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102話 最悪の未来と保険

『先ず、桃吉郎、凍矢。わしの実験に付き合ってくれた事に礼を言う』

「なんだよ、改まって。気持ち悪い」

「僕も同感です」

『社交辞令じゃ』


ドクター・モモはコホンと一息を入れた。


『トウキとトーヤは来たるべき日を迎えるために製造したクローン人間じゃ』

「それはドッペルドールと同じでは?」


凍矢のもっともな意見に一同は頷く。


『左様。トウキたちはドッペルドールであり、しかし、別の存在じゃ』

「おいおい、もっと分かるように説明しろよ」


当然ながら、桃吉郎の頭では既に処理できていない。


こいつにはもっと単純に、そしてストレートに説明しなければ理解してくれないだろう。


『人造人間……いや、【新人類】といえば理解できるか?』

「新人類?」

『そうじゃ。これからの地球に適応できる人類。それがトウキとトーヤじゃ』

「なんだよそりゃ? 俺たちだって適応できてんだろ」


桃吉郎の言い分にドクター・モモは納得を示す。


だが、彼は知っていたのだ。


桃吉郎でも、どうにもできない事があることを。


『力だけでいうならばそうじゃ』

「なら問題ないだろ」

『おまえは何分、息を止め続けることが出来る?』

「うん? 十五分くらいなら余裕だ」


十分過ぎるほどに変態的な肺活量である。


『たった、それっぽっちか。ならば、この先、おまえは死を待つより他にない』

「なんだと?」

『以前に教えたはずじゃ。アナザーは別世界の住人であり、その乗り物は確実に地球を変化させ続けている、と』

「そんな事も言ってたな。それが息を止める事と何の関係があるってんだ?」


ここまでの会話で、凍矢と勘の良い者たちは最悪の展開を予期してしまう。


それはドクター・モモの言う通り、息を十五分間止めたところでどうにもならない事態。


「ま、まさか……このまま地球が異世界に侵略され続けると、僕らの取り込む酸素が無くなってしまう、と?」

『凍矢の言う通りじゃ。正確には、このままだと地球人のための酸素が生産されなくなってしまう』

「馬鹿な……!」


衝撃の事実に凍矢たちは絶句した。


それはドクター・モモはこのような冗談を口にする男ではない事を理解しているからだ。


そんな彼が、こうなるというのだ。


これはそう遠くない未来の出来事であることを納得させる凄みが、ドクター・モモの言葉に含まれていた。


『今はまだ、息苦しいということはないじゃろう。じゃが、後一年以内に呼吸もままならなくなるぞい』

「おいおい、ドクター・モモ。これは本部の連中も知っている情報なのか? まさか、あんたのところで情報を止めてんじゃないだろうな?」


ジャックの困惑気味の質問に、ドクター・モモは真摯に答えた。


『そんなわけないじゃろ。隕石を調べた際に真っ先に伝えたわい』

「それじゃあ、本部の連中はそれを知ってて秘密にしてるっていうのか?」

『知っていても対策が出来ないんじゃ。じゃから、どうしようもなくなった頃に公表して、ついさっき判明しました、と言い逃れするつもりなんじゃろ』

「最低だな」


ジャックは悪態を吐く。


そもそも、この事態をどうにかできるドクター・モモを僻地に追いやっている時点で、本部がまともではない事は理解に及ぶところであろう。


「それじゃあ、私たちはこのまま窒息して絶滅するってこと?」


デューイの声は微かに震えている。


それでも、この問いかけをしたということは現実を受け入れる覚悟を決めたということだろう。


『そうじゃな。このまま何もしなければ。いや、何かをしたとしても遅すぎる。人工の酸素を作ることも考えたがのう……結局は無駄に終わったわい』

「そんな……」


ここで御木本が口を開いた。


「そのためのトウキとトーヤか?」

『左様。この子たちはアナザーの細胞を組み込んだ特別製じゃ』

「なんだと?」

『そこにアナザーの協力者がおるじゃろがい。彼女から卵細胞をちこっと貰っての。色々と弄ってトウキとトーヤを作り上げたんじゃ』

「……公にはできないな」

『まぁの』


御木本は呆れた。


だが、地球人が生き残るには、この方法も一つの手段であることを理解したという。


「んじゃあ、この子たちは【保険】ってことかい? 爺さんよ」

『そういうことになるかの、モヒ・カーン』

「なら、まだ俺たちが何かアクションを起こせば、未来は変えられる、ってことだよな?」

『多少はの』

「多少かよ」


モヒ・カーンはドクター・モモの回答に肩を竦めた。


「なら、これまでの僕らの活動は、全てトーヤとトウキを完成させるための実験だったと?」

『うむ。凍矢の言う通りであり、そして、それはトーヤとトウキの自立稼働によって完成を見たわけじゃ』

「ですが、この二人だけが生き残ってもどうしようもないのでは?」

