学級委員
「あんたー。起きなくていいのー? もう八時まわってるけど」
声が聞こえてくる。お母さんの声。
空と同じ色のカーテンの隙間から、太陽の光がもろに顔に当たる。
……なんて、呑気なことを考えている場合ではない。
「ちょ……遅刻っ」
ハンガーに吊るしておいた制服をもぎ取る。乱暴に取ったのでハンガーが音を立てて床に落ちた。
制服を着ながら横目でデジタル式の目覚まし時計を見た。アラームの部分が「OFF」と表示されていた。
「ちゃんと7時に設定したのに!」
ベッドの下に放ってあったスクールバッグをひったくり、乱暴に部屋のドアを開けた。中途半端に開いて、出たときに小指を打ってなきそうになった。
どたどたと階段をおりる。すぐに歯磨きをして、お母さんが買いだめしているパックの野菜ジュースを手にとって玄関へ行く。
「行ってきます」
「行ってらっしゃ……
あら、あんた朝ごはん食べなくていいの?」
「うん、いらない。遅刻するから」
そう言って、ろくにお母さんの顔も見ずに家を出た。携帯電話を開くと八時十分を少し過ぎていた。
……遅刻決定だ。これでもう六回目だ。
猛ダッシュで学校に走るが、着いたのは八時四十五分で、三十分開始のホームルームには当然間に合わなかった。
「……遅れてすいません」
ガラリと教室のドアを開けると、案の定先生を含むクラス全員の視線があたしに注がれた。
「おお、やっと来たか。学級委員」
担任が笑顔で迎える。
「あはは、やっと来まし……」
……え。ちょっと。待ってくださいよ。
「あの、学級委員って何ですか」
「まあまあ、まずは座れ」
クラスのみんなを見渡す。何故か全員ニヤニヤしていた。
「学級委員、誰もやりたくないっていうから、今までで一番遅刻したやつを男子女子一人ずつ選ぶということになった。
女子は、仲原、上木、小堀が五回でじゃんけんにしようと言ってたんだが、小堀、お前今で六回目だ」
あははは、と笑い声が上がる。
前の席の仲原夕菜が笑顔でこっちをみる。
「亜紀、ありがとう。遅刻してくれて」
ぽかん、とした。
「え、じゃ、あたしが学級委員なんですか」
「そうそう、頑張ってね」
ぱちぱちと拍手が起こった。そして全員がニヤニヤしている。
「もういいや。はい、やります」
嫌だといってもどうせしなければならない運命なら、潔くあきらめよう。