105話 船
「これが、反撃の要となる【船】じゃ」
「おいおい……こんなもんを現実に作る奴がいるかよ」
それを見上げるジャックは感心するよりも先に呆れた。
何故なら、それはボーイたちが一度は妄想するであろう巨大な【戦艦】だったからだ。
しかも、リアルではない、アニメよりの戦艦なら尚の事。
「へぇ……いいじゃん」
「じゃろ? この船の名は【イズルヒ】という」
「出日か?」
「うむ、そこから頂いた。人類の反撃にはぴったりの名じゃろ。かっかっかっ」
桃吉郎の眼差しは白とオレンジに塗り分けられた戦艦に向けられている。
だが、その間にもあわびを口に運ぶことは忘れない。
そして、ボリボリ、バリバリ、と喧しい。
「ちなみに、参考にしたモデルは【宇宙戦艦ヤ〇ト】じゃ」
「だろうな。違うのは色くらいなものだ」
流石の御木本も、この船の外観には苦笑していた。
実際にドクター・モモは海底に沈んでいた旧日本帝国の大和を秘密裏に回収し、この秘密基地へと移送、修理を行い、現状の姿へと大改造を行ったのだ。
「もう利権やらなんやらなんぞ知った事ではないわい。この時代にそんなことを主張する意味も理由も無いじゃろうしな」
「まぁ、そうではあるが節度というものは必要かと思われる」
「そういうのは人類が地上に戻って生活できるようになってからでええわい」
ドクター・モモは御木本の苦言をさらりと流し、トントン、と自分の腰を数度叩いた。
本当にこの老人は形振りを構っていない。
デザインに悩む時間すら惜しかったのである。
「(やれやれ、なんとか間に合ったわい)」
大量の工作ロボットを24時間フル稼働させ、30年もの月日を費やして完成した規格外の戦艦。
それは人類の常識を覆す物になっているのは明白だ。
何せ常識を明後日の方向へぶん投げている狂科学者が、自身の全てを注いで作り上げているのだから。
「それでは、中に入るとしようかの」
「もう完成しているので?」
「八割、といったところじゃの。あとは道中で完成させるわい」
凍矢はドクター・モモのその言葉で、自分たちに残された時間はそう長くはない事を再認識させられた。
あの準備周到な老人が未完成の状態で作品を世に放つ、というのだ。
聡い者であれば、これがいかに危ういかを理解できるであろう。
もちろん、gorilla兄妹は理解してないし、するつもりもないもよう。
このタイミングで地上と地下を繋ぐ大型リフトが何かを乗せて下りて来た。
それは見覚えのある機械の獣。
輝夜の駆るAB-ウルフだ。
「タイミングがええの」
『おまたせ~』
鋼鉄の獣の外部スピーカーから輝夜の声が発せられた。
「船の後部に発着口があるから、そこにAB-ウルフを入れるんじゃ」
『おーけー』
「それでは、わしらも乗船しようかの」
ほれほれ、と手招きする老科学者は、長い階段を目指し歩いて行った。
その長い階段を見てゲンナリとするのは生身であるチームオーガの本体たち。
「むりむりっ、あんなの死んじゃうっ」
「なんかこう、一瞬で乗り降りできる装置は無いの?」
「あぁ……階段の中腹で力尽きそう」
熊谷、明星、金林は既に自力で登り切るつもりはないもよう。
「僕はやり遂げて見せますよ」
逆に闘志を燃やす寅吉君は流石男の娘だ。
本当に黙っていたら女の子にしか見えない。
でも、中身は立派な雄。
そして、ご立派な物も持っておられる。
「おめーは無理すんな。俺が担いでやる」
「せ、せめてトウキさんでお願いしますっ」
「ふははははっ、だが断る」
哀れ、寅吉君はgorillaに担がれ雑に乗船することになった。
これにより彼の反逆ポイントが1加算されることになる。
「そこの肉団子も担ぐか?」
「肉団子言うなっ! どうせまたおっぱいやお尻を握るつもりなんでしょっ!?」
「じゃあ腹肉」
「一番ダメな部分っ!?」
結局、自力で登り切る自信が無い金林は桃吉郎のお世話になることに。
がっつりと尻肉を、ぐわし、と握られ、ビクンビクン、しながら乗船した。
今は新たなる癖に目覚めて怪しい笑みを浮かべている。
「(筋肉gorillaに滅茶苦茶にされるのも悪くないかも)」
金林はもう駄目かもしれない。
そっとしておくのが吉であろう。
船内に入った桃吉郎たちが先ず通されたのは艦橋である。
「ここが、この船の中心となる艦橋じゃな」
「ほ~ん? アニメとは違って現実寄りのデザインだな」
モヒ・カーンは艦橋の設備に感心したもよう。
「本当は再現したかったんじゃが、そこは省いた。ただ、殆どをオートメーション化しておるぞい」
「故障した時が大変そうだな」
「そん時は腹を括れい」
「ひえっ」
ドクター・モモの通告にモヒカン野郎は戦慄した。
彼は唯一、飛行機の操縦が出来る。
つまり、この船の操縦を任される可能性が高いということだ。
