12話 英雄たちの失踪
各都市にはドッペルドールの精鋭部隊が存在する。
それらはドッペルエース部隊【DA】と呼称され、尊敬と畏怖を込めた眼差しが送られた。
そのDAが丸ごと消失する、という事件が起こる。
それは熊本のDAであり、DAの中のDAと称えられるほどの猛者たちだ。
この情報は日本を激震させる。
Dニュースでは、この報道で持ち切りであり、日本政府の対応も定まらない。
日本中が大混乱に陥っていた。
「屁ぇ出そう」
「止めろ」
だが、こいつらは平常運転だ。
すすきのレストラン・ラーメン横丁。
わざわざ屋台風に作られた座席にて、桃吉郎と凍矢はバターガイラーメンを食べていた。
そう、先日、彼らが狩ってきた猛獣が具となってるのだ。
塩ベースのスープは、あくまであっさりとした魚介系出汁。
コクは具材となるバターガイのバターを用いる。
ドッペルドールを焼く忌まわしい液体も、熱を冷ませば美味なる調味料へと変わるのだ。
具材はまだある。
ミサイルハサミの肉だ。
これは要するに蟹であるからして不味いわけがない。
そして、魚介系の出汁。
加えて塩味。
間違いなど、どこにあろうか。
麺は中太縮れ麺。
麺にスープが良く絡む。
勝利は約束されているのだ。
もちろん、バターガイの貝柱も具として参戦している。
これが、もっちもち、でありながら噛み締めると、じわ~、と奥深い味を吐き出す珍味である。
更に麺と一緒に咀嚼すると味に変化が生まれ飽きが来ない、という隙を生じぬ二段構えだ。
これだけだと、くどく、なるので柚子の皮を少々忍ばせてさっぱり感を演出。
また、尖った味を緩和させるために、または箸休めの為に半熟卵を具に加えている。
これを崩して黄身をスープに溶かすも良し、そのまま食べるのも良しだ。
無論、白米を追加で注文し、がつがつ、と共に食べるのもいいし、〆に余ったスープに加えて雑炊風にして食べてもいい。
「ぞぼぼぼぼぼぼっ! ……あ~、うめぇなぁ」
「スープと麺の相性がばっちりだ。どうして今まで、このラーメンが無かったのか不思議だな」
疑問を抱く凍矢に女性が話しかけてきた。
「それは、バターガイが貴重過ぎたからよ」
「む……その声は?」
「はぁい」
凍矢たちが振り向いた先には、ハッ、とするかのような美人の姿。
黒髪をお下げで纏めた日本美人が、タンクトップとホットパンツという刺激的な格好で微笑んでいた。
右目の無きボクロが彼女をより魅力的にさせる。
「トーヤちゃんて、リアルでも同じ顔なのね」
「まさか……デューイさん?」
「ご明察……というか、まさか……そっちのゴリラがトウキちゃん?」
「ゴリラ言うな。その通り、俺がトウキだ。しっかし、デューイさんも、とんでもねぇ美人だな」
うっへー、という顔は正しく、お互い信じられない物を見た、という証となろう。
「なんというか、男前すぎて咽るわ」
「俺としては本体で戦いたい。トウキちゃんは壊れそうで怖い」
「どういう返答を返せばいいのか分からないわ」
ムキっと力こぶを作る桃吉郎。
それに恐る恐る触れるデューイは「あっ……♡」というため息を漏らした。
どうやら、開いてはいけない性癖の扉を開いてしまったもよう。
「こほん、デューイさん?」
「あっ、うっうんっ! リアルでは【四国・美保】というの。よろしくね」
「俺は木花・桃吉郎だ」
「東方・凍矢です」
互いに自己紹介を済ませ、美保もバターガイラーメンを注文した。
「ねぇ、聞いた? 熊本のDAが失踪したって」
「聞きました。おかしな話ですね」
「そうなのよ。熊本のDAっていえば精鋭中の精鋭。日本の英雄たちよ? それが一部隊丸々行方不明ってあり得ないわ」
「ですよね」
熊本のDA部隊は総勢10名からなる精鋭部隊であり、これまで数々の輝かしい功績を残してきた。
確かな実力と的確な判断能力を有しており、彼らが一方的に壊滅することはあり得ない、というのが国民たちの見解である。
「働くのが嫌になったんじゃね?」
「おまえと一緒にするな」
「失敬な。俺は働くのが大好きだったぞ」
「おまえの場合はつまみ食いが出来たからだろ」
「バレたか」
桃吉郎は元料理人である。
その意外な過去を聞いた美保は大層驚いた。
「へ~、それじゃあ、桃吉郎君のお嫁さんになった人は、君の手料理を食べれるってわけかぁ」
「まぁ、そうなるな。自慢じゃないが俺の料理は一級品だぜ?」
「料理だけはな」
「うっせぇ。喧嘩だって一級品よ」
わっはっはっ、と笑う桃吉郎を見て、美保は「あぁ、その笑い方はトウキちゃんね」と朗らかに笑うのであった。




