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皆聴除人(R)  作者: alIsa
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第三話

 袋は突然のことに驚いて目を白黒させており、一寸後にようやく自分が歩道まで飛ばされてしまったことに気づきました。くらくらする視界の端にパンジーの植木鉢が見えました。どうやらパンジーが受け止めてくれたようです。

「ああ、パンジーさん、ごめんなさい。うう、まだ目が回ってるぞ・・・。吐き気もしてきた・・・」

「あんなにジャンプするからよ」

「ごめんなさい。嬉しくってつい・・・」

「嬉しいって、何がよ?」

「もう少しで人間に拾ってもらえることがですよ」

「だからそれの何が嬉しいの?」パンジーは少し語気を強めて言いました。

「だって、そうすればまた人間の家に戻れるんでしょう?」と袋は言いましたが、パンジーが何も言わないので不安になりました。「あの、何かおかしいこと言いましたか?」

「うぅん。それはアスファルトからそう言われたの?」

「はい、そうですけど・・・」

 視界の中心に据えたパンジーの顔が右へ動いては、また中心に戻っていました。パンジーは強い匂いを放ち、その中に少しだけ酸っぱいような甘ったるいようなにおいがして、頭を激しく揺さぶります。

「はぁ、アスファルトめ、また上っ面だけのいい加減な知識を吹いたのね・・・」と彼女は小さく吐き捨てました。

「おい!今また僕のことを馬鹿にした気がするぞ!?あと、袋さんにひどいこと言ってないだろうな!?」

 遠くからアスファルトがそう叫びましたが、パンジーは無視して袋に向き直りました。

「ねえ、一つ質問したいんだけどさ。君、生きたい?死にたい?」

 袋は次に自分の耳を疑いました。

「ええと、もう一度言ってくれますか?よく聞こえなくて」

「生きたいのか死にたいのか、どっちだって訊いてるの」

「・・・そりゃあ、死にたいわけ無いに決まってるじゃないですか。進んで死にたがる存在なんて、いやしません」と彼はむっとしながら答えました。

「そうかもしれないわね。でも、このままここにいたら、君は死ぬことになるわ」

 パンジーが自分を担いでいるようには見えませんでした。それに、興味のない相手だとしても適当なことを言ってあしらうような性格にも見えませんでした。きっと彼女は真剣だ。そう思うと袋は体中に悪寒が走りました。

「でもどうして?アスファルトさんはそんなこと言ってませんでしたよ?」

「そうでしょうね。悪気はないのよ、きっと。ただ知らなかっただけ。彼は人間によく手入れしてもらってるから、基本的に人間の行為について好意的に解釈しがちなのよ。ボランティアの連中についてもね。だから、人間に拾われたものは家に連れて行ってもらえる、なんて都合よく考えてたんだと思うの」

「じゃあ、僕がその人間たちに拾われたらどうなっちゃうんですか?」

「さっきも言ったでしょ?死ぬのよ。燃やされてね」

「燃やされる?」

「そう。体がどんどん熱くなっていくの。そして、最後にはバラバラになる」

 レジ袋は想像しようとしましたが、体が熱くなることもバラバラになることも、いまいち現実感がありませんでした。それよりもバラバラになったら意識はどこに帰属するのか、どこで考え事をすればいいのか、そういうことばかりが気になりました。彼の様子を見てパンジーは少し困ったような顔をしました。

「とにかく、燃えたら死ぬの。いい?裏を返せば、燃やされない限り君は生きていられる。別に理解できなくてもいいから、そういうものだと憶えておいて」

「分かりました。僕より物知りなパンジーさんの言うことですから。でも、それなら僕はどうすれば?」

「そうねえ・・・」

 パンジーは考え込みましたが、はっとして道路の向こうを見ました。レジ袋は不思議に思いましたが、自分の体が小刻みに震えていることに気づきました。小さく地面が揺れているのです。

「ねえ、あれ、あの大きなトラックが見えるでしょ?こっちに来てる。あれがここを通るときに空気を巻き込んで風を起こすから、それに乗って飛んでいきなさい。とりあえず、あの向こう、交差点の先にある街路樹を目指して飛ぶのよ。彼らは風を呼ぶことができるから、とびきり強い北風を呼んでもらいなさい」

 パンジーが早口でそう言いましたが、トラックはもうすぐそこまで来ています。袋はお礼を言いたかったのですが、パンジーが植木鉢ごと体を動かして彼を押したので、口を開くこともままなりませんでした。鉢が倒れる音はトラックのうなり声にかき消されました。トラックが起こした風に巻き込まれ、ゴァアアア、という音とともに袋は弧を描きながら上っていきます。トラックに引っ張られながら大きな声で言いました。

「パンジーさん!ありがとう!アスファルトさんにもありがとうって伝えておいてください!」

 パンジーは倒れたまま手を振りました。彼女が見えなくなると袋はトラックから離れ、体を傾けたり立てたりして操縦することでどうにか街路樹の側に着地しました。


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