30話 報告
「おーい、ジャックさんやい」
「……トウキか? 無事だったのか!? おいっ!」
わはは、と駆け込んでくるトウキ。
その底なしの能天気さに救われる一方で、ジャックは彼女の真っ赤に染まった両手にギョッとする。
「ちょーっ!? その手どうしたのっ!? というかアンドロイドはっ!?」
もちろんデューイもジャック同様に心がヒュッとした。
トウキが怪我をしたところなど見た事もなかったからだ。
「ぶっ壊したぞ」
「というか、怪我の原因はこいつの無茶です。自業自得といっていい」
トウキの後ろから無傷のトーヤが姿を現し、ジャックとデューイは納得を示す。
「なんだよー? 頑張ったんだから労えっ」
「はいはい、よくやってくれた」
「すごいわねー、とうきちゃん」
むっはー、とドヤ顔する中身ゴリラ。
どう見ても適当にあしらわれるおこちゃまだ、というのに満足しているのだ。
ある意味で幸せなやつなのである。
「ところで、データの方は回収出来ましたか?」
「あぁ、多分こいつの事で間違いないだろうな」
「GPC、ですか?」
「あぁ、色々と胸糞悪いことが記録されていたぜ」
トーヤは部屋の中央の赤い液体が詰まっているカプセルと、大量の骸の山を見てある程度察した。
ろくでもない事が記録されているのだろう、と。
「そんなのよりもヒマワリの種を探そうぜ」
「ブレないわねぇ、トウキちゃんは」
「その為に、ここまで来たんだろっ」
「データの方がついでになっちゃってるっ!?」
手がボロボロだろうが、バニースーツがボロボロになろうが関係ない。
こいつは食に貪欲過ぎるのだ。
「いやいや、刺激的過ぎるだろう。着替えろ」
「ん? おぉっ!? おっぱい、丸見えだっ!」
「ったく」
ジャックは呆れた。
中身を知らなければ儲けものだっただろう。
しかし、中身を知ってしまった以上、トウキに欲情する事など無い。
寧ろ、手のかかる妹みたいな感情しか湧いてこないのだ。
「ほれ、防弾ジャケットだ。無いよりはましだろ」
「くっさ。おとこ臭がする」
「当たり前だ。俺は男なんだからな」
「俺もだぞ」
「中身はな。いいから着ておけ」
トウキは汗臭いジャケットを羽織り「うえ~」と顔を顰めた。
だが、そのお陰で破廉恥な姿は鳴りを潜める。
「それじゃあ、撤収しましょうか」
「ひーまーわーりー」
「分かった、分かった。回収するから大人しくしてろ」
「やったぜ」
こうして、トウキたちは無事にデータを回収。
ついでに超巨大ひまわりから種を頂いてすすきのへと戻った。
ひまわりの大きさは十メートルにも及び、種も一粒100キログラムという特大サイズだ。
GPCで転送するにも一粒30分も掛かり、結局のところ二粒で断念することに。
車に一粒搭載し、ジャックたちは帰路に就く。
「こいつは、どんな料理に生まれ変わるかなぁ?」
「輝夜に任せれば間違いないだろ。おまえは、どうなんだ?」
「そうだなー。俺なら鶏唐揚げとナッツの甘酢あんかけかな」
「ほー、いいじゃないか。俺ならミートソーススパゲティのアクセントに使うな」
トウキとトーヤの会話に料理人のジャックが話に加わる。
「おぅ、細かく砕いて芳ばしさを演出か。その手もあるなぁ」
「帰ったら作ってやるよ。頑張ったご褒美だ」
「やったぜ!」
だが、すすきの要塞に帰ってまずやるべきことは、貢献ポイントを支払っての治療である。
デューイとトウキは共に重傷ではないにせよ、看過できない傷を負っているのだ。
「はーい、それじゃあ、服を脱いで【治療カプセル】に入ってね」
ピンク色の割とエロい制服に身を包んだドッペルドールのお姉さんの誘導に従い、トウキたちは治療カプセルに入り傷付いた細胞の再生に取り掛かる。
その間にジャックとトーヤは食材の納入と、ドクター・モモにデータを引き渡した。
すすきのドッペルビル32階・ドクター・モモ個室。
そこで老科学者は梅昆布茶を啜りながら紙の資料を眺めていた。
「爺さん、戻ったぞ」
「……ふふん、その様子じゃとデータは手に入ったようじゃの」
「あぁ、ほらよ」
ジャックは手にするのも嫌だ、といわんばかりに富良野市で手に入れたGPCを放り投げる。
それで色々と察したのだろう、ドクター・モモは彼に労いの言葉を掛ける。
「苦労を掛けたのう。済まなんだ」
「うえっ、やめろよ。縁起でもねぇ」
「ひっひっひっ、酷い言い草じゃのう」
ドクター・モモは早速中の情報を閲覧。
その表情を曇らせた。
「まったく、バカタレが。強情を張らずに頼ってくれれば……」
「爺さんと知り合いだたのか?」
「まぁの。奴は栄転、わしは腫物扱いじゃてな」
「優秀だったのか」
「だったからこその悲劇なんじゃよ。歯車が狂えば全てが狂う。タイミングがのう、最悪だったんじゃよ」
依頼の顛末を聞いたドクター・モモは旧式のGPCにコードを繋げ、中のデータを全て自分のGPCに移した。
「おまえさん方が出会ったアンドロイド。奇妙な姿をしておったろう?」
「あぁ、メイド服の戦闘用アンドロイドだった」
「あれはな、元々は病弱な娘を介護するために作り出されたんじゃよ」
「「……」」
二人は押し黙った。
そんな気はしていたのだ。
その姿から、誰かの世話をするために作られたのではなかろうか、と。
「まぁ、破壊できたなら、アンドロイドにとってもよかったんじゃろうて」
そして、空っぽになったGPCを操作し、新たなデータをインストールした後に、それをトーヤに手渡したではないか。
「おまえさんもご苦労じゃった。これは、おまえにやろう」
「いいんですか?」
「いいともさ。勿体ないじゃろう? それに、衣笠……っと、今はジャックじゃったな。おまえさんは拒否するじゃろ」
話しを振られたジャックはしかめっ面で答えた。
「あぁ、流石の俺も、これはいらん」
「そういうことじゃ。便利じゃから貰っておけい」
トーヤは、ぺこり、と頭を下げる。
「それでは遠慮なく」
「Dが貯まるまでの繋ぎとしては十分じゃろう。上手く使えい」
「はい」
こうして、トーヤは予期せぬ報酬を獲得。
今後の活動に大いに役立てることになった。
「あぁ、ジャック。おまえさんにはこれをやろう」
「うん? こ、これは?」
ジャックがドクター・モモから渡された物は桃色に近い赤のハンドガンだった。
「捨てたんじゃろ?」
「そこまで予想を立ててたのかよ。くそったれが」
「感謝してるんじゃよ。これでものう」
「ひねくれ爺め」
ひっひっひっ、と独特な笑い方をする老科学者からハンドガンを受け取る。
ジャックはそれを手に取った瞬間に違和感を覚えたが、それは一瞬の事だった。
今は妙に手に馴染む新たな相棒に心をときめかえている。
「妙に手に馴染むな。重さも丁度いい。治療が終わるまで試し打ちでもしておくか」
「では僕もGPCの機能を見ておきますね」
「あぁ、トーヤはちと残れ」
「はい?」
こうして富良野での極秘活動は幕を閉じる。
あとは、楽しい時間だ。
生きて帰れた喜びを共に分かち合う宴が始まるのである。




