19話 空回り
オレンジ色の果実の名は【ファングオレンジ】。
巨大な口の中に鋭い牙をびっしりと生やす肉食の果実である。
DLは2。
それは、この猛獣が一歩も動く事が無いからだ。
なので狙撃銃で簡単に処理できる。
本人は完全に擬態できていると思い込んでいる悲しい猛獣の一匹である。
ぱぁん。
ファングオレンジは死んだ。
諸行無常である。
「よっわ」
「ぶら下がっているだけだしな。ただ、近接戦闘を行うと、まず返り討ちに遭うらしい」
「へー、面白れぇ」
トウキはファングオレンジをもう一匹発見。
無謀にも刀で切りかかったではないか。
がぱり、と大口を開けてトウキの柔肌をズタズタにせんとする、果実の怪物。
「じぇずど~っ!」
可愛らしい汚い掛け声で一刀両断。
ファングオレンジは真価を発揮できずに真っ二つとなって絶命した。
「うん、弱い!」
「弱いな」
彼女らは、こいつで儲ける事は出来ないな、と確信したという。
事実として、ファングオレンジは狩りが簡単なため、価値も低く設定されている。
その身は違うこと無きオレンジであり、需要も高いのだが、簡単に手に入る上に大量に生息しているのだ。
価値が低くなるのも当然と言えよう。
「別の猛獣を探そうぜ」
「なら、西をめざすか」
「おう」
一路、西を目指す。
ファングオレンジはそのまま要塞に収め、改めて西を目指した。
オレンジの怪物の儲けは1000円である。
「ここら辺の猛獣は?」
「たしか、植物系だったかな」
「帰るか」
「興味を失うな。そもそも、円を稼ぐために来ているんだろうが」
「ぶー、ぶー」
自由奔放過ぎるトウキに、頭を抱えるトーヤちゃんは泣いても許される。
西の広く生息する人食い植物の名は【デッドコン】。
肉食の大根の化物である。
DLは4となる。
その外見は一見すると巨大なカブに思えるが、それはこの怪物が巨大な口を所持しているからだ。
本体から生える葉は間違い無く大根のそれ。
普段は土の中に本体を埋めており、光合成で飢えを凌いでいる。
攻撃方法は、根による捕縛からの巨大な口で噛み付き致命傷を与える、といったものだ。
対処方法さえ間違えなければ、新人でも狩ることが出来る猛獣の一匹である。
たーんっ。
デッドコンは死んだ。
「こいつも動かないタイプか」
「うん」
トウキは、むいむい、と巨大な臀部を掻きながら、興味なさそうにデッドコンの末路を見届けたという。
動かないのであれば、狙撃銃でやりたい放題なのだ。
そして、このデッドコンもファングオレンジ同様の価値しかなく。
「おいっ!? 何時間も費やして2000円しか稼げてねぇぞっ!?」
「僕に言うな。そして抱き付くな。においを嗅ぐな」
トウキはトーヤ成分を補充し、なんとか萎えるやる気を取り戻そうとしていた。
何よりも、このままでは本当に給料が出るまでトウキのままで生活する必要がある、という危機感があった。
流石の桃吉郎も、それだけは勘弁したいのだ。
「ちょっと遠出するしかねぇ! ラシーカーの肉を手に入れる!」
「あれは僕らが狩り過ぎたせいで値崩れを起こしているじゃないか」
「誰だぁ!? ラシーカー狩りまくろうぜ、って言ったのはぁ!」
お前だ。
「くそっ! 万事休すかっ!?」
「どうしたのよ? 食材回収センターの前で」
そこにデューイとジャックが通りかかった。
不思議そうな顔をする二人に、ぎゅぴーん、と怪しく目を輝かせるトウキ。
「ふははは、助っ人確保!」
「おまえにプライドはないのか?」
「溺れる者は乳とケツを掴むのだ!」
「藁だろ。デューイさん、ジャックさん、実は……」
トーヤは二人に事情を説明する。
すると、返事の代わりに大爆笑を返してきたのであった。




