40話 それは恐怖であり希望でもある
ドクター・モモのラボにはトウキとトーヤの姿があった。
もちろん両者は補完カプセル内ですやすやと寝息を立てている。
「うほっ、相変わらずエロいなトウキちゃんは」
「自分のドッペルドールに欲情するな」
凍矢にツッコまれた桃吉郎は「がはは」と笑いながらカプセルをバシバシたたいた。
この時、二人は気付いていなかったが、中のトウキが、びょくっ、と身を強張らせる反応を示している。
それに気付いたのは、この場ではたった一人だけだ。
「(ふふん、いいじゃないか。ソウルリンクの真の力が示される日も近いのう)」
にたり、と人知れずにほくそ笑む。
「こりゃっ、ゴリラ! カプセルが壊れるわい! やめんか!」
「だれがゴリラだっ!?」
「おまえ以外に誰がおる。ほれっ」
ドクター・モモは桃吉郎に一本の刀を投げて寄こした。
それは白い鞘に収まった太刀だ。
それを受け取った桃吉郎は刀に触れた瞬間に背筋が凍り付く感覚に陥る。
「な、なんだこれはっ!?」
「刀じゃよ。名を【エルティナ】。運命を切り開く刃じゃ」
「日本刀なのにハイカラな名前なんだな」
「まぁの」
桃吉郎は刀を抜いてみた。
その刀身は、まさかの桃色。
武器というよりかは芸術品のそれに近い。
――――が、しかし。
「美しいというよりかは恐ろしいな」
「あぁ、理由の分からない恐怖を感じるな」
桃吉郎と凍矢は【本能的な部分での恐怖】であることを認知した。
「それはトウキではなく、おまえが常に持ち歩きなさい」
「え? 俺かよ」
「そうじゃ。決して手放してはならぬぞ」
「えー? 売ったら高く買い取ってくれそうなのになぁ」
「かっかっかっ、売ったとしても必ずおまえさんの元に戻って来るわい。沢山の呪いを引っさげてのう」
「こわっ。何だよこれ。呪いのアイテムか何かか?」
ドクター・モモはエルティナを見てため息を零す。
「ある意味で呪いじゃな。しかし、希望でもある」
「わけが分からん」
「今は分からんでいいわい。次に凍矢じゃ。ほれっ」
ドクター・モモは続いて凍矢にスナイパーライフルを投げ渡した。
桃色の装甲に覆われたかなり大型の狙撃銃となる。
「っ!? 見た目よりも軽い?」
「おうとも。軽くて丈夫。じゃが、そこそこの重さがあっていい感じじゃろ?」
「えぇ、重さに関してはいうことはありません」
「欠点は大型化じゃな。今の段階では、それが限界じゃ」
「威力は?」
「無論、わしの現時点での技術の粋を込めて作った銃じゃ。申し分無しにしておる」
「試し撃ちをしても?」
「もちろん」
凍矢は、そそくさと射撃場へと移動。
そして、数分後、血相を変えて帰ってきた。
「ドクター・モモっ!?」
「おう、早かったな」
「鉛弾じゃなくて【ビーム】が出たんですがっ!?」
「そりゃあ【ビームスナイパーライフル】じゃからのう」
射撃場は大惨事である。
ぽっかりと開いた壁穴は超高熱で溶解して出来上がったものだ。
尚、この時代に置いてもビーム兵器の存在は確認されていない。
つまり、これはオンリーワンの超兵器ということになる。
「これじゃあ、獲物を完全破壊してしまいます!」
「愛銃も持ち歩けばいいじゃろが」
「そういう問題では……!」
「分かった、分かった。すずめを貸しなさい。強化してやるわい」
凍矢は若干、不安ながらも相棒を狂科学者に渡す。
するとドクター・モモは手際よく狙撃銃を強化して凍矢に返した。
「弾速と射撃時の反動を抑え込んだぞい」
「何ですか、そのつまらなそうな顔は」
「爆発せんと面白くなかろう」
「これは面白くなくていいんです」
馬鹿と天才は紙一重、とはよく言うものだ。
ドクター・モモは掛け値なしの天才だ。
しかし同時に、頭のネジが40本ほど外れている、とも言われている。
「そして、トウキにはこれじゃ」
「なんだこれ? 鞭?」
「そうじゃ。それは【オーラウィップ】。おまえさんの気を鞭に乗せることが出来る」
「俺……というかトウキちゃんか」
「そうじゃ。じゃが使うのはトウキであっても気を操るのはおまえさんじゃ。努々《ゆめゆめ》、忘れるではないぞ」
「そんなの言われんでも分かってらい」
気の使い手はこの世に数名しか存在しない。
桃吉郎は、その貴重な数名の一人である。
気は主に身体能力や免疫を向上させるために使用されることが多い。
これを【防御系オーラ】と呼称されている。
しかし、中には打撃、斬撃に気を乗せて破壊力を増すという使い方をする者がいた。
これを【攻撃系オーラ】という。
だが、この両者を同時に発現させる者がこの世にはたった一人だけ存在する。
そして、それを【ゴリラ系オーラ】と本人の容姿になぞって呼称したという。
「でも鞭かぁ……トーヤでも縛るか?」
「止めろ」
あー、いけません! ピンクな映像は困ります!
尻肉に食い込んだ鞭がむっちむちであっは~んです!
「ありじゃな」
「ここにビームスナイパーライフルの的が二つもあったか」
「「やめろー!」」
かくして桃吉郎と凍矢はたまね牛を求め南東を目指す。
当然の権利のごとく巻き込まれるデューイとジャックは泣いていい。




