29話 事の真相
富良野市ドッペルビル32階。
ジャックとデューイは遂にドッペルドール研究室へと辿り着いた。
「急がねぇと! デューイ、下ろすぞ!」
「う、うんっ」
足を痛めているデューイを傍の椅子に下ろし、ジャックは急いで端末を調べてゆく。
その殆どは電源が入っていないか破損しており使い物にならなくなっていた。
これらからデータを取得するのは難しいだろう。
「くそっ、ダメだっ! 全部イカれてやがる!」
「ジャック、もっと上の階じゃない?」
「上? この上はもう……いや、そうか! ドッペルドールのカプセルがあるかもしれねぇ!」
このままでは埒が明かない、と二人は最上階を目指した。
だが、そこに辿り着いた二人が見たのは、この世の物とは思えない光景だった。
幾人もの人だった物が折り重なり山となっている。
それが一つや二つではない。
十に迫る数が積み上げられていたではないか。
「なんだ……これは……!?」
「嘘でしょ……これ、全部っ!?」
この世の終わりのような光景に、二人は異様さを加速させる物を見た。
それは、死骸の山の中央に鎮座された人形だ。
人形は血に塗れドス黒くなっている。
何者かによって置かれたのであろう。
だが、何が目的で、なんのためにそこにあるかは情報が足りな過ぎて分からない。
ただ、人形の傍には小さな亡骸が転がっている。
「これは……?」
「子供の亡骸ね」
ジャックとデューイは頭がおかしくなりそうな空間で、それでも任務を果たさんと行動に移る。
何かしていないと本当に発狂してしまいそうだったからだ。
彼らはやがて、床に倒れていた白骨死体の腕にGPCが装着されているのを発見した。
「旧式のGPCだな」
「初期の初期のタイプね……損傷は見当たらないわ。これなら充電すれば起動するかも」
「じゃあ、このモバイルバッテリーを使ってみるか」
ジャックは腰のサイドポーチよりモバイルバッテリーを取り出し、旧式のGPCに電力を供給。GPCを起動させた。
どうやら、それにはロックが掛かっていなかったようで、簡単にデータ内容を確認することが出来たのである。
しかし、彼らは自らの行為を死ぬほど後悔した。
「……くそ」
「何てこと」
それは、間違いなく悲劇だ。
事の発端は決して戦闘用アンドロイドの暴走などではなかった。
そして、猛獣の地下シェルター発生事故でもなかった。
それは、一人の父親の暴走。
不治の病に侵された娘を助けたいがための身勝手。
彼は大量の【MP】なるエネルギーを用いて、娘の病を治療しようとしていたのだ。
しかし、MPは簡単に生成できるものではなく、そもそもが所持している者自体少ない。
しかし、時間が残されていない娘を救うには藁にも縋るしかなかった。
だから彼は戦闘用アンドロイドに、こう指示したのだ。
ここの住人たちを一人残らず狩れ、と。
彼の作り出した戦闘用アンドロイドは圧倒的だった。
自衛隊、そしてドッペルドール、DAですら圧倒した。
その死体からごく微量のMPを取り出しては、残骸をコントロールセンターに廃棄していたのである。
しかし――――彼の娘は暴挙の果てを待つことなく死んだ。
僅か、5年の生涯を終えたのだ。
彼は発狂した。
そして、娘の死を受け入れることが出来なかった。
だから、作り出したのだ。
大量の生贄を悪魔に捧げ。
生まれ変わらせたのだ。
最愛の娘を―――――――。
「イカれてやがるぜ」
「そうね。でも、もし、私たちが彼の立場だったら?」
「考えるだけ無駄さ」
ジャックは深い溜息を吐く。
「でも、その結末を俺たちは確認しねぇといけねぇ。恨むぜぇ、ドクター・モモ」
彼はドクター・モモに憎悪をぶつけ、決意を持ってGPCを操作した。
すると天井から一つのカプセルが降りてきて、血に塗れた人形を押し潰す。
その中には人型でありながら、人ではない少女が納まっていたではないか。
黒い髪はその全てが蛇。
閉じた瞼は九つ。
耳は四対。
腕は六本。
脚は四本。
どう見ても人間ではない。
しかし、彼女は幼く、そして、息をしていた。
補完水溶液の中で、彼女は確かに生きているのである。
「……ケジメは付けねぇとな」
「……」
ジャックはハンドガンを取り出し、狙いを少女の眉間に定めた。
「まって、ジャック」
「どうした? まさか止めるつもりか?」
「違うわ。私も背負ってあげるって言ってるの」
「止めとけ。ろくなことにならんぞ」
「ここまで背負われたんだから、ここで返さないと一生返せないでしょ」
「勝手にしな」
「そうする……Extraスキル【ハイチャージ】」
デューイはジャックの手に自分の手を重ねてExtraスキルを発動した。
これでハンドガンの威力は3倍となる。
このカプセルが強化ガラス製だとしても、容易く撃ち貫くであろう。
「お休み。どうか幸せな夢を」
ジャックは指に鎮魂の思いを乗せ、ハンドガンの引き金を引いた。
カプセルにひび割れが生じ、やがて中の液体が赤に染まる。
そこから伝わって来ていた僅かな生命の波は完全に失われ、このおぞましい事件はようやく終わりを迎えた。
「つれぇなぁ……」
「そうね……」
ジャックはハンドガンを床に放り投げた。
子供を殺めたハンドガンを、いつまでも持っていたくはなかったからだ。




