遅刻と何かの始まり
停滞していてすみませんでした……
更新再開いたします!!
部屋に戻ると同時にあたしはベッドへダイブした。
「…………ほんと、ばか」
分かってんのよ、と掛け布団にくるまりながら呟く。
あの時の、何だかためらったような声。
昔から、健があたしにに嘘をつくときの、小さなためらい。
『うん』と健は嘘をついた。
もう、あたしには自分の気持ちをどうすることもできなかった。
これ以上、揺さぶられるのは嫌だった。気持ちを確かめたくて、問い詰めたかった。
でも、それで健との関係が崩れるのはもっと嫌だ。
「……もう会いたくないよー…………」
嘘だけど。と、心の中で付け足す。
矛盾した気持ちがあたしの胸を駆け巡る。もうどうにもならない。
「とりあえず、寝よ」
そう言って、あたしはそのまま眠りに着いた。
※
「…………もうやだ」
始業時間は八時半。今の時間は八時十五分。学校までは二十分。
マッハで準備して、家を出る。出て行く寸前、リビングの時計を見ると二十分を指したところだ。
これ以上遅刻すれば、そろそろ生活指導だろう。
泣きそうな顔になって走った。
二分ほどで少し広い道に出る。のろのろと車が自分を抜かしていって、あたしはそれを恨めしげににらみつけた。
と、その車がとまる。
まさか自分の眼力で……と、あたしもつられて止まってしまった。そんな余裕はないのに。
運転席のドアが開いて、どこかで見たような明るい茶髪が目に入る。
「あ、やっぱ小堀ちゃんだー」
にっこりと優しい笑顔は見覚えがあった。間宮隆人。健のサークルの友達。
「間宮さん! おはようございます。
……あ、あたしちょっと急ぐんで、すいませんっ」
悠長に話している暇もないので、体制を整えて走り出そうとした。
ぐい、と腕をつかまれて「うげっ」と変な声が出る。
「遅刻か? 乗ってけ乗ってけー!」
楽しそうに笑う間宮さんをみて、ああ神だ、とあたしは思った。
「間に合う?」
ハンドルを操作しながら笑顔を絶やさず、聞く。
世の女の子もイチコロだろうなーと、勝手に思っていた。
「はい、ギリギリ……。ほんと、間宮さんがいてくれて助かりました……。
…………これ以上遅刻したら生活指導が」
「え、そんなにしてんの?! ははっ、まあ俺もそうだったけどね。
……てか、【間宮さん】なんて堅苦しいからやめて、な?
隆人でいいから! あ、もしくは隆人さん!」
楽しそうに笑うので、あたしもつられて笑った。
「じゃあ、隆人さん」
「おー、よく言えました。……あ、この間のサークルさー、
何故か俺だけアドレスと番号教えてもらってなかったんだけど、教えてよ」
思い出して、ちょっとふてくされたように言う。
そう、あの日何故か隆人さんだけアドレスを交換していなかったのだ。
るみさんや絵里さんが『こいつと関わりを持つだけで妊娠する』とか言い出したから。
そりゃあふてくされる、とあたしは苦笑いして携帯を取り出す。
隆人さんが左手で携帯電話を開く。赤外線通信の画面を出して、それをあたしにひょいと渡した。
「運転中だからね、やっといて?」
「……はーい、到着っ」
校門のすぐ手前で車を止める。八時二十七分。ギリギリセーフ。
「本当にありがとうございました」
車から降りて深々と頭を下げる。困ったような顔をして隆人さんは笑った。
「早く行かないと間に合わねーぞー。じゃな。またメールするから」
「はいっ。それじゃ」
ひらひらと手を振って、亜紀の後姿を見送る。
「……さーて、俺も講義講義っ」