

「それ、かなり昔の漫画よねっ!?」


この荒廃した地球であったも、その漫画は健在でした。


「たまねーぎ!」


トウキとデューイがじゃれている隙を突いて、たまね牛が突進してきた。

それほど速さは無いものの、一歩一歩が大きいため即座に距離を縮められる。


「やっば!?」

「ぴょんぴょ~ん!」


デューイは慌てて横に猛ダッシュ。

トウキは弾ね牛を小馬鹿にしながら兎のように飛び跳ねる。


たまね牛が狙ったのは、むかつく赤兎の方だ。


「しめしめ、こっちに狙いを定めたな」


トウキは並び立つビルディングの壁を交互に蹴りながら高さを稼ぐ。

彼女の意図に呼応するかのようにトーヤが狙撃銃を構えた。


タンッ、と銃声。


音速で飛翔する弾丸がたまね牛の顔? すれすれで通り過ぎていった。

これにたまね牛は驚き思わず立ち上がってしまう。


これは命中しなかったのではなく、わざと命中させなかったのである。


「上手い」


同じことをしようとしていたジャックは、スナイパーの技量に感嘆する。


「貰った!」


たまね牛が四つ足状態に戻るタイミングでトウキが仕掛けた。

狙いは首。

一撃にて跳ね飛ばさんとする。


しかし、それは浅い。


「うっし~!?」


吹き出す鮮血。

致命傷には違いないが刎ね飛ばすには至らない。


「あれぇ?」


トウキは確実に仕留めたと思った。

確かにゴリラならば可能であっただろう。


しかし、トウキは女の子である。

腕力に頼った斬り方ではそれも叶わない。


ゴリラもそれを分かっているので、技を駆使して斬ったのだが、それでも足りなかったのである。


これは単に、武器が悪い。

トウキが使っている刀はあくまで初心者用の量産品。

刀匠が魂を込めて打った品物ではないので、どうしても切れ味に難が残っているのだ。


トウキはめげずに再びビルディングを蹴り上がり、たまね牛の命を刈り取る準備をする。


「たまぁ!」


激痛に暴れ狂うたまね牛。

ビルディングに体当りをして、それを易々と倒壊させる。


「おおっと」


トウキは飛び散る破片に飛び移りながら、たまね牛の隙を伺う。


「ひえぇぇぇっ、なんなのよ、もうっ! ひゅいっ!?」


無数の瓦礫が赤毛ツインテールに降り注ぐ。

一歩でも動いていたら押し潰されていただろう。

まるで怪獣映画のような光景にデューイは思わずジョバりそうになった。


「ううっ! 漏れた! 漏れたもん!」


漏らしてた。


「でも、ここで逃げたら女が廃る! Extraスキル!【ハイチャージ】! 続いてExtraスキル【ハイジャンプ】! ちょあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


デューイは片手斧を握り締めて跳躍。

トウキがビルディングを利用しないと達せなかった高さを自力で達成する。


「これでも……くらえぇぇぇぇぇぇぇぇっ! ゲホゲホっ!」


絶叫からの投擲。


そして咽た。


デューイの片手斧が緑色の輝きを纏って円月となる。


ザシュッ……ズドォォォォォォォンッ!


それは仕留めきれなかった、たまね牛の首を見事に落とすのであった。


「誰か、受け止めてプリーズっ!」


しかし、この女、後の事を考えていない。


Extraスキルで高く飛ぶことはできても、着地が出来るかといえば別問題。

このままでは地面に激突してGameOverガメオヴェラ

フレッシュなミンチが出来上がってしまうだろう。


「まかせろー」

「え?」


どげしっ。


デューイは横から飛んできたトウキに蹴りを入れられ、ビルディングの窓より内部に突入。


九死に一生を得るが、その代償は便器の中に顔を突っ込むというものであった。


えんがちょ。


「これで万事解決。いやぁ、良い狩りだった」

「内容は褒められたものではないがな」

「なんでだよー?」

「一撃で仕留められなかっただろうに」

「それはアレだ。このぷにぷにの筋肉が悪い」


ゴリラに掛かれば人間の筋肉など全部プニプニであろう。


「いずれにしても、技術方面を伸ばしていかないとな」

「えー?」

「えー? じゃない」


こうして若干の犠牲は出たが、たまね牛を狩ることが出来たトウキ一行であった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] タマ牛「たまねーぎ!」 トウキ「ゴーリラー」 タ「たま!たま!」 ト「ゴリ!ゴリ!ラー」 デューイ「会話すな!」
[一言] 若干疑わしい赤 トウキ「ギリで誤魔化せるな」 トーヤ「シャ○ザク色で押そう」 デューイ「偽ラ○スカラーじゃないの?」 ジャック「コレも世代の差か…」
[一言] (中身がゴリラでなければ)命を刈り取る身体(意味深)をしているだろう…?
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