京都へ行こう
こんにちは、乃崎です。
えっと、プロローグからかなり修正されてますが
ただ単に改行を減らしただけですので、話の内容は変わってません。
それでは〜!
沈黙が続く。どちらも何も言わない。何も言えない。
言いたいことはたくさんある。
あの写真はやっぱり青葉さんなの?
いつから付き合っていたの?
どうしてあの時抱きしめたの?
健にとって……あたしは何なの?
次から次へと疑問が浮かんでくる。でもすべて喉につっかえて出てこない。
「……亜紀?」
ためらいがちに聞く健の声は、どこかよそよそしくて、悲しくなった。
「どうした?」
でも、心配そうに聞いてくれる声を、もっと聞いていたかった。
離れていかれるのが嫌だ。
「……サークルの人達……元気?」
いろんなことを聞きたかった。だけど、声に出たのはこんな普通の言葉だけ。
自分が心底情けなくなって、泣きたくなった。
「おー、元気元気。あ、実はそのことでもちょっと用あってさ」
ふと、健の声に元気が戻った気がする。よそよそしさも無くなっていた。
「今度のゴールデンウィーク、二泊三日で京都行くんだけど! お前も来い。な?
皆やけにお前のこと気に入っててさ、お前連れてこないと俺だけ徒歩とか言われてんの」
「うわー、徒歩はきついね。ここ埼玉だし」
あはは、と笑う。健が楽しそうに言うのが嬉しくて、さっきの事なんか、どうでもよくなってしまう。
振り回されてるな、と思いながら、それでもいいと思う自分が悲しかった。
「だろ? 同情するなら来てくれ。宿もいい感じだからさ。なんなら宿題やってやるよ、皆で」
……最後の言葉で少し迷っていた自分の心が固まった。
宿題? やってくれるの? 行くしかないじゃん、そんなの!
「行く。絶対いく。宿題、お願いします」
電話越しにぺこりと頭を下げる。健の陽気に笑う声が聞こえてきて、嬉しくなった。
そして、日時と時間を聞いて電話を切った。
携帯電話の画面を見ると、「新着メール一件」と表示されていた。電話の途中に来たのだろう。
送信者は絵里さんだった。この人とはわりと仲良くて、メールもよくしていた。
件名【やっほー☆】
本文【健から誘われたー? 京都! 四条河原町で遊びまくりましょ♪
来なかったら健が徒歩で京都まで行きます(笑)
かわいそうだから来てあげてね。 サークルメンバー全員で待ってるから☆】
何気なく読んでいたメールだが、ふと最後の言葉が気になった。
「……全員、か」
ということは、青葉さんも当然来るのだろう。
青葉さんが悪い人ではないというのは分かる。あたしもたぶん、普通に出会っていたら、慕っていたと思う。
でも。
「……健の……好きな人……」
どうしても苦手意識が強くなる。
だからといって、どうしたらいいのかなんて分かるわけもなかった。
頭が痛くなってきたので、もう考えるのをやめて、お母さんに旅行のことを伝えに、一階へ降りた。
一回のリビングではお母さんがパソコンに向かっていた。
お母さんはプログラマーの仕事をしている。女手一つであたしを育ててくれたお母さんは、毎日忙しい。
ドアのところでぼーっと立っていたあたしに気づいたらしく、ふとキーボードを打つ手をとめて、振り返る。
「あら、亜紀。どうしたの? おなか減った? 残してあるけど」
そう言ってキッチンに立とうとするお母さんをちがうちがう、といってとめた。
「なんか今日はおなか減らないの。
それよりさ、さっき健から電話があって……」
そう言うと、キラリとお母さんの目が光った。光ったというか、輝いた。
「今度のゴールデンウィークに、健のサークルの人達と旅行行こうって誘われたんだけど……」
「行きなさい」
行っていい? と聞く前に、真剣な顔つきで言われ、うろたえる。
戸惑いの目でお母さんを見ると、口元を緩めて小さく笑った。
「そう……亜紀、あんたももうそういう関係になったのね、健君と……」
「はい?」
「それで? 式はどこで挙げるの? お母さん的には健君はタキシードが似合うと思うからチャペルがいいと思うんだけど」
おかしな方向に話が進んでいる。いや、進みすぎている。
「いやいやいやいや。お母さん、そりゃ式は挙げたいけども……って違う違う! そうじゃなくて」
「え? やっぱり袴のほうがいいの? うーん、でもあんたあんな着物似合うかしらね」
勘違いに勘違いが重なる。もうここまできたらお母さんは誰にも止められない。
五分ほどお母さんの勘違いに付き合った後、お母さんはふーっとため息をついて、改めてあたしを見た。
「ま、行ってきなさいよ。ちゃんと愛をはぐくんでくるのよ」
そういい捨てて、ふんふんと鼻歌なんか口ずさみながらパソコンへ向き直った。
「……まあいいや……。OKもらえたんだし」
精神的に疲労して、とぼとぼと二階に上がった。