3話 活動開始
要塞を出る―――とそこは密林だった。
しかし、かつての都市の名残が窺える。
確かにここに、かつての札幌市が存在していた。
だが、今は歪んだ自然が都市を覆い尽くし、異形の生物たちが徘徊する魔界と化している。
地球は異世界に侵食された、そう提言する者もいる。
それはある意味で正しかった。
「う~んっ、やっぱ地上は緑のにおいが濃いなっ!」
背筋を伸ばし、自然のにおいを肺に取り込むむっちり少女。
字だけだと微笑ましいが、その姿は破廉恥そのものである。
ビキニ姿など、とても危険地帯へ赴く姿ではない。
しかし、一応は強固な繊維で作られた鎧のカテゴリーに含まれる。
ドッペルドールの初期装備としては優秀であり、何よりも軽量。
そのため、重武装の釣り合いとしてこれを選択したり、インナーとして装着する者も多い。
男も一応、装備可能であるが、確実にド変態になるので着用者は極少数となる。
いるのだ、これを装備する猛者がっ。
「油断するなよ、桃吉郎」
「分かってるよ」
ふにゃっとした顔を見せる桃吉郎。
必要時以外は基本的に怠惰で油断しまくりである。
暫し密林を探索する。
要塞の近くは定期的に猛獣の討伐が行われるので比較的安全だ。
なので新人にとっては恰好の修練の場となっている。
がさり、と物音がした。
二人は即座に臨戦体制に移行する。
「おうおう、早速、お出迎えだぜ」
桃吉郎は殺気を感じ取った。
柔肌を突き刺すそれは、しかし、すぐさま嫌らしい物へと変化する。
「猿……エンプティングか。DLは3だな」
DLとは、その生物の危険度を示す数値だ。
これが高ければ高いほどに危険であることが示されている。
パイロットたちはこれを目安にして、狩るか、避けるかを選択することが出来るのだ。
「3……ってことは一般人が相手にできる限界だったか?」
「あぁ、だが、ドッペルドールの相手じゃない。もっとも……」
単体ならば。
エンプティングは紫色の体毛を持つ2メートルの猿だ。
肉は食用に適さないため価値は低い。
そのため、害獣に指定されている。
この猿は群れで行動する特徴があり、非常に繁殖力が高い。
そして、厄介なことに人間の女性を襲い孕ませることが可能なのだ。
ドッペルドールも女性型は妊娠が可能である。
なので、エンプティング相手に敗北した場合、自爆が推奨されていた。
「こんなのが100匹いようが敵じゃねぇよ」
「大した自信だ。じゃあ、手っ取り早く片付けるとしよう」
「応よ!」
桃吉郎は刀を抜いた。
それと同時に大猿へと切り込む。
凍矢はスナイパーライフルで援護する形だ。
エンプティングは13匹の群れであったが、桃吉郎と凍矢の息の合ったコンビネーションによって7分後には全滅してしまった。
この二人、とんでもない戦闘センスの持ち主である。
それは実体に置いても遺憾なく発揮される。
特にゴリラは実体の方がドッペルドールよりも強いという。
「大したことはなかったけど……」
「けど?」
「おっぱい、ぶるんぶるんっ! 戦い難いっ!」
「あぁ、邪魔そうだな」
「凍矢~、交換しようぜ」
「絶対に嫌だ」
「けち~」
桃吉郎は早速、自分のドッペルドールに不満を覚えたのだった。
その後、彼ら……もとい、彼女らは食用のキノコを発見、20キログラムほど回収し初回の地上探索を終え、それぞれ3000Dと1500の貢献ポイントを得た。
「おう、戻ったか」
「あー、肩こりそ」
ぐりんぐりんと肩を回す桃吉郎。
その度に豊満な乳房がふるんふるんと揺れる。
「もっと乳を小さくしてくれ」
「ダメじゃっ! 巨乳はロマンなんじゃっ!」
「せめてバックアップ型のドッペルドールに付けてくれ。俺のは前衛型だろうが」
「だから、ええんじゃろうが」
ぶーぶー、と肩を竦める桃吉郎のドッペルドール。
彼女は武装を外し、てくてくとドッペルドールの収納カプセルに入り込んだ。
凍矢のドッペルドールも同様だ。
「「リンクアウト」」
そう宣言する、と彼女らは休眠状態に移行。
実体に意識が戻ってきた。
「ヴァ~、ようやく娑婆に戻って来たぜぇ」
「なんだ、その元犯罪者みたいな言いぐさは」
「やっぱ、男の身体が一番だ」
「その意見には同意しかないな。ドクター、なんとかならないのか?」
凍矢の要求に対し、ドクター・モモは腕をクロスさせて拒否した。
「この子たちは、わしの最高傑作じゃ。どういうわけか、おまえたちの細胞でしか完成しなかったのじゃよ。じゃから、文句言わずに可愛がれい。そもそも可愛いじゃろうが」
「いやでも……自分だし」
「考えようによっては双子の妹だしな」
「ロマンが無い連中じゃのう」
凍矢の意見はある意味で正しい。
自分の細胞を用いて複製した存在なのだから、性欲など生まれるはずもなく。
ただし、自分以外ならチャンスもあろうか。
「……ふむ」
「……僕のドッペルドールを見てどうしたんだ?」
「いや、ケツでけぇな、って」
「僕のドッペルドールに欲情するな」
「凍矢もいいんだぞ? 俺の妹に欲情しても」
「するかっ! いいから行くぞ! 収めた食材が【レストラン】に並んでるだろうし」
「おぉ、そうだった!」
バタバタと退室する大男。
その後を呆れ顔の美丈夫が追いかける。
その様子を老博士が見送った。
「ひっひっひっ、なるほど。拒絶反応、一切無しか。流石はわしが見込んだ男どもよ」
にちゃあ、という嫌らしい笑み。
マッドサイエンティストを頷かせるものだ。
「あぁ……最高じゃ、わしの娘たちよ。おまえたちこそが人類を救う女神となろう」
収納カプセルにて眠りに就く二人のドッペルドールをカプセル越しに撫でる。
それは生まれたての赤子をあやす父親のようだ。
「そのためなら、わしは……」
その目には強い決意。
そして、疑いようのない狂気を孕んでいた。
 




