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主要人物登場

 

「佐藤もバレねーようにやればいいのにな」

「そう言うな白崎。審議会の目から逃れるのは困難というものだ」


 俺に声をかけたのは、クラスメイトの千歳(りく)

 長身細身でイケメンという高校生として最高の初期能力を持っている男だが──


「佐藤も愚かなものだ。付き合うなら妹はあり得ないだろう?」


 ──どうやらセンス×のようだ。だから初期スペック高いんだろうな。。


 こいつは二次元妹系のアニメやエロゲに脳内を侵されてしまった悲しき生き物だが、それ以外はまともな人間であり、桜寮のルームメイトでもある。


 ちなみに担任の千歳椿先生の年の離れた弟だ。

 確かにあの姉を持つと、反動で空想の妹に甘えたくなるのかもしれない。


 そうなると、こいつはあのアラサー独身教師の一番の被害者かもしれないと思えて、無下に扱うことはできない。



 と、ここで、木刀を腰に差した男が俺たちに近づいてくる。



「……千歳よ、(それがし)も年下の女子を好く者……心持ちは分かる」


 分かっちゃ駄目だろ。


 ──武士言葉を使い、長い髪を後ろで束ね、前髪のあるポニーテールのような出で立ちの彼の名は、天王寺(てんのうじ)理央(りお)


 長いまつ毛を伏せてそっと微笑む彼は、これまた長身かつ凛々しい顔つきをした美青年で、絶対女子にモテるタイプだが、ここでは宝の持ち腐れ以外の何物でもない。

 細身だが千歳と違い、痩せているのではなく、筋肉質で引き締まった身体をしており、剣道部での日々の鍛錬がうかがえる。


 ちなみに気配を探る修行中らしく、彼は常に目を閉じており、目を大きく見開くことは滅多にない。そのため──


「……白崎よ、近頃──」

「天王寺、そこ机あるから気を付け──」


 ──ガタン! (天王寺が机に躓く音)


 ──ドンガラガッシャァァアン! (盛大に周囲を巻き込んで倒れ込む音)



「…………これも、名誉の、負傷……」


 ──このような迷惑な衝突事故を起こす室内テロリストとなっている。


「不名誉極まりねえ……」

「ああ、頭から突っ込んでいたぞ……」


 また、天王寺は木刀を帯刀できるように、手芸部にペラを積んで制服を改造したらしい。



 と、天王寺は、よろよろと立ち上がる。あ、血出てる。


「もう、また怪我してるよ。理央ちゃん大丈夫?」


 と、救急箱を片手にてくてくと天王寺に駆け寄っていくのは、我がクラスの保健委員、如月夜宵。

 小柄で小動物のような癒し要素を持つ男子だ。


 中性的な顔つきに、女子顔負けのきめ細やかな素肌とさらさらな髪に加えて、あざとさを感じさせない可愛い仕草と絶妙なボディタッチに癒しボイス、おまけに性格も非の打ち所がないという、全女子涙目の男の子である。


 欠点と言えば、勉強がとても苦手なことだが、それはもはや可愛さの一つとなっている節があり、このクラスで如月のことが嫌いな生徒は一人たりともいないと断言できる。


 共学だったら、女子にいじめの標的にされかねない可愛さであり、気弱な如月は理数科に来て正解だったのかもしれない──


『ああ、今日も如月たんかわええ……』

『癒されるなあ……』

『テイクアウトしたい……』

『俺の下半身を手当てして……』


 ──否、むしろ危険性が増したのかもしれない。


 このように、男ばかりで悶々とする禁欲生活を強いられるなか、暴動が発生しないのは、彼の貢献によるところが大きい。


「さすが“理数科の性癖ブレイカー”と言われるだけはあるよな」

「ああ。今日も迷える子羊たちをさらに惑わせているようだ」


 如月と一定時間接していると、あまりの可愛さに性別の壁なんてどうでもよく思えてしまう。


 それだけなら全然いい。いやよくはないが。

 さらに厄介なのは、如月のことが頭から離れなくなり、しまいには夢にも出てくるらしい。彼の祖先はサキュバスか何かだろう。

 ちなみに性別の壁を超越した次元に到達した状態を、理数科では敬意を表して、“博愛主義”と呼んでいる。


 このクラスには、如月の悪意なき手練手管よって、特殊性癖を開発されたのものが多い。


 クラスの隅に目をやると、


『見ちゃ駄目だ……見ちゃ駄目だ……見ちゃ駄目だ……』

『おいおい、早く素直になれよ』

『認めた方が楽になるぜ?』


 頭を抱えてうずくまり、精神を揺さぶられている、迷える子羊の姿が確認できる。


 だが、そんな脆い精神状態では太刀打ちできるわけもなく、


「あれっ? ねえどうしたの!? 頭痛いの!?」


 人の精神を失墜させる穢れなき堕天使夜宵がロックオン。


『うぅ……く、来るなぁ……』

「大丈夫? 熱でもあるのかな?」


 と、子羊の前髪をめくり、


 コツン……


 と、自らのおでこをあてがう。


「うーん、熱はないみたいだけど……大丈夫? 一緒に保健室行こっか?」

『……ふぁああ……』


 出してはいけない声を上げる子羊は、虚ろな眼差しで虚空を見上げる。


 もしかすると防衛本能が、視界から堕天使を外そうとしているのかもしれない。


 しかし、その程度の抵抗が、堕天使に通ずるべくもなく──


「ん? 大丈夫?」


 堕天使の両手が子羊の頬に優しく触れて、子羊を捕らえて離さない。


 そして、瞳を覗き込むように子羊をじっと見つめて──



 まるで大輪の向日葵が咲くように──ニッコリと微笑んだ。


『はうぅ……』


 子羊の精神が堕天使に(かす)めとられた瞬間だった。


「顔色は良さそうだし、大丈夫みたいだね……よかったぁ!」

『……しゅ……しゅきぃ……』



「たった今、性癖ブレイカーの慰霊碑に新たな名が刻まれた」

「せめて今だけは安らかに眠れ。合掌」


 俺たちは亡骸に手を合わせて、昇天した魂を弔った。

今日はあともう一話分だけ更新します。

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