117話 奇妙な獣
凍矢の正確無比な狙撃が獣の頭部を撃ち貫く。
百式火縄銃では威力があり過ぎて子供を巻き込みかねないので、初期からの相棒、狙撃銃【すずめ】は、いまだに現役である。
「よし」
「……とーやもっ」
続いてトーヤのビームライフルによる狙撃。
こちらも正確無比。
獣の頭部を蒸発させる。
「トーヤ、もう少し子供から離れたヤツを。子供が火傷してしまうよ」
「……あっ。そうだった」
ここら辺はまだまだ経験値が足りないか。
トーヤは狙撃の技術は姉に劣らないが、配慮の方は不足しているようだった。
「だが、あの獣はなんだ? 見た事も聞いたことも無い。やはり、外国の獣か」
「……きもいね」
「身も蓋も無いが、同意だ」
ボロの服を纏った子供を襲っていたのは、灰色の毛を持つ四つ足の獣であった。
パッと見は犬であろう。
しかし、その犬には人の顔が付いている。
いわゆる【人面犬】と呼ばれる怪異だ。
この怪異は人の顔に犬の身体という、ただきしょいだけの存在だ。
ぶっちゃけると顔が人のものなので、噛み付きの威力が格段に劣り、戦闘能力はゴミである。
だが、その怪異とは違い、この人面犬は完全に戦闘に特化しているであろうことが窺える。
四つ足の先にある三本の爪が異常に発達しており、まるでかぎ爪のようになっているのだ。
恐らくであるが大人の人間であっても容易に引き裂けるだけの能力を持っているだろう。
というか、持っている。
加えて、こいつは何がご立派であり、常時、発情している。
穴があれば、なんでも【ぶち込んでやるぜ】をもっとうにしている危険な存在だ。
尚、こいつらに雌は存在しない。
全てが雄である。
「がうるるるるっ!?」
突如として二匹の仲間を失った人面犬は子供から距離を置いた。
だが、子供を諦めたわけではない。
彼らにとって、子供はごちそうであり、決して諦めるわけにはいかない理由もあった。
「相変わらず、良い腕だぜ」
「ほんとにな~」
ズドン、しゅたっ、と二種類の着地音。
木花兄妹が先行して戦場に到着。
「なるほど……敵に回したくはないな」
……とっ、とほぼ音を立てずの着地音は御木本だ。
この三者の着地音から技量が推し量れるだろう。
桃吉郎はとにかく雑だ。
料理以外の事は、だが。
「じゃ、こいつらは駆除だな」
「おいしくなさそうだし」
桃吉郎、トウキはこの獣たちを食材として見ることが出来なかったようだ。
「珍しいな。食材にしないのか?」
御木本は刀を抜く。
「こいつらは自然由来じゃねぇ。嫌な臭いがプンプンしやがる」
「なんか、ゆがんじゃってるね」
「そうそれ。多分こいつら……【生物兵器】ってやつだ」
木花兄妹は身構える。
桃吉郎はエルティナを抜くまでも無いだろう、と判断。
獣に拳を突き付ける。
トウキの方はオーラウィップを構えた。
人面犬がキモいので触りたくないようだ。
「生物兵器か。日本でも開発が検討されていたが、ドッペルドール計画で白紙になったと聞く」
「こっちじゃドッペルドールが無かったから、そっちの方に傾倒しちまったんじゃねぇか?」
「その可能性は十分あるな。ならば、こいつらは遠慮する必要は無いか」
人面犬が飛び掛かって来た。
残っている人面犬の数は総数で8匹。
子供では絶望的な数だが、桃吉郎たちにとっては余裕であろう数だ。
「むんっ」
ぱんっ。
桃吉郎の軽いジャブで人面犬の頭部が爆ぜた。
頭を失った胴体がドス黒い血液を噴出させながら地面に落下する。
「やっ」
スパンっ。
トウキのオーラウィップが異形の犬を切り裂く。
気によって強化された鞭は変幻自在の刃と同じだ。
「ちぇすとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
御木本の上段の構えからの渾身の振り下ろし。
それは襲い掛かってきた獣のみならず、後ろで次撃を窺っていた獣二匹も両断してしまう。
最初の交戦で仲間を一気に5匹を失った人面犬は流石に形勢不利を悟ったか。
[にげろ]
と桃吉郎たちには聞きなれない言葉を口にした。
これはもちろんCN語である。
「む? 何か喋ったぞ」
「なにいってるか、わかんないけど、にげるっぽい!」
パンッ! トスッ! ぐちゃっ。
それぞれの音は後からやって来たジャックのハンドガンの発砲音、デューイのハンドアックスが命中した音、そして寅吉ちゃんのヒップドロップの音である。
[ありがとうございます!]
むっちり柔らかなトラ娘の尻の下敷きになった人面犬は上級者だった。
ダメージこそ殆どなかったが身体が動かない。
彼は紳士でもあったのだ。
この感触を余さず味わうために、自ら不動を選択したのである。
「うわっ、きも」
[もっとののしってくれ]
「よく分からない言葉を喋ってるっ!?」
が、その直後、何かが天より降ってきた。
ひゅうぅぅぅぅぅぅぅぅん……どぐちゃ。
結果、紳士は絶命。
その死因は、上空より輝夜にぶん投げられた見張の薄っぺらいケツによる圧死である。
例えるなら顔面に隕石が降ってきた、であろうか。
寅吉ちゃんの尻とは雲泥の差であることは言うまでも無く。
「下にクッションがあって助かりました」
「あっ、貴重な情報源がっ」
「私、また何かやっちゃいました?」
てへぺろを炸裂させる見張はもちろんダメージ無し。
肉壁役を任せれば、こいつの右に出る者はいないだろうが、見張りの場合はそれ自体が予期せぬ結果に繋がるで安定しないのが欠点だ。
なので、現状はただのお荷物でしかない。
「終わったな。おい、がきんちょ、怪我はねぇか?」
「……」
薄汚れた子供は年の頃が十歳程度に見える。
桃吉郎は出来るだけ優しく声を掛けたのだが子供は怯えに怯えた様子を見せた。
その理由を桃吉郎は子供の下半身を見て察する。
「ちっ……デューイさん、任せた」
「ふぅ……OK」
デューイも事情を察したようであり、子供に優しく声を掛ける。
すると今度は警戒する様子を見せず、安心したのか大泣きし始めた。
「取り敢えずは艦に撤収かな」
「そうだな。この子の容態も気になるところだ」
子供は少女だった。
見た目は幼く見えるが、実際は18歳である。
「この子、酷く憔悴してる。早く、栄養がある物を食べさせて休ませないと」
「そうだな。輝夜、見てるんだろ?」
桃吉郎は右耳に手を当てる仕草を取る。
『うん。お粥を作っておくわ』
「たすかる~」
こうして、無事に少女を保護した桃吉郎たちは艦に戻ろうとした。
『ジャック』
「どうした、ドクター」
『その犬っころの体の一部を持ち帰ってくれんかの』
「うえっ、食うのかよ?」
『桃吉郎と一緒にするでない。それが気になってな。解析したいんじゃよ』
「そういうことか。了解した」
ジャックはドクター・モモからの指示を受けて人面犬の体の一部を回収。
こうしてCN国に置ける最初の戦闘は終わりを告げた。




