15話 Extraスキル
すすきの要塞から南。
かつて苫小牧市があった付近にファイアピッグは生息している。
だが1日で、そこに辿り着くのに徒歩では無理があるだろう。
したがって、移動にはドッペルドール専用の車が必要になるのだ。
「わははっ! とばせ、とばせっ!」
「こらっ! 乗り出さないっ!」
平原を疾走する六輪仕様の車の姿。
それは小型化したかのようなダンプカーだ。
速度よりも馬力、頑丈さを追求した車であり、主にドッペルドールと資源の輸送に用いられる。
「はしゃいで壊すんじゃんぇぞ!? まだ、ローンが五年残ってんだからなっ!」
この車はジャックの所有物だ。
【DBC】、ドッペルバトルカーと呼ばれる戦闘能力を付加された車両は、腕が立つ者が運転した場合、超大型の猛獣と戦う際の切り札となろう可能性を秘めている。
基本武装は機関砲だが、カスタマイズで戦車砲も取り付けることが出来るくらいの設計余裕があった。
ジャックは余裕がないので初期設定のままだ。
彼は基本的に、DBCを移動用と割り切っているからである。
構造は運転席、助手席、荷物を積み込む後部可動ユニット。
機関砲はバンパーの位置に設置されている。
運転手はジャック。
助手席にデューイ。
後部可動ユニットにトウキとトーヤが乗り込む形となっている。
「いくら尻肉が分厚いとはいえ、座ってられないな」
「なんだよ? こんなに肉があるのにか?」
「揉むな」
むにむにとトーヤの尻肉を揉むトウキ。
その至高の柔らかさは手に吸い付いて離れないほど。
間違いなく、男を狂わせる肉であった。
「立ってればいいじゃんか。バランスを養う鍛錬になる」
「おまえと一緒にするな。バランス感覚は僕の方が優れている」
「なんだよー? 何が気にくわないんだ?」
「長い髪の毛が顔にへばり付くんだよ」
トーヤの髪は長い。
それが風に煽られて顔面にへばり付くのだ。
それはまさに【貞子】そのものであったという。
「髪を結べばいいじゃんか」
「今日ほど、それを怠った自分が恨めしいさ」
「やってやるよ。座れ」
トーヤはトウキの指示に素直に従う。
彼女の後ろに回ったトウキは癖一つ無いトーヤの黒髪を手にし、器用に編み込み始めたではないか。
そして、十分も経たないうちにトーヤの髪は見事な三つ編みに至った。
あの桃吉郎にこんな特技が、と思われるかもしれないが、彼は元々、料理人であり手先は器用。
そして、パイロットになる以前は指先の修業、と称し輝夜の髪を三つ編みにしていた経緯がある。
それを知っているがために、トーヤは自分の髪をトウキに委ねたのだ。
「ほれ、出来たぞ」
「相変わらず、そういう所には器用だな」
「自分はしないがな。わっはっはっ」
尚、三つ編みはトウキちゃんにも似合うが、彼女はショートなので結べない。
実に残念。
「あら~? なぁに? 益々、知的美人になっちゃって」
「髪が視界を塞ぐのでトウキに纏めてもらったんですよ」
「器用ねぇ~。私もお願いしようかしら?」
デューイはツインテールに飽きが来ている。
面倒だから、という理由で髪型の変更はしてこなかったのだ。
「お団子もできるぞ?」
「いいわねぇ。おねがいしようかな?」
だが、ここでジャックが待ったを出す。
「後にしろ、見えたぞ!」
前方に小さな赤い姿。
まだかなり遠くではあるがファイアピッグに間違いないだろう。
数は3。
纏めて狩るには少々厳しいか。
「あちゃ~、数が多いわねぇ。他、当たる?」
「何言ってんだよ。あれくらい仕留めれないで、なんのドッペルドールだ」
「そうですね、先制で僕が一頭仕留めます。残りをトウキが仕留めますので」
トウキとトーヤはやる気を見せた上に、確実に仕留めれる、と宣言まで出したではないか。
そのように言われては先輩として引くわけにもいかない。
「だってさ。残りは私がやればいいのね?」
「分かってきたじゃん、デューイさん。よっしゃ! モツ、ゲットするぞぉ!」
「「「おー!」」」
「おまえらなぁ……」
一人だけノリについて来れないジャックは、想定される最悪を予想し始め、それに備えるのであった。
狩りが始まる。
宣言通り、トーヤがスナイパーライフルの一撃でファイアピッグの眉間を撃ち貫いた。
ゆっくりと倒れる赤い豚。
倒れた振動で二匹が、何ごとか、と振り返る。
そこには既にトウキの姿。
恐るべき踏み込みで瞬間移動したかのように肉薄している。
「ちぇ↓すとぉっ↑!」
トウキは示現流ではないが掛け声は好きなので利用している。
ただし、トウキは声が甘ったるい系なので、ちょっぴり間抜けな感じとなった。
それでも結果はファイアピッグの首を刎ねるという形だ。
「うっへぇ、なんだよ、あれ?」
「あれが私たちの後輩よっ! 負けてられないんだからね!」
デューイも負けじと手斧をファイアピッグに投擲。
それは見事に赤毛の豚の顔面に突き刺さり右目を潰した。
しかし、命を刈り取るにには至らない。
「ジャック!」
「あいよ」
ジャックの得物は【弓】。
それも長弓と呼ばれる扱いが難しい物だ。
しかし、彼が放った矢は寸分たがわずファイアピッグの左目に突き刺さったではないか。
ジャックの恐ろしい技量に、トウキとトーヤも思わず感嘆の吐息を漏らす。
「すっげ」
「僕でも、あぁはいかない。凄いよ、彼は」
ジャックの生み出した好機を逃さないため、デューイは残った手斧を握り締め跳躍。
「おっりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
振り被った手斧を両手で握り締める。
その刃が緑色に輝いた。
Extraスキル【ハイチャージ】だ。
これは【攻撃力を通常の3倍にする】、というドッペルドールにとって羨望の眼差しともいえる特殊能力であり、これは現在、デューイしか取得していない希少なスキルである。
既にドッペルドール管理センターにデータを公表しているが、能力の再現に至ったドッペルドールは、いまだ現れていなかった。
ザシュッ、という音と共にファイアピッグのが真っ二つになる。
DL12の猛獣は、自分の持ち味を生かせぬまま食材へと成り果てるのであった。




