08 再訪
「精霊さんたちの間ではそんなことが……」
「あの件は、アルセリア国内でもかなり話題となっていましたし」
「もちろん私たちの研究所でも、重大な環境問題とされていたのですよ」
そうなんです、あれって世間で知られていることよりも大事件だったのですよ、フェリシルスさん。
その後、例の隠れヒューネちゃんファンの精霊さんたちがこっそり結界を解除しにくるっていう、
逆"ヒューネちゃん詣で"現象もありましたが、
生態系に影響しない程度になるまで精霊結界を減らしてくれたおかげで、
今ではすっかり元通りだそうです。
ただ、ヒューネちゃんのお怒りが解けるまでは、
リスト爺ちゃんがヒューネ湖近辺を出禁にされちゃって、かなりへこんでいるそうですが。
「フォリスさんの日常は、本当に賑やかで華やかなのですね」
えーと、華やかなのは、フェリシルスさんみたいな素敵な乙女さんが多いからですよ。
「まあ、相変わらず"乙女ハンター"全開なのですね」
勘弁してください……
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今日は、フェリシルスさんの魔灸の森再訪のお供をしております。
アウド村で待ち合わせして、我が家まで徒歩にて森を縦断。
特に注目している研究対象は無いとのことで、
まさに散策感覚の森歩きです。
ちょうど中間地点まで来ましたので、
そろそろ休憩しましょうか。
愛用の野営用品で、茶を煎れるくらいなのですけど。
「美味しいですね、このお茶」
ルルナさんがプランターで育てている茶葉だそうで、
今日の夕食後もお楽しみに、です。
「……フォリスさん、お願い、聞いてもらえますか」
……どうぞ。
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フェリシルスさんの真剣なお願いは、
精霊さんたちともっと交流を持ちたい、でした。
研究している自然生物学は、
魔物・動物・植物・地理・気象などが様々に影響し合う状況を総合的な見地から研究する学問。
ただ、先日の玉の輿事件の一件以来考えさせられていたことは、
自然生物学を名乗るなら、精霊さんや妖精さんという存在を抜きにしては、
総合的な研究として成り立たないのではないか、という疑問。
そして今回のクラゲ事件はまさにそれ。
うん、何となく分かります。
精霊さんたちは、こっちの社会活動には極力不干渉ですが、
この世界の自然の営みには干渉しまくりですものね。
ただ、ひとつだけ約束してほしいのです。
ヒューネちゃんのように静かに暮らしたい存在のことも考えてあげながら、
ロージュさんみたいな人懐っこい精霊さんたちと交流してあげてください。
「……はいっ」
「実は、ロージュさんとはすでに交流を始めておりまして、研究についてのアドバイスもいただいているのですよ」
それは良かったですね。
……良かった、のかな。
良かったってことで。
交流を進めること、リスト爺ちゃんはすごく喜ぶと思いますよ。
あー、ハグとかはしなくても良いです。
むしろ、癖にならないよう、催促されてもお預けの方向で。
「善処しますね」