104話 秘密基地
崩れかけの売店へと入った凍矢たち。
店内には彼女たち以外の気配は無く、空の棚が幾つか見受けられた。
既に殆どの物資は持って行かれたのであろう、一見で使用できそうな物が無い事が窺える。
ここにあるのは壊れて使い物にならない品か、積もり積もった埃くらいだろう。
「ドクター・モモ、内部に入りました」
『よろしい。今、入り口を開くでの』
ドクター・モモがそういう、と売店中央の床が左右に割れ、そこから昇降リフトがせり出てきたではないか。
そのリフトはまるで新品のような輝きを湛えている。
そして、リフトのコントロール部分には小型犬ほどの大きさの蜘蛛が、ちょこん、と乗っかっていた。
『ききっ』
「うわっ、なんだこいつはっ!?」
モヒ・カーンたちが蜘蛛にしては大き過ぎるそれに驚く。
しかし、桃吉郎と凍矢はそれを既に目の当たりにしているので驚いた様子は見せなかった。
『それは万能工作ロボ【コウサクン】じゃ。わしの手足として働いてくれておる』
「これが機械? あぁ、うん。よく見たらロボットだな」
『ちゃんと可愛らしくデザインしておるじゃろうがい。わしが本気で作ったらマジデザインの蜘蛛ロボットを作るぞい』
これに女性陣たちが全力で「止めろ」と主張した。
『きー』
「はやくのれっていってるー」
コウサクンの苦情にトウキが通訳を挟んだ。
どうやら、彼女はコウサクンの言葉を理解することが可能なもよう。
もちろん、その能力はトーヤも所持しているだろう。
「きー、しか言ってないのに分かるのか?」
「わかるー」
「そ、そうか。トウキは賢いな」
「えへへー」
ジャックは年の離れた妹を扱うかのようにトウキに接していた。
そのため、トウキに懐かれているもよう。
デューイもジャック同様にトウキを可愛がっているため懐かれている。
だが、御木本は基本的に厳しいので懐かれてはいない。
しかし、慕われてはいる。
誓い表現で、厳しい父親、といったところだろう。
尚、モヒ・カーンは、ダメアニキ、という認識で一致しているもようで。
「あわび、うめぇ」
「あー、とうきもー!」
「わかった、わかった」
ぎゃおー、とgorillaに張り付くトウキ。
微動だにもしない桃吉郎は苦笑しつつもトウキにあわびを渡した。
というか、兄妹そろって火を通さずにあわびを丸齧りするのは豪快過ぎる。
リフトには、ごりごり、ぼきぼき、という咀嚼音が響いていた。
『ききっ』
「……したにまいりまーす」
トーヤの【ぼそぼそボイス】は性格から来るものだろう。
元となる凍矢とは違い、引っ込み思案で恥ずかしがり屋の人格が形成されてしまったようだ。
しかし、【むっつりはスケベ】はしっかりと継承されているようなので安心して欲しい。
ガコン、とリフトが降り始める。
転落防止用の柵などは無く、ドクター・モモの雑さが良く理解できる構造だ。
もちろん、転落すれば大怪我、待った無しである。
「ふきゅーん」
そして、当然のようにリフトから転落する黄金まんじゅう。
桃吉郎のあわびを狙って飛び掛かった結果である。
「まんじゅうおちた!」
「気にするな」
「わかった!」
そして、この兄妹である。
やつは敗者じゃけぇ、の精神は兄妹共通なのだ。
やがて、リフトは最下層に到着。
「ふきゅーん! ふきゅーん!」
当然のように無傷の黄金まんじゅうが苦情をぶちまけている。
あわびを食べれなかったからだ。
「あー、もう。うっせーなー」
桃吉郎はあわびを珍獣の口目掛けて投擲。
小さな獣はそれを、はむっ、と口で受け止めた。
今はボリボリしている。
「ここは……」
「かっかっかっ、わしの拠点にようこそ」
「ドクター・モモ……どさくさに紛れて尻を触らないでください」
いつの間にやら凍矢の背後に回り、その大き過ぎる尻肉を撫でまわす老科学者。
これはスケベ心からではなく、彼女の肉体データを採取しているだけである。
……たぶん。
「うむ、順調のようじゃな」
「何がだよ。聞きたいことは山ほどあるが……とにかく、ここはなんだ?」
桃吉郎の不機嫌な顔を見てドクター・モモは肩を竦めた。
「言うたじゃろうが。ここはわしの拠点、その中の一つじゃ」
「そうじゃなくて、なんのためにこんなもんを作った?」
「そうじゃのう……世界征服とか?」
「マジか」
かっかっかっ、とドクター・モモは人を小馬鹿にしたかのような笑みを見せる。
もちろん、彼に世界征服の野望は無い。
やろうと思えばできるだろうが、それはドクター・モモになんのメリットももたらさないだろう。
ただそれが出来たのも、アナザーが襲来する以前の話だ。
「ここはの、反撃の狼煙を上げるために作った工場じゃよ」
「工場? それで、こんなに蜘蛛ロボットがいるのか」
ジャックは、あちらこちらでせっせと働くコウサクンの姿に納得を示した。
が中にはサボっている個体を確認できる。
外見は全く同じだが、どうやらそれぞれに個性があるもよう。
「それで、この工場でなにをつくっているのかしら?」
「ふふん、良い質問じゃぞ、デューイ。アレを見ろい」
ドクター・モモが指し示す方角には巨大な建造物の姿。
それには無数のコウサクンが張り付き忙しなく作業を行っていた。
「うおっ……ま、まさかっ!? マジかよっ!」
これにモヒ・カーンが反応、興奮し始めた。
「着いて来なさい」
桃吉郎たちは老科学者に言われるままに後を付いて行く。
そして、そこで彼の【野望】を目の当たりにすることとなった。




