100話 教育方針
即日、トウキたちの教育は開始された。
エティルがトウキたちに基礎となる常識を教えてゆく。
ジャックたちが注意深く見守る中、それは行われるだろう。
とはいえ、それはエティルの持つ魔法で一瞬にして完了した。
エティルは自信の額とトウキの額を合わせ、魔法を発動したのである。
そこにジャックたちが介入する隙など微塵も無く。
「はい、先ずは基本的な知識の導入が済みました」
とはいえ、それはあくまで幼子に知識を与えただけに過ぎない。
「あたまのなかがむにむにする」
「……ふわふわするねー」
トウキたちは覚えたての言葉を使い、早速、今の自分たちの状態を説明した。
「おぉ、まだ流暢とは言い難いが喋ってるな」
「うむ、驚異的な技術だが……本当に大丈夫か?」
御木本はこれに危惧を抱く。
本来、知識とは時間をかけて覚えてゆくものであり、このように短時間で詰め込むものではない。
彼が危惧するように、トウキとトーヤの脳には計り知れないほどの負荷が掛かっていた。
だが、それに耐えうる容量があることをエティルは確信し、このような強引な手段に打って出たのである。
尚、エティルが教えたのは真っ当な常識だ。
この後、真っ当ではない常識をドクター・モモが仕込む。
「上手くいきました。では、これから人格の形成に入りましょう」
「人格形成か」
「はい、ここからが本番です。この子たちが良い子になるのも、悪い子になるのも、私たち次第なのです」
「ふむ」
エティルの言っている事は真っ当であり真理である。
人間は教育と環境で善にも悪にもなる動物だ。
特に幼少期にどのような教育をされたかで大きく結果は異なるだろう。
「(やはり、武道を通じて厳格に育てるべきだろう)」
御木本の考えである。
「(やっぱり、可愛い、を徹底的に教え込まなきゃ)」
デューイの考えである。
「(先ずは命の尊さだろうな。それなら食を通じて教え込むのが良い)」
ジャックの考えである。
「(どうせ、俺以外は真っ当に教育するだろうし……それなら俺は世渡りに欠かせない小賢しさを教えてやる取るか)」
モヒ・カーンの考えである。
「(この子たちには自分の持つ武器を極限まで活かす手段を教え込まなければいけませんね。特におっぱいとお尻を効率よく魅せる方法を。あとエッチの仕方も♪ ええそうですとも、身体は遺伝子を求めるのです♡)」
エティルの考えである。
ダメだこいつ。
真っ当なのは姿だけで中身は見張とさほど大差ない。
凍矢ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 早く帰ってきてくれぇぇぇぇぇっ!
このままだとトウキとトーヤが変態になっちまうぞぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
しかし、無情にもトウキとトーヤの教育は始まってしまった。
それは一見、まともに見えて真面ではないものだった。
ただ言えるのは、恐ろしい速度でトウキたちが知識と技術を吸収していった、という点だ。
一度教えた事は覚えるし忘れない。
それを理解して技術に反映させる。
その成長速度に御木本は舌を巻いた。
「(よもや示現流を三日で習得するとは思わなんだ……!)」
今、御木本が教えているのは示現流の応用技術とその精神である。
それ以外は完璧に覚えてしまったのだ。
ジャックも料理の技術を完璧に覚えられてしまい、今は命の尊さを諭している最中である。
ただ、デューイとモヒ・カーンの教えは奥が深すぎて覚え終えるには時間が掛かるだろう。
そして、エティルは縄で縛られて転がされていた。
初日の時点でろくでもない事が発覚したからだ。
「よよよ……あんまりですぅ」
「まともだ、と思った私がばかだったわ」
「あ、でも、この縛り方はグッドです。興奮します」
「(トウキちゃん、トーヤちゃん、こっち向いたらダメよ)」
ダメなエルフは亀甲縛りで転がされていた。
ちょっとやそっとでは抜け出せないように気を払っている。
見張ほどではないが、こいつも相当なやつだ。
このような感じでトウキとトーヤは一ヶ月ほど真っ当な教育を受けた。
そう、桃吉郎と凍矢がたちが帰還するのに一ヶ月も掛かったのだ。
理由としては東京本部のドッペルドールの追撃を受けたという点。
そして、アナザーに狙われたという点が挙げられる。
寅吉君たちを連れていたという点も大きい。
彼らはドッペルドールが無いため戦う事が出来なかったのだ。
したがって、慎重に行動することを余儀なくされた。
輝夜の機転でドクター・モモに連絡を入れ、少し合流が遅れる事はジャックたちに伝わっている。
だからこそ、ジャックはトウキとトーヤにじっくりと教育を施す方針を取ったのだ。
そして、一ヶ月が過ぎたある日の事。
桃吉郎たちは帰ってきた。




