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想い

少し手直ししました。


 ピチチチ……、と鳥の声が聞こえてきた。

カーテンをさっと開くとそんなに高くはないけれどもう太陽は上ってきていて、空は白んでいた。

「……一睡もできなかった」

 ぼーっとして頭の中は思考回路がところどころ途切れていた。

ちらりと机の上の倒れた写真立てに目をやる。

 あれから、一度も見ていない。とても気になっていたけれど、見てはいけないような気がした。

「何なのよ……昨日のあれ」

 写真に向かって呟く。いくら思考回路が途切れていても、背中にまわった両手の感触はまだしっかりと残っていた。

 辛そうで、切なそうで、でもどこか無表情な健の顔を、あたしは忘れることができない。

 トクン、と心臓が痛くなった。ぎゅっと締め付けられる。

「…………」

 健に惹かれている。……たぶん。

あたしは「惹かれる」感じがどういうものか知らないから、この気持ちが本当にそうなのかは分からなかった。

小さいときお母さんに、「健君はおにいちゃんみたいね」って言われてたときも、何か違うって思っていた。

 五才も年上。振り向いてくれるわけがないって、子供心に小さな諦めがあった。

 「妹みたいな近所の子」でいいやって目を背けていた。

 何もかも、崩れるのが嫌だった。今まで、笑いあった日とか、慰めてくれたときとか、そんな幸せな日常を、

あたしのつまらない想いのせいで崩れてしまうのが、とても怖かった。

 崩れるくらいなら、そのままで、そのままでいい。

 でも、何か違う。違和感がある。それを「好き」という一つの気持ちで表すのは、難しい気がした。

「亜紀ー。起きてるか?」

 健の声。ドアの向こうから声がした。コンコン、とドアをたたく音とともに。

ドアまで早歩きで行って、ドアノブを引っ張る。

「おはよう。起きてるよ」

 健を見上げると、眠そうに欠伸をしていた。

「おー。おはよう。俺八時過ぎに大学行くんだけど、どうする?」

「どうするって……何が」

 言うと、健はわしわしと頭をかいた。そしてまた欠伸をした。

「今日は勉強じゃなくてサークルの活動なんだけどさ、お前も来る?

 活動つっても、お菓子食いながら雑談会みたいな感じだから、堅苦しくないし」

 な? とポンポンと頭をたたかれた。

「あたし高校生だけど……行っていいの?

 行けるなら……うん、行きたい」

 馬鹿みたいだけど、今はもう少し、健と一緒にいたいと思った。

 ……それにしても。

 きのうのことがあっても、全然変わりのないへらへら調。

健の心の中が分からない。分からせようとしてくれない。あたし、馬鹿だから。

「お前昨日、風呂入ってなかったよな。さっき沸かしておいたから入って来い。そのうちに朝飯作ってやるから」

「うん。ありがとう」

 今は、あたし自身の気持ちをはっきりするべきだから、健がどうのこうの、なんて言っていられない。



 お風呂に入ってすっきりした体で朝食を食べ終わると、健が買い置きしていた新しい歯ブラシを借りて、歯磨きをする。

洗面所のすぐ横には洗濯機があって、その上に腕時計が置いてあった。時計を見ると七時四十五分くらいだった。

「うお。もうこんな時間じゃん。もうそろそろ家出ないとヤバいな」

 隣で一緒に歯磨きをしていた健も同じように腕時計を見ていたらしく、少しもヤバいような雰囲気も出さずにへらへらと言った。


 健が特に持ち物は要らないと言っていたので、ポケットに携帯電話を突っ込んで、ほかのものはもう家に置いておくことにした。

「行くぞー」

 玄関のほうから健の呑気な声が聞こえてきて、ぱたぱたと廊下を走って声のほうへ向かう。

 ドアをあけて外に出ると、五月らしい暖かい風がふわりと少し湿ったあたしの髪を揺らした。



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