113話 日本を離れるからこそ
進路をCN国に取った戦艦イズルヒ。
戦士たちにとって束の間の休息となるだろう。
当然ながら、よく運動した後は腹が減るという物だ。
「輝夜~! めし~!」
「めし~!」
桃吉郎兄妹が食堂に入った瞬間、大声で食事を催促する。
「はいはい、もう出来てるわよ」
だが、そこは桃吉郎たちと付き合いが長い輝夜だ。
彼女は既に仕込みを終えて大皿に山盛りにした料理を運んで来た。
それは暑い日には最高の料理【蕎麦】である。
「おぉっ! 蕎麦か! いいね!」
「おそばー!」
「沢山茹でてるから遠慮なく食べてね」
「「いっただきまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁすっ!」」
桃吉郎兄妹は山盛りの蕎麦に突撃した。
箸で蕎麦を手繰り寄せてお汁にチョンチョンと少量付けて、ぞぼるりっしゅっ、と啜る。
噛み締める、と蕎麦の清涼感溢れる香りが鼻腔を疾走し、爽やかに外へと駆け昇って行ったではないか。
「良い香りだっ」
「いいにおいっ」
更に蕎麦を咀嚼する。
お汁のさっぱりとしているが濃厚な味は、よくしめた冷たい蕎麦には最適解だ。
噛み締めれば噛み締めるほどに、後からほのかな蕎麦の甘みが顔を覗かせる。
「うみゃー!」
「おいちぃ!」
桃吉郎兄妹は他のメンバーが席に着く前に山盛りの蕎麦を完食してしまった。
「「おかわりー!」」
そしてこれである。
「おまちどうさま」
だが、これだ。
輝夜は既に未来を予想済みである。
再び、同じくらいの量の蕎麦を持って来たではないか。
「「わぁい!」」
「今度は野菜かき揚げも付けたわよ」
「「うひょうっ! やったぜ!」」
今度は蕎麦にかき揚げ天ぷらが添えられていた。
それは極シンプルな天ぷらであるが大きさが酷い。
なんと、フリスビーほどもある大きさだ。
投げたら手元に戻って来そうである。
「こいつには、先ず塩だな」
「とうきは、てんつゆに、だいこんおろしっ!」
「馬鹿だなぁ、そんなことをしたら衣が【ふにゃふにゃ】になっちまうだろ?」
「あー、そっかー。にーちゃは、あたまいいな!」
「ふふん、まぁな」
「だが、ことわる!」
トウキはちょっぴり反抗期なのかもしれない。
結局は自分の意志を貫いた。
「にーちゃっ! ころもが、ぜんめつしたっ!」
「だから言っただろうが」
結局、トウキは桃吉郎のかき揚げ天ぷらをちょっぴり分けてもらい、サクサクほこほこ感を堪能したという。
実にお馬鹿な娘である。
「相変わらずよく食うな」
ジャックは、このタイミングで輝夜が蕎麦を出してきた事に事情を察する。
蕎麦という物は大量に水を使う料理だ。
だが、戦艦という限られたスペース、備蓄で大量の水を消費するというのはよろしくない。
だからこそ、日本を離れる最初食事くらいは蕎麦で門出を祝おう、という粋な計らいをしたのだ。
「(暫く蕎麦ともお別れだな)」
ジャックは感慨深そうに蕎麦を啜った。
「……ほぅ、美味い」
御木本は和食好きで特に蕎麦をこよなく愛している。
それは、趣味で自ら蕎麦を打つ、という行動にも表れていた。
そんな彼が美味い、と迷うこと無く言うのだから、輝夜の蕎麦打ちの技術は大したものであろう。
もちろん、蕎麦汁も自作している。
「トッピングも色々あるわね。私は山かけでお蕎麦を頂くわ」
デューイは戦闘の緊張からか、あまり食欲がないようだった。
そこで彼女が選んだ物は山かけだ。
つるつるの蕎麦に、とろとろの山かけが絡んで喉越しは最高。
一切の引っ掛かりも無く、するりと蕎麦が食道を駆け抜けてゆく。
「あ、気持ち良いわ、これ。これなら問題無く食べれそう」
デューイは、するすると山かけそばを堪能、完食へと至った。
「僕は納豆で」
寅吉ちゃんは納豆をチョイス。
ぬるぬる、ねばねば、とる~んの豆と共に蕎麦をいただく。
「あっ」
だが、ねろねろのお豆が彼女の股間にぽろりんちょ。
いまだに彼女は全裸である。
―――――いや、服着ろよ。
「私が綺麗にしてあげる!」
「いや、あたしが!」
熊谷と明星の醜悪な争いが勃発した。
「寅吉ちゃんの豆は私がいただく!」
「させるかっ!」