『個体数を増やす、という観点じゃな?』

「はい」

『それも問題は無い。遺伝子バンクに溜め込んだ冷凍精子を用いれば個体を増やすことが出来る。無論、精子自体も手を加えてあるから旧人類が生まれる事もないわい』

「……」


既にここまで手を打っているドクター・モモに呆れる、と共に、もうどうしようもない段階にまで事態は進展している事に凍矢は絶望した。


「で、どうすれば地球の異世界化は止められるんだ?」


だが、桃吉郎はあくまで地球の異世界化を止めるスタンスであるもよう。


その目からは光が失われることが無かった。


『言うたじゃろ。もう手遅れじゃと』

「嘘だな。クソ爺の声には【何かを期待する】ものを感じた」

『……』

「答えろ、クソ爺。俺は何をすればいい?」


ドクター・モモは「ふぅ」と溜息を漏らした。


そして、一呼吸置いた後にこう告げる。


『一年以内に世界中に散らばる隕石。その全てをエルティナで喰ろうてこい。一片の欠片も残さずじゃ』

「余裕じゃねぇか」

『隕石だけならな。そこを護るアナザーをそこら辺の斥候と同じと考えるのなら、おまえは最初の隕石すら攻略できずに死ぬじゃろう』

「なんだと?」

『いいか、良く聞くんじゃ。隕石の守護者【マスタードラゴン】たちはエルティナと同じ力を持つ怪物じゃ。おまえがエルティナの真の力を使いこなさん限り、勝機は1ミリも無いと思え』


これに桃吉郎は臆したか。


答えは否だ。


「上等。いいじゃねぇか。燃えて来たぜ」


かつてない強敵に桃吉郎の闘争心が燃え上がる。


そんな男を見て、凍矢はやはり自分の相棒はこうでなければ、と自身も覚悟を決める。


「桃吉郎、僕も付き合おう」

「そういうと思ったぜ、相棒」


二人の回答に老科学者は溜息を吐いた。


しかし、同時にほくそ笑んだではないか。


『よかろう。どうせ、おまえたちの命じゃ、好きにするといい』

「そうするぜ。待って死ぬより、困難に立ち向かって死んだ方が良い」

「僕も同意だ」


桃吉郎と凍矢の決意に、しかし、ジャックたちは迷いを見せた。


何故なら、彼らには桃吉郎ほどの力が無いのは明白だからだ。


だが、そんな中でも御木本は違った。


「私も同行しよう」

「おう、あんたも来るか?」

「あぁ、このまま敵に好きにさせるのは性分ではない」


御木本には覚悟があった。


アナザーだろうと、同族であろうと、敵ならば討つという覚悟。


それはこの星を護りたいという決意の表れだ。


「……くっ」


ジャックは呻く。


自分が付いて行って何が出来る。


料理くらいしかできないではないか。


「お、俺も行くぜ!」


だが、それでも、何かできるはずだ。


ジャックは己の勇気の全てを燃え上がらせ同行を宣言した。


「なら私もっ!」


デューイはこれに倣う。


「じゃ、俺はパスで」


モヒ・カーンは速攻でリタイア宣言をした。


『おまえは同行してもらうぞい』

「なんでだよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」


モヒ・カーンは自分の実力を理解した上で、足手まといにしかならない未来を予測した。


だというのにドクター・モモによって強制参加にさせられてしまったのだ。


『おまえさんしか飛行機を操縦できんじゃろがい』

「俺の馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! なんで免許を取っちまったんだ!」


隕石を一年以内に全て消滅させるには飛行機を用いての移動しかない。


しかし、ジャックは飛行機を操縦したことも無いし、それに費やす時間も無いに等しい。


だからこそ、モヒ・カーンは強制参加と相成ったのだ。


『ふふん、大バカ者どもめ。覚悟を極めろい』


ドクター・モモはこの結果に満足しているだろうか。


それとも――――――――。


結局は、ここにいる者たち全員参加の大博打と相成った。


果たして、桃吉郎たちは全ての隕石を消滅させ、地球人の未来を繋ぎ止めることが出来るのであろうか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゴリラ「酸素が無くたって多少息苦しいだけで問題あるまい?」 珍女「ふきゅん」 [気になる点] マリーフキュントワネット「酸素が無ければ窒素を吸えば良いのじゃ」
[一言] そこにいるアナザーの協力者の卵細胞って、つまり頭ドピンクエティルは2話前に娘にも等しい二人に男の捕食法の教育を施そうとした…って事…!?
[一言] 地球大ピンチ! Dr.「トウキやトーヤには がんがん子供産めるようにしたが それでも駄目だった」 凍矢「人を淫売に改造するな」火縄銃構え 桃吉郎「改造してもそんなに産めないよな…」 Dr.「…
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