お久しぶり
車で二十分ほど行くと、一目で大学とわかるところに着いた。
通ってる高校の何倍もある。
中学生のときに違う大学だけど、見学に行ったことがある。
やっぱり大きいな。
門をくぐってまっすぐ進む。たくさんの建物があって、たくさんの人がいる。
一つの国のようだ。
「でっけーっすねー」
同じく遅刻数で学級委員になった横田くんがきょろきょろと辺りを見回しながら独り言のように言う。
「こっちだ。はぐれるなよ、めんどくさいから」
教職員だと思えないような適当っぷりだ。
先生の後をついていくこと数分。教室のようなところに入れられた。真っ白な、いかにも「講義室」のような場所だ。
「ちょっと呼んでくるから、お前らここで待っとけ」
ぶっきらぼうにそう言って、めんどくさそうに先生は教室を出て行った。
静かになった教室で、横田くんと二人。
「高校一年でさ、やっと受験から開放されたってのに、もう大学かよー」
ふいに横田くんが口を開いた。
横田くんとは中学校に通っていたときからの友達で、わりと仲がいい。
他愛ない会話で盛り上がっていると、ガチャリとドアが開いた。
とうとう大学の先生が来たか。少し身構えた。
しかし、教室に入ってきたのは鈴木先生一人だった。
ふ〜っと三人のため息が見事に重なって、先生がどかっと横田くんの隣の椅子に座る。
「何か、手が離せない用があるから少し待っててほしいとさ。もうすぐ来られ……あ、どうも」
言っている途中に、不意に開きっぱなしのドアから誰かが入ってきた。
「こんにちは。お待たせして本当にすみません。
私、今回の大学見学に付き添わせていただく、青葉です。
えっと、ほんとはもう一人いるんですけど……」
と、青葉と名乗るすらりとしたスタイルのいい女の人はドアの向こうを何度も見るようなしぐさをした。
現役大学生なのではないかと思うくらい、若くてきれいな顔立ちだ。何でもできそう。
「……すみません。もう少ししたらくると思いますので、先にはじめましょう」
何をしたらいいのかわからず、あたふたするあたしに、鈴木先生が満面の笑顔で青葉さんに挨拶する。
「お時間を頂いてすみません。担任の鈴木一雄です。
こっちは、遅刻など一回もしたことの無いような優秀な学級委員です。さ、自己紹介して」
すみませんね、優秀じゃなくてね。
「えっと、学級委員の横田です。今回はよろしくお願いします」
横田くんがぺこりと頭を下げる。
「こちらこそお願いします」
にっこり笑う青葉さんに、あたしたちは安心した。
「同じ学級委員の小堀です。よろしくお願いします」
横田くんがしたみたいに、あたしもぺこりと頭を下げようとした。
が。
ガラガラっ。と突然乱暴にドアを開ける音がして、三十度ほど曲げていた首をすっと戻した。
「すいませっ……。遅れました」
はあはあ、と肩で息をするその人は、まあ、紛れも無いあの人で。
「健?」
一応、疑問符をつけて聞いたけれど、間違いは無いわけで。
「え? あ! 亜紀、なんでお前……ここに」
よほど走ってきたのか、まだ息が切れている。
「おー。溝内、久しぶりだな、お前」
横から鈴木先生が入ってくる。表情はいつものぶすっとした感じに戻っていた。
「あっ。鈴木先生じゃないっすかー。お久しぶりっす」
「でもお前、ここの大学の先生じゃないだろ。生徒だろ。なんで青葉先生と一緒にいるんだ?」
先生が言うと、二人ともぽかんとした。
すると、やさしくきれいな青葉さんが、口を開く。
「あ、先生。私、先生じゃないです。ここに通ってる学生ですよ。
今回は私たち学生が付き添うことになっていますが……」
……はい。鈴木先生、馬鹿ですね。
「え? あ、そ、そうだったんですかー。いやーあはは。もう歳かなーなんて、あはは」
どおりで青葉さんが若く見えていたわけだ。
「えっと、じゃあ全員揃ったところで、今回の大学見学の資料を配りますね。
あまり重要ではないですが、一応目を通しておいてください」
と、青葉さんがあたしと横田くんと鈴木先生に薄っぺらい冊子を手渡してくれた。
「ありがとうございます」
受け取ると、青葉さんはにこっと笑ってくれた。なんだか安心する笑顔だ。