おまえら、いい加減にしないと消されるぞっ!(震え声)
「食堂では静かに」
「「ずびばぜん」」
だが、我らが凍矢がこの変態たちを制圧してくれた。
「まったく……というか君も早く服を着なさい」
「服が無いんですっ」
「あぁ……そういえば」
凍矢はう~んと考え、そして……。
「眼鏡なら」
「あっはい」
凍矢はスペアの眼鏡を寅吉ちゃんに渡し立ち去った。
そして、寅吉ちゃんは褐色全裸トラ眼鏡娘へと進化した。
もちろん、何の解決にもなっていない。
「さて、僕は【おろし蕎麦】にしようかな」
「……とーやもっ!」
凍矢姉妹は、さっぱりが加速するおろし蕎麦を選択。
大根おろしの、しゃきり、しゃくしゃく感が心地いい蕎麦だ。
ただ、輝夜の場合はちょっぴり辛みのある大根おろしを用意する。
「んふ~……爽やかさと舌に残る程よい辛みがいいな」
「……んう~、からい」
どうやらトーヤにはちょっぴり辛かったもよう。
まだお子様の舌であるようだ。
「なら、かき揚げ天ぷらを乗せてぶっかけにするといい」
「……あ、からくなくなった」
トーヤは姉に感謝の気持ちを込めて、彼女のおっぱいを擦った。
「なんで擦った?」
「……おおきくなるようにっ」
「はしたないから止めなさい」
「……ぶぅ」
トーヤ的には親切心だったのだが、それを拒否されてしまい、ちょっぴりおこ状態に。
凍矢にしてみれば、胸はこれ以上、大きくなってもらっても困るのだ。
だが、無情にもおっぱいはすくすく成長中である。
「あー、美味い!」
「うまーい!」
桃吉郎兄妹は他の面々が満腹になっても食べ続けている。
この二人だけ胃が異次元と繋がっているのだろう、と思わせる食べっぷりだ。
とはいえ、船の食糧事情があることを知っているので、ここで二人は食事を終える事を決意する。
「ごちそうさまでした! ふぅ……腹一分目ってところか」
「とうきしってる! しょーしょく、ってやつ!」
「トウキは賢いな!」
「もっと、ほめて!」
わしわし、とトウキの頭を撫でる桃吉郎はお兄ちゃんしている。
というのも彼自身、兄弟がいたらなー、と思っていたので、トウキの爆誕は素直に嬉しかったのだ。
「あら、もう食べ終わったの?」
「お、輝夜。ごっそうさん。いや、俺たちが食べ過ぎるとさ……」
「よかったのよ? ほら……」
輝夜が指差した方角を向く。
そこには全裸の少女たちが白目をむいて痙攣しているではないか。
「【蕎麦娘】よ。身の危険を感じると髪に蕎麦の実を付けるの」
「ちょ―――おま―――――」
流石の桃吉郎もこれにはドン引きである。
蕎麦娘はお米シャワーの親戚に当たる種族であり、長い黒髪に蕎麦の実を蓄える。
それは、捕食者から身を護るために備わった機能であり、襲われた際には実を切り離し、注意を引いている間に逃走するというものだ。
この蕎麦の実は危機が迫ると一瞬にして生成される。
「うふふ、私がちょっと【お願い】したら、たぁくさん作ってくれるから遠慮しなくてもいいのよ? ね……蕎麦娘ちゃん?」
「「「「ぴぃっ!?」」」」
輝夜の暗黒微笑によって蕎麦娘は遂に泡を吹いて失神した。
後には大量の蕎麦の実が残されたという。
この輝夜を見て戦士たちは誓った。
絶対に彼女だけは敵に回してはいけないと。
そんな、旅立ちの食事であった。
尚、艦橋を離れられないドクター・モモたちには沢山の薬味が入った【薬味蕎麦】をコウサクンに運ばせている。
蕎麦の上に葱、茗荷、鰹節、海苔、温泉卵を乗せて蕎麦汁を回し掛けた物だ。
三人はレーダーの敵反応に注意を払いながらも、ぐりぐりと薬味蕎麦を掻き混ぜ、豪快に薬味蕎麦を堪能する。
「おぉ……このピリリとした味が堪らんのう。茗荷の独特の風味も心地ええわい」
「さっぱりしているけど、温泉卵の黄身のお陰でどっしり感を感じられるんだな」
「あっ、これいいっ! ヘルシーだからダイエットに良いかもっ!」
どうやら大満足だったもよう。
「あー、このポジション楽で良いわ」
「かっかっかっ、そうか? なら、ずっとここで働いてくれ」
「おっけー」
だがしかし、実は一番大変なポジションが【ここ】だったりする。
後からそのことに気付いた金林は【しくった】と悟るも後の祭りであったという。




