17話 温泉ホテルへ
その後、ファイアピッグの串焼きもしっかりと堪能したトウキたちは支笏湖へと向かう。
ファイアピッグの串焼きはラシーカーの肉とは比べ物にならないほどの旨味があり、尚且つ、肉自体にピリリと辛み成分が含まれており、それが食欲を加速させた。
十分な調理環境が整っていれば、超高級レストランで一品作れるほどのポテンシャルを秘めているだろうことを頷かせる。
「ふぅ、ちょっと食べ過ぎましたね」
「あぁ、美味かった。角煮にしても良いかもな」
「いい考えです。それだと流石に僕もお酒が欲しくなりますね」
「おやおや、いける口かい?」
「強いのをチビチビとがスタイルですね」
「はっはっはっ、絵になるな」
ジャックは日本美人風のトーヤが淑やかに日本酒を嗜む光景を思い浮かべた。
だが実際は、桃吉郎に振り回されながらヤケクソ気味に日本酒をあおる凍矢、が正しい。
現実ってのは、いつだって悲しいものなのだ。
尚、トウキとデューイは酔い潰れて後部可動ユニットに転がされてる。
想像以上にトウキの身体はアルコール処理能力が低かったようで、食事の後半になるとふにゃふにゃとよく分からない事を呟きながら酒を飲んでいる姿を見る事ができた。
そして、ご覧の有様である。
凍矢は桃吉郎が酒で酔い潰れた姿を見た事が無かったので驚いたが、トウキの可愛らしい寝顔を見て、うるさい時はこの手段もありだな、と暗黒微笑を浮かべた。
ただし、ゴリラには無効となる。
あくまでトウキちゃん限定の手段と言えよう。
「そろそろだな。どれくらい滞在する?」
「暗くなる前には帰りたいですね」
「OK、それなら4時辺りでどうだい?」
「だいたい2時間か……妥当かと」
ジャックたちは目的地である温泉ホテルに到着した。
ホテル前には武装したドッペルドールたちの姿がある。
いずれもベテランパイロットで構成された精鋭部隊だ。
ホテルの名は【丸駒】。
昔から運営してきた老舗であり、地球の異世界化後も損壊なく残った貴重な施設である。
無論、修繕すべき個所、最適化する個所は手入れを行っており、ドッペルドールに使い易いように工夫がなされていた。
当然ながら、本体でここを訪れる人間はいない。
ゴリラであれば可能だが、ゴリラを人類として認めるのはどうかと思う。
「お疲れさん」
「やぁ、同胞よ。戦いの疲れを癒しに来たのかな?」
「そんなところさ」
「はっはっはっ、ゆっくりしてゆくといい。安全は俺たちが保証するぜ」
警備隊の確認を受けたジャックは地下駐車場に車を停車させた。
「起きろー、着いたぞ!」
「うにゅーん、もうのめなーい」
「寝ぼけてんなぁ、ったく」
ジャックはデューイを雑に担いだ。
「トーヤちゃんはトウキを頼むわ」
「分かりました」
「足首を持って殺意満々だな」
「これくらいで丁度いいでしょう」
「おいばかやめろ」
危機感を覚えて目覚めるトウキちゃんは長寿タイプである。
流石に見事だと感心するがどこもおかしい所はない。
ゴリラに比べてアルコール処理能力が劣るとはいえ、1時間程度で復活するのは十分、酒に強いと言えよう。
「酒が完全に抜けたぞ」
「ドッペルドールも変態だったか」
「失敬な。こっちは可愛いだろ」
「可愛い変態だな」
「そんなに褒めるなよ」
「今のどこに照れる要素があったんだ?」
ジャックの見事なツッコミによって話は進行する。
受付カウンターにて入浴料を支払い温泉へと向かう。
室内風呂と露天風呂とがあるが、露天風呂は自己責任となる。
野外であるため、普通に猛獣が侵入する場合があるのだ。
それでも、露天風呂の魅力には抗えず利用するパイロットは後を絶たない。
当然、トウキたちも露天風呂を選択。
肌色の映像が満載のキャッキャウフフの展開であるが、君たちには【ウホッ】で我慢していただこう。
ふははは、嬉しいだるるぉ?(超暗黒微笑)
さぁさぁ、ジャックの引き締まった肉体で昇天するがいい。
「あ~、気持ち良かった」
「それには同意だ」
「やっと臭いが取れた~!」
真新しいビキニに着替える痴女二名。
トウキは赤を選択。
デューイはピンクだ。
ラウンジに出る、とそこにはウホッなジャックの姿。
「おう、出て来たか」
「良いお湯でした。でも、まだ時間がありますね」
「まぁ、喫茶店でゆっくりしようや」
ジャックが親指で示す先には洒落た喫茶店の姿。
これはホテルを修繕した際に追加した設備である。
「あぁ、良いですね。アイスコーヒーが飲みたいと思ってました」
トーヤは火照った頬に手を添え微笑む。
その仕草はどう見ても女性のそれ。
ジャックはトーヤの中身が本当に男かどうか疑い始めたという。
「酒ある?」
「ねぇよ。ってか、まだ飲むつもりか?」
ジャックはトウキに呆れつつも、彼女らを引き連れて喫茶店に入る。
そして、ゆったりとした時間を過ごした後に、すすきの要塞に帰還したのであった。




