42話 DL-5
地下は当然ながら日の光が差さぬ場所。
今は車のヘッドライトだけが頼りだ。
ジャックは腰にぶら下げていた懐中電灯のスイッチを入れて、それを逆手持ちする。
武器はハンドガン。
トウキを除く他のメンバーも銃を構えた。
そして、暗闇から、ぬるり、と匂いの元が姿を現す。
「にゃ~ん!」
それは猫だった。
クリーム色の毛皮を持ち、頭部に丸い形の極上チーズを蓄える小型の猫【チーズにゃん】が姿を見せたのだ。
「猫だー!」
「猫か」
「猫だな」
「あらやだ可愛い」
どうやら、ここはチーズにゃんの寝床であったもよう。
一匹が鳴き声を上げると、なんやなんや、と他のチーズにゃんも寄って来て猫祭りと化した。
この猫、好奇心旺盛で且つ人懐っこい。
DLは0どころか-5となる。
しかし、気分屋であるため一ヶ所に留まるということをしない。
そのため、家猫には適さない。
また、ストレスを感じると頭部にチーズを蓄えなくなるため、現時点では家畜としての価値は無いに等しいのが現状である。
「ふははははっ、より取り見取りだっ!」
「にゃ~ん!」
トウキは悪鬼のごとく、チーズにゃんのチーズを刈り取ってい行く。
チーズにゃんのチーズは、猫の喉をこちょこちょしながら捻るようにして取ると綺麗に収穫することが出来る。
その後、頭部の残ったチーズ部分を指で丁寧にこそぎ落としブラッシングしてあげる、とまた極上のチーズを蓄え始める、という生態を持っていた。
「ちょっと、トウキちゃん、大人気過ぎない?」
「こいつ、昔から猫に好かれるやつでして」
「トーヤちゃんにも凄い群がってるわね」
チーズにゃんのチーズは彼らの非常食という意味合いがあるが、実のところ彼らはチーズが好きではない。
寧ろ、邪魔なものとしての認識が強かった。
なので、定期的に仲間同士で取り除くということをしている。
そのため、猫であっても群れを作るのだ。
しかし、人間ほど丁寧に且つ気持ち良く取り除いてくれる存在が居ないため、人間を見かけると寄って来るのである。
チーズが実ってない場合は、その限りではない。
「あー、分かった分かった。今取ってやる」
「ジャックさん? 私のところに、にゃんこが一匹も寄ってこないんですけど!?」
「デューイは、こいつらが嫌がる何かでも持っているんじゃないのか?」
「そんなの持ってないわよ!」
何故か猫たちに嫌煙されるデューイ。
彼女は猫たちが嫌がる品を持ち合わせていない。
だとするなら恐らく、彼女が身に纏う香水の香りを嫌がった、に違いなかった。
トウキ、トーヤ、ジャックは実にナチュラル。
人間のにおいをプンプンさせている。
獣にとって、そっちの方が安心できるにおいなのだ。
「わはは、予期せぬ収穫」
「あぁ、これだけあれば軽く見積もっても5万円は硬いな」
「30分で五万! 堪らんなぁ!」
トウキはこの収穫にご満悦である。
そして、この極上のチーズを牛丼に載せる、という野望も抱く。
「ここはチーズにゃんだけですかね?」
「そうじゃない? 知らないけどっ!」
つーん、と拗ねる赤毛ツインテールに苦笑するトーヤ。
デューイは大の猫好きであり、自宅に二匹の猫を飼っているほど。
だというのに一匹もチーズにゃんが寄ってこなかった事にショックを受けており、今は早く帰宅して愛猫に慰めてほしい、と思っている。
尚、桃吉郎は猫を飼っていないが、庭で鍛錬を始めると何故か野良猫たちが寄って来るもよう。
現場は静かだが賑やかな光景になる。
「さて、次はメインを狙おうぜ」
「たまね牛だな。こいつは一筋縄ではいかないぜ」
ジャックは車の後部可動式ユニットに固定されているボックスからランプを取り出し、それに火を灯して車に引っ掛けた。
その明かりは車の位置を示す物となろう。
その明かりにチーズにゃんは興味津々だ。
「それじゃあ、行くとするか」
「おう。じゃあな、おまえら」
「「「にゃ~ん」」」
チーズにゃんたちに見送られ、トウキたちは地上を目指した。
地上はかつての人間たちの営みの証である灰色を、大自然の緑で覆い尽くされている状態だ。
自動販売機に絡み付き覆い隠しているその状況は、自然が人間の暴挙を許さない、とでも言っているかのようで恐怖すら感じる。
人が離れれば、自然はたちまちの内に全てを支配してしまう証明足り得た。
「ここに、たまね牛がいるのか? 気配が多過ぎて把握できんなぁ」
「それだけ注意が必要になるってことだ。さっきの猫のように友好的とは思わない事だな」
「んなことぐらい分かってらぁ」
トウキは鞭を手にしながら先頭を行く。
その姿はSMの女王を想起させるか。
それとも特殊なプレイを提供する風俗嬢か。
とにかく異質であることは間違いない。
もちろん、トーヤも間違いなく異質。
しかし、その凛とした佇まいはこの風景にあってもどこか調和を生み出している。
彼らは慎重に探索する。
そして一時間が過ぎた頃、それは咆哮と共に姿を現した。
 




