サークル
13部分の「想い」、8月15日午前1時30分、本文少し修正しました。
「ねー、サークルってどんなことしてるの?」
健の後ろをついてきながら、何気なく聞く。
大学の廊下は高校のそれよりも広くて、綺麗だ。
あたしは高校の制服を着ているので、すれ違った人がちらりとあたしを見ることが多くて、少し恥ずかしい。
「サークルって言っても大それた事してねえよ。遊んでるだけ。仲良いやつと。……たまに旅行とかな」
「えーっ。旅行とか行くんだ。いいなあ。……高校ではありえない」
あたしは高校生になって、もう部活には入っていない。中学生のときは陸上部に所属していたけれど。
大学がどうの、高校がどうのとぺちゃくちゃと話しているうちに、健は一つのドアの前で止まって「ここだ」と振り返った。
そしてガラリと勢いよくドアを開けて、おはようございまーすと言いながら中に入る。あたしもぴったりと健の後ろに張り付いて後に続く。
「おー、健。おはよう……ん?」
健の後ろから首だけひょっこりと出すと、一人の男の人と目が合った。
「あ、隆人。お前も来てたのか、珍しいな。あ、こいつ亜紀っていうんだけど、俺の幼馴染的な」
隆人と呼ばれた人はにこりと微笑んで、はじめましてー、と軽く挨拶した。少し長めの明るい茶髪が少しゆれる。
あたしもつられて笑顔になった。いい人だな、となんとなく思った。
健が小声で「間宮 隆人っていうんだよ」と言ってくれた。
改めて部屋の中を見回すと、四人の人が大きなテーブルを囲んでいすに座っていた。女の人と男の人が二人ずつ。
隅のほうには何故か大きな冷蔵庫が置いてあって場違いだけれど何故か調和していて、おもしろい。
「ねえ、制服着てるけど、もしかして中学生?」
テーブルに座っていた女の人が一人、立ち上がってあたしの顔を覗き込んできた。
一重の瞳に綺麗なナチュラルメイクにセミロングの細くて黒い髪の毛はその行動と対照的に、おしとやかな雰囲気をかもしだしている。
……ていうか、高校生です。すみません、小さくて。
「小泉さん。こいつは身長百五十二センチという悲しいことにまだ成長期にも入っていないような外見ですけど、何とか高校生っす」
横で健がフォローしてくれた。……フォローなのか?
「えっ、あ、ごめんごめんっ。あははは。あたし小泉 絵里っていうの。一応溝内くんの先輩。ここで会ったのも何かの縁だし、覚えてね」
悪びれた様子もなく、にこやかに笑う。明るくて垢抜けていて、他人という感じがしない。絵里さんって呼んでねー、と言って、あははと笑った。
それから、健の後輩だという黒縁めがねで金髪に近い茶色の短い髪の毛で身長が百九十センチの柏木 良太さんと、健と同期の二重のぱっちりした瞳に少し明るい茶髪のロングの髪の毛のすらりとした中尾 るみさんが自己紹介してくれた。
「『小堀さん』なんて面倒くさいから、『亜紀ちゃん』って呼ばせてもらうね。あたし達のことも下の名前で呼んでよっ。
あたしらに気遣いとかいらないからね」
るみさんが微笑んで冷蔵庫からカルピスを取り出してあたしに渡した。
誘われるがままにテーブルに座る。健を見ると、笑いながらなにやら間宮さんと話していた。
「それより、芽衣まだ来ないな。いつもなら一番か二番にはきてるはずなのに」
ぱこんと携帯電話を開きながら柏木さんが言う。芽衣って誰だろう。何故だか分からないけど、少しだけ嫌な予感がする。
考えていると、突然「それではっ」という声が聞こえてきた。
「これより、今日の活動内容は何が良いか、多数決で決定したいと思います」
間宮さんが言い、健がホワイトボードになにやら文字を書き出した。
1・物質の分解と酸化の研究についてのレポート
2・万葉集と古今和歌集のそれぞれの成り立ちについての研究
3・そのまま楽しくお話
と書いて、満足そうにペンをキャップに収めた。
1と2はめまいがしそうな内容だ。ていうか、そのまま楽しくお話って何だよ!!
と、ひとり突っ込みを入れつつ事の成り行きを見る。
「はい、それではこの中から一つしたいものに挙手してください」
あほみたいに真剣な間宮さん。もしかして、大学生の人ってそのまま楽しくお話しするより、物質の分解を研究するほうが喜びを分かち合える、とか思っているのだろうか。だとしたら、あたしは大学生になりたくない。
……まあ、あたしのもしかしたらという考えは当然のようにはずれ、健は「3」の部分に大きく丸をつけた。
「んな、馬鹿なことしなくてもさー。何かまじでレポート書かないといけないのかって身構えたじゃん」
あははは〜、と絵里さんが呑気に笑う。あたしも大学生になれるんだ、と思った。
「何でいつもいつも講義についていくのでかなりの労力削られるのに、息抜きのサークルでまでそんなことしないといけねーんだよ」
自ら発案した間宮さんがへらへらという。
「あ、そうだっ。あたし、お父さんから旅行券何枚かもらったからまた皆でいかない? よかったら亜紀ちゃんも一緒に」
るみさんがひらりと旅行券らしきものを見せる。おっ、さすが旅行会社勤務の父の娘っ、と柏木さんが相槌を打った。
そんなこんなで楽しい時間が過ぎていく。
一時間ぐらいたっただろうか、旅行は沖縄だの、信州だの、まだ旅行の話で盛り上がっているとき、突然部屋のドアが勢いよく開いた。
「ごめっ……寝坊した……」
見ると息を切らしながらドアに手を突く女の人がいた。
あたしの嫌な予感が的中した。
「あー、芽衣、おそようございます」
絵里さんにそう呼ばれて、青葉さんは、にこりと笑った。