24話 富良野要塞へ
トウキたちはジャックの車で富良野市があったとされる場所へと向かう。
今回は運転をジャック、助手席にトーヤ。
後部可動ユニットにトウキとデューイだ。
「うおっ、すっごいラベンダーの匂いがしてきたぞ!」
「良い香りね~」
デューイは風で運ばれてきたラベンダーの香りにうっとりとする。
「トイレのスプレーのにおい!」
「トウキちゃん、感動を返しなさい」
しかし、トウキの中のゴリラに繊細さを求めてはいけない。
こいつは食う寝る遊ぶの権化なのだから。
「一面、ラベンダーで覆われてやがるなぁ」
「人がいなくなって管理できなくなってますからね。これが、自然の力なんですよ」
「違いねぇ。深く考えると恐ろしい話だぜ」
ジャックとトーヤは自然の力強さと容赦のなさに畏怖を覚える。
その容赦のなさは人類にも向けられるのだから、当然といえよう。
「ひまわりはどこだー? 酒のつまみやーい」
だが、そんなものは一切恐れない、とばかりに能天気な様子を見せる外側だけ美少女。
後部可動ユニットから身を乗り出す姿は、まさかの黒兎。
そう、バニーガール姿であった。
ショートカットの頭上には黒いうさ耳。
片方はくんにゃりと垂れている。
発育の良い体には黒のバニースーツ。
ガーターベルトに茶のストッキング。
そして、黒のハイヒールと完璧な装いだ。
黙っていれば、超絶セクシーガールである。
しかし、これはトウキに課せられた罰であり償いだ。
男である桃吉郎にとって、これは屈辱であろう。
しかし「これは俺であって俺でないから恥ずかしくないもん」という謎理論で精神を空間湾曲フィールドでガード。
ゴリラスピリッツで精神を強化し、羞恥をパワーに転化した。
今は兎のごとき警戒心と繁殖力を手に入れた気になっている。
また、武器も刀ではなく、先端にウサギを模した人形が付いているステッキを持たされていた。
当然ながら、これは武器ではなく単なる飾りである。
今回はあくまで極秘任務。
猛獣との戦闘を避けてデータを持ち帰ることが肝要。
したがって、無駄な戦闘を避けるべく、わざとトウキを弱体化させたのである。
中身ゴリラとはいえ、トウキ自体はちょっと強い程度の女の子だ。
本体のように無茶はできないことを桃吉郎は理解している……かもしれない。
「あー、中身さえ見てなけりゃあ眼福だったのによ」
「残念でしたね」
「トーヤちゃん、今からでもバニーになってもいいんだぜ?」
「僕も男です」
「君はいいんだよ。美人だから」
「褒められてるのか、からかわれているのか判断に悩みますね」
「褒めてんだよ……っとそろそろだぜ」
ジャックは割とトーヤと凍矢を気に入っているもよう。
とはいえしっかりと境界線は退いている。
「なによー。リアル美女を無視するわけー?」
「おめぇはお願いされてもしねぇだろうが」
「分かってんじゃん」
「うっせぇ。準備しやがれ」
ジャックはちょっかいを掛けてきたデューイをあしらい目的地を目指す。
尚、デューイのリアルである四国・美保がバニー姿になった場合、ジャックの理性は割と吹っ飛ぶだろう。
それほどまでに美保の美貌は群を抜いているのである。
ただし、基本的にデューイ、及び美保は残念美人であることを忘れてはいけない。
いろいろアレな液体や、固体を浴びて近寄り難い存在になり易いのだ。
つまり、えんがちょ、である。
したがって、総合的にトーヤが一番の美人、美女となってしまう。
「褒められたのか……」
人知れず頬を赤らめるトーヤ。
まぁ、彼、彼女も色々と危うい。
それは相反する性別の肉体に入っているせいで、精神的に不安定になっているからだろう。
トウキがおかしいだけで、トーヤは正常な反応なのだから。
「お? あれって要塞か?」
「元、だな。今はただの廃墟だよ」
ジャックはそのまま、富良野要塞跡地に車を進ませた。
防壁は所々、崩れ落ちており鉄壁を誇っていた名残など微塵もない。
所々には人骨が散乱しており、ドッペルドールの物なのか、それとも本体の物なのかは判別が付かないだろう。
人の気配などは一切無い。
ただそこには滅びの臭いだけが充満していた。
地下に潜れば、その臭いは更に濃くなるだろう。
「くっさ」
トウキは鼻を摘まみ顔を顰める。
常人であれば即座に逃げるような臭いなのだから仕方がない。
「死臭が籠ってるわね。ここが全滅したのっていつ頃?」
「確か……五年前だったはず」
「生存者は絶望的ね。そのつもりで探索しましょうか」
「そうだな」
ジャックは狭い場所での戦闘を想定し、長弓からハンドガンに装備を変更している。
トーヤはスナイパーライフルに強いこだわりを持っているのか変更無しだ。
その代わり、トウキのハンドガンを譲り受けていた。
最早、トウキはハンドガンすら使わないもよう。
そもそも、一発も命中しないのだから、この方が良かったのである。
デューイも装備に変更はない。
片手斧は直接、投擲共に有効だし、マシンガンも所持している。
何よりも彼女はExtraスキルを数多く所持しており、閉所での戦闘も得意としていた。
トウキは今回、戦ってはいけないが本人は戦う気満々である。
その格好で戦えば画面中がモザイクで覆われかねない。
撮影班の苦労を分かって欲しい物である。
見えてはいけない物を隠すのは大変なんだぞ。
「よし、行くか。デューイ、ポイント頼む。俺はバックを受け持つ」
「OK、任せて」
「トーヤちゃんはリアだ」
「後方狙撃なら任せてください」
「トウキは……石ころでも投げとけ」
「まかせろー」
ポイント・マンは最前線に立つ斥候のような立ち位置だ。
普段ならトウキが受け持つべきポジションだが、今回は戦闘よりも偵察の方が重視されるためデューイが受け持つことに。
バックアップ・マンはポイント・マンの援護が主な役目である。
機転が利く者が好ましく、ジャックにとっては打って付けのポジションと言えよう。
リア・セキュリティは後方警戒が主な役割である。
その立ち位置から狙撃ができる者が好ましい。
あとはオムニ・マンという運搬、重火器を扱うポジションがあるのだが、トウキにこれを任せられるかといえばNOなので空白のままとしたもよう。
実に的確で正しい判断である。
「行くよー」
デューイを先頭に、彼らはゆっくりと地下シェルターへ潜って行った。
 




