20話 生姜鶏
「あっはっはっはっ! あ~おかしっ」
「食費に金がかかり過ぎて無一文とか、初めて見たぞ」
「ぐぬぬ」
むくれるトウキのほっぺは、ぷくぷく、である。
「自業自得なんですが、僕らだけではどうにも空回りでして。特にGPCが無いのが痛いんです」
「そうよねぇ。食材を確保しても持ち切れないから、いちいち要塞まで持ち帰らないといけないし」
今まではデューイがGPCを所持してくれたおかげで、稼ぎもスムーズであった。
しかし、今回の一件でGPCの所持、未所持の差が明らかになった形だ。
「やっぱ。GPC要るよなぁ」
「そうだな。僕の当面の目標はGPC購入かな」
「俺は?」
「おまえが持っていても、直ぐに壊しそうだから必要ないだろ」
「トーヤはお利口だな!」
そもそもが、ゴリラには扱い切れない、という最大の理由をトーヤは言わないでおいたという。
「OK、可哀想なトウキちゃんの為に、お姉さんが一肌脱いであげる」
「じゃあ、今晩、俺の部屋で」
「わぁお、告白されちゃった♡」
ごすっ。
「デューイさんも、こいつのボケに合わせないでください。調子に乗りますから」
「ごめーん」
トウキはトーヤに制裁を受け頭に大きなタンコブを生み出した。
今は大人しい。
「デューイ、車を出すか?」
「そうね。遠出しないと稼ぎにはならないわけだし」
「となると……狙うのは【生姜鶏】だな」
「いいわねぇ。暫く、食べてないし」
生姜鶏は鶏冠が絶品の紅ショウガという鶏だ。
ただし、その大きさは成人男性ほどもあり、嘴による攻撃は厚さ5センチメートルの鉄板を余裕で貫く。
新人パイロットが挑んでも、大半が返り討ちになるであろう猛獣だ。
したがって、そのDLは9となる。
当然ながら、食材の価値はかなりの物。
そして、羽毛もまた有用な素材となり、防具、服、日常品の素材となるため、一羽狩れば桃吉郎の給料程度の稼ぎとなるのだ。
「お? なんだか美味そうな猛獣の名前が出て来たな」
「生姜鶏か……名前は聞いたことがあるが」
「何だっていいさ! 金になって美味いんなら、狩りに行かない理由にならねぇ!」
鶏と聞いて途端にやる気を取り戻すのは、お肉大好きトウキちゃんらしい。
トーヤは呆れつつも興奮するトウキを宥めて、デューイとジャックに頭を下げるのであった。
DBCを走らせること約1時間。
北部の山の麓に生姜鶏はいた。
それは主食となる昆虫が、ここに多く生息しているからである。
生姜鶏の主食は巨大芋虫【ポテ虫】だ。
このポテ虫は身がジャガイモで出来ており、様々な活用が期待できる。
体長は30センチメートル程度。
体色はジャガイモと同じで、愛嬌のある顔を持っている。
攻撃方法は上半身を起こして威嚇するだけ。
したがって、DLは0である。
ただし、ポテ虫を捕食する猛獣がDLの高い種類ばかりなので、ポテ虫を捕獲するには最低でもDL7を処理できる実力が欲しいところだ。
このポテ虫、かつては飼育して家畜にする計画があったが、この虫の主食となる植物の生産が不可能とあり、計画はとん挫することになった。
そのため、ポテ虫も価値のある食材となっている。
「はむっ……甘ずっぺ」
「美味しいじゃないか。オレンジクレープ」
「この甘酸っぱさがいいんじゃないの。トウキちゃんの舌はおこちゃまね」
トウキたちは出発前にオレンジクレープを購入し戦いに備えていた。
尚、ジャックはフルーツサンドイッチを購入。
運転しながら口に放り込んでいる。
クリームとオレンジを柔らかなパンで挟んだ、バランスの良い甘さは大人の男をも魅了するだろう。
ジャックはドリンクホルダーの缶コーヒーを手にして口に含む。
ブラックコーヒーは口内の甘ったるさを流し、次のフルーツサンドの感動を真新しくさせてくれるのだ。
「久しぶりに甘いもん食ったなぁ」
ジャックは辛党なので甘いものはあまり食べない。
とはいえ嫌いなわけでもなく。
「甘いものくったから、しょっぱいもんが食いてぇ! 鶏のてりやきっ!」
「あぁ、いいな。ウィスキーハイボールと合わせたい」
「分かるぞっ! あれは良いものだっ!」
うきゃーとはしゃぐトウキは色々な部分をゆっさゆっさと揺らした。
相変わらず黒ビキニなのでかなり刺激的な映像だが、文字だけなのでセーフ。
「落ち着け」
「これが落ち着かずにいられるか。聞いた話によるとポテ虫も美味いらしいじゃないか」
「ジャガイモが連結したかのような芋虫だったか? 僕は虫系は得意じゃないんだが」
「女みたいなことを言うなっ!」
「今は女子だ」
「そうだった!」
トウキのテンションがおかしな事になったところで現地に到着。
遠めに鶏と判別できる存在が、絶妙な位置にて餌を啄んでいる。
「う~ん、位置取りが難しいわね」
「なんで? 襲い掛かって一網打尽にしようぜ」
ふんす、ふんす、と鼻息荒いトウキは無計画な突撃を提案する。
もちろん却下である。
「あいつらは仲間意識が高くてな。仲間の一匹が危険に陥ったら一斉に襲い掛かって来るんだ」
「となると、群れから逸れている個体を仕留めるのが安全というわけですね」
「トーヤちゃんの言う通りだな。トウキは間違っても無計画な攻撃はしない事」
ジャックはトウキに釘を刺す。
「分かった! 認識されない速度で全部の首を刎ねる!」
しかし、釘は刺さらなかった。
「トウキを縄で縛っておきました」
「ご苦労、トーヤちゃん」
トウキは芋虫になった。
今はいもいもしている。
「さて、さて……いたわよ。群れから孤立している子」
デューイは双眼鏡で近辺を観察。
そして、孤立している生姜鶏を発見した。
「よし、そっちに向かおう。トウキを後部可動ユニットに放り込んでくれ」
「了解です」
「扱いの改善を求むぅ!」
ぽいっちょ、と雑に放り込まれたトウキは、ふぎゃ、との悲鳴を上げた。