実際、ドクター・モモはモヒ・カーンにこの船を預けるつもりである。
責任は誰よりも重くなるだろう。
この船が沈むというのは=人類の滅亡と同義なのだから。
「ま、ここの説明はこれくらいでええじゃろ」
「雑だな」
「説明したって分からん、となるのが関の山じゃ。知りたい奴は後で聞きに来るがええ」
「まぁ、それもそうか」
ジャックはドクター・モモに納得を示した。
万が一を考えてジャックは後で詳しく話を聞くつもりでいるもよう。
「ここが食堂じゃ」
「おぉ、広いな」
「といっても30人程度が不自由しない広さじゃがな」
「十分、十分」
桃吉郎は飾りっ毛が無い食堂に満足を示した。
ぶっちゃけ、こいつは飯が食えれば後はどうでもいいタイプであるからして。
尚、凍矢も基本的な機能が備わっていれば文句を言わない。
「もっと、かわいいがほしい」
「……どうい」
だが、彼らの分身たちは外観にこだわるもよう。
ここら辺は情緒が成長している証であろうか。
「かっかっかっ、自分たちで好きに整えるとええわい」
「やった」
「……くまさんのぬいぐるみでみたそう」
「ぞうさんも!」
「……はかどる」
女児の発想そのものであろう。
しかし、こいつらはやるといったらやる、という凄みがあるので油断してはいけない。
後日、【食堂ぬいぐるみ事変】が起こるのだが、これはまた別の話で。
「んで、厨房を預かるのはもちろん?」
「うむ、輝夜じゃよ。一応、食材はたんまりと貯蔵しておるが、おまえがいると一か月持たんじゃろ」
「そこら辺は心配すんな。しっかり調達してくっからよ」
桃吉郎は、むきっ、と力こぶを作り安心感を演出した。
それに反応するのは筋肉愛好家の凍矢のみではなく。
「(凄い筋肉だ。僕もいつか)」
寅吉君の感想である。
「(整った筋肉だ。しっかりと鍛錬しているようだな)」
ムラムラしている凍矢の感想である。
「(しゅごいぃぃぃぃぃっ! あの筋肉で乱暴されたら一発で妊娠しちゃうかも!)」
おかしくなった金林の感想である。
「遠慮はいりません。今すぐ私を孕ませてもいいのですよ?」
変態の感想である。
というか、どこから入ってきた?
「なんかいる」
「ふっふっふっ、あなたを見張ることが私の仕事。であればどこにでもいるのがこの私、見張・益代なのです」
「よ~し、摘まみ出そうぜ」
「あぁっ、これから乱暴されるのですねっ? エロ同人誌みたいにっ!」
見張はスタンバイOK、色々と分泌している。
「もうええわい。今更じゃ」
「いいのか?」
「ついてきた事を後悔しても、もう遅いからの」
にまぁ、と暗黒微笑を浮かべる老科学者に、流石の見張もちょっぴりビクッとした。
しかし、こいつは真の変態なので、恐怖を快楽に変換してダメージを無効化したではないか。
「おっふ、言葉責めも良い物ですねっ!」
「かっかっかっ、エティル、こいつ食って良いぞい」
「やですよ」
アナザーにも拒否される変態は無敵かもしれない。
しかし、こいつが大量生産されたらそれこそ人類が危うくなるだろう。
「え? その娘、調理しちゃう?」
「ひえっ」
暗黒の闘気を垂れ流し、厨房から顔を覗かせる黒い何か。
それはもちろん、そこの主である輝夜だ。
「大丈夫、痛いと思う前に全部終わるからね?」
「あー、いえ、間に合っております」
「どうして? 桃吉郎と一つに成れるのよ? 胃袋の中で永遠に」
ガンギマリで近付いて来る輝夜に、流石の見張も命の危機を覚えた。
その手には輝く包丁。
マジで調理されると思った見張はジャンピング土下座。
「調子乗ってましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「うふふ、次は無いわよ?」
そう釘を刺した輝夜は見惚れるほどの微笑を湛えて厨房へと引き返していった。
変態を上回る狂気がそこにはいたのだ。
「流石は輝夜だな」
そして、このgorillaである。
「なんですか、あの美人っ! 犯したい! じゃなくて、ヤバすぎです!」
「コックの輝夜だ。あんまり怒らせるなよ? 飯が残飯になりたくなかったらな」
「美人の残飯なら大歓迎です」
「つえーなこいつ」
見張のドン引き発言に、流石の桃吉郎も呆れた。
恐るべきは見張のタフネスだ。
こいつはフィジカル、スピリチュアル双方共に耐久力がカンストしている。
生粋のドMでもあるので手に負えないだろう。
輝夜の脅しも見張にとってはご褒美。
だが、命の危機は覚えたもよう。
「メシの心配は必要無かろう。あとは各々、艦内案内図を見て把握せい」
「急に雑になったな」
「重要な場所だけ説明できればええわい……とそうじゃった。もう一つあったわい」
桃吉郎のツッコミによってドクター・モモは一つの案件を思い出したもよう。
ついて来なさい、と誘導した先には機械仕掛けの厳重な扉があった。




