3 彼女の仕事内容
「私、恒星系保全係第二百十七区域担当で、この星も私の管轄なんですけど、一億年ほど前に私がこの星の保全の役目に入ったときには、もう荒涼とした『死の星』だったんですよね」
なんだ、なんだ……。恒星?保全?突然に話が飛び過ぎて……。
「文明の形跡があったんで元の状態に戻そうと、まずは文明形態を探るためにこの星の『記憶』を探りましたッ!」
ここで、彼女は例のライトノベルを掲げる。
「それで、この『歴史資料』の記憶を見つけたんで、まずはこれを再生しました」
「ちょ、ちょっと見せて」
「わお!」
俺は、彼女の手からライトノベルを奪い取った。
表紙のイラストには鎧をまとった少年、目の前の彼女のような格好をした美少女、いわゆる「魔法使い」然としたローブを着た、これもまた美少女……。
このラノベ。俺は読んだことがある……。
異世界に転生した少年が、転生先で仲間を増やしながら魔王を討伐する、よくある「異世界モノ」のひとつだ。
「それで、私はこの『歴史資料』に基づいて、この星の生態系、表層大陸、文明を再構成しました」
「この……ラノベに基づいて?」
「ハイッ!この星に散在する物質の『記憶素子』から事細かに読み出していくのは骨が折れますので、こういった文書をまず見つけ出して、それを媒介に再構成を展開するのが保全係の復興マニュアルですので」
「は……え?じゃあ、今、この星、地球は……」
「チキュウ……ああ、『地球』と現地の方はお呼びなんですね。ハイッ!地球は今、その文献のとおりの世界となっております!」
なんだって?!
「ラノベの世界観が……現実の地球に……」
「ですが……」
ここで、彼女は言葉を濁し始める。
「この世界、どうもおかしいな、と思ったんです。私も新人ながらに講習を受けたり、決して少なくない数の星々を見てきましたが、再構成したこの地球、生態系がおかしすぎるんですよね。他の種と気体振動を介して複雑なコミュニケーションをとれるような知性種の数が、炭素生物ごときにしては多すぎるんですよ。一種か、あるいは三種ぐらいまでが岩石型惑星では知性種存続の限界点ですね」
「気体振動……」
「あ、ああ……言語ですよ。今の私とあなたみたいに、言葉を話してコミュニケーションをとれるってことですッ!」
「話す……。あ、ああ……」
手元のラノベを見る。
確かに、このラノベの話では、エルフやドワーフ、フェアリー、翼人といった様々な種が……果てはモンスターの中にもしゃべるキャラクターがいた覚えがある。
俺は、ラノベのページをめくった。
まず序盤、不慮の事故死に見舞われた主人公がよくわからない空間で気がつき、女神……すぐに仲間になるキャラクターから、転生したこと、魔王を討伐してほしいことを告げられる場面。
そうだ、そうだ……こんな出だしだった。
「なんか、今の状況と似てるな……」
「あ、やっぱり……文字が蘇ってますねッ!」
文字が……蘇ってる?
俺の手元を覗き込む彼女の言葉に少し引っ掛かりを覚えたが、俺はそのまま、ラノベのページを手繰った。
だが……。
「なんだ?コレ……全部……白紙じゃないか」
「そうなんですよ。それを手伝ってほしいんですッ!」
それを……手伝う?
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