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帰り道

そして、十分ほど大学について説明を受けた後、解散となった。

 ていうか、見学の付き添いで、青葉さんが付き添うのはとてもよくわかるが、どうして健もなんだ。

説明会には遅刻するし、言葉遣いも青葉さんとはかけ離れているし。

「おい、もう帰るけど、小堀お前、今日は溝内と帰れ」

 突然鈴木先生に呼ばれて、はっとした。そしてその台詞にもまたはっとした。

「は? 何でですか」

「お前と横田の二人ともを家まで送るのがめんどくさいんだ。お前と溝内、家真正面だっただろ。

 あ、頼んだぞ、溝内」

 ……ほんとに、この担任。懲戒免職にしてやろうか。

「おいっすー」

 健まで……どうしてそこでYESと返事するんだ。

「あ、でも俺自転車なんすけど、今日」

 よかった! これで鈴木先生の快適な車で帰れる。

「二人乗りして帰ればいいだろー。ははは。それじゃあな、行くぞ、横田」

 そう言って、そそくさと教室を出て行った。出て行きやがった。


青葉さん、あたし、健という奇妙な三人の教室は、奇妙な沈黙で包まれた。

「あー、青葉さん、すんません。今日亜紀と帰る流れになってしまったんで……」

 沈黙を破ったのは健だった。

「……いいよ、いいよ、そんな。また今度誘うから」

 決まり悪そうに青葉さんが微笑む。さっきとは違う、少し引きつった笑顔だった。

「じゃあ、あたし、レポート仕上がってないから図書館行ってくる。

 あ、小堀さん、今度はよろしくねー。それじゃっ」

「あ、はい……」

 返事をし終わったときには、青葉さんはもう教室から出て行っていた。

横にいる健を見上げる。くそう。また背が伸びてる。

 

 妙な沈黙。その間、あたしはずっと健を見上げていた。

「……そんな見つめんなよー。照れるだろ」

 突然にやりと笑われて、頭をポンポンとたたかれた。

「ちょっと健、背、何センチになったの? なんか尋常じゃなく大きくなってるね」

「あー、百八十八? だっけ」

「大きすぎ」

 昔はそんなことなかったのに、今はどうしてこう、すぐに沈黙になるのだろう。

「……あの、ごめんね。担任が勝手に……。あの青葉さんって人と約束してたんでしょ」

 健を見上げる。やっぱり、ちょっと変わった。

「あー、別に大丈夫大丈夫。それより早く帰んぞ」

「うん」


大学から少し歩いたところに、自転車置き場があった。

自転車で来ている人は多いらしく、健は自分の自転車を取り出すのに大変そうだった。

少し待っていると、自転車を押しながら健が来た。


帰り道、あたしの高校の話や、健の大学のこと。

ものすごく他愛ない話で、会話は途切れなかった。

さっきの教室での変な沈黙が嘘のようだった。

「てか、最近俺一人暮らししてんの」

 不意に言われて、驚いた。

「えっ、そうなんだ。だから最近見なかったんだね」

「そうそう。俺んちすぐそこなんだけど、何か食ってくか?」

「まじでーっ。行く行く。ちょっとお母さんに電話するね」

なんの躊躇もなく、行くと言ったことに、歳は離れているけど幼馴染だという甘えが生じてるんだな、と思った。

 電話はすぐにつながった。

「…あ、もしもしお母さん? 今日大学で健に会って」

『あらー。そうなの。久しぶりじゃない。どう? かっこよくなってた?』

 嬉しそうなお母さんの様子に、健を見ながら笑った。

「んー、普通? あは。あ、でさ、健今一人暮らししてて、ご飯食ってくかって言われたんだけど行っていい?」

 正直、ちょっとかっこよくなってたけど、何だか変わってない自分が悲しくなったので、あえて流した。

『いいわよー。お邪魔してきたら。ちょうど今日お米が少なくて困ってたのよ。

 ……何なら朝までいてもいいわよ、うふ』

 最後の十六文字に、ゴホッとむせてしまった。

「な、何言ってんのよ。すぐ帰るに決まってるじゃん。じゃーね」

 あわてて電話を切って、鞄に入れる。

「何あわててんだ? ……あ、ここ。着いた」

 言われて、ふと見上げると、目の前に大きなマンションが建っていた。


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