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1 俺の日常、最後の記憶

 まず、俺の、つまんない日常の最後の記憶までを話そうと思う。


 思えば、俺という人間は社会に合わない性質たちだった。

 小、中、高とクラスの中ではカースト最底辺。俺からクラスメートに話しかけることはなく、たまに話しかけられても面白いことのひとつも言えず、それで終わり。コミュ障ってわけだ。幸いにも、いじめらしいいじめは受けたことはないが、誰もが思い描くような、学生時代の青春などとはまったく無縁のまま、俺は高校卒業を迎えた。

 社会に出てもこの性質は変わらず、いくつものバイト先で、同じように俺は過ごしてきた。このコミュニケーション力の不足が原因でクビを言い渡されたバイトもある。社会は……俺にとっては生き辛かった。


 そんなある時、俺は職業の幅を広げようと、原付の運転免許を取得した。

 一日で取得できる、原付免許。免許証を手にした瞬間、俺は許されたような気がしたものだ。この資格を使って、ピザの宅配や郵便物の配達……それをしてもいいんだ……。俺は、この社会で生きていていいんだ。


 それからというもの、俺は苦労してお金を貯め込んではいろんな資格の取得に没頭するようになった。運転免許のコンプリート、二種電気工事士、危険物取扱者乙4、基本情報処理技術者、二級ボイラー技士、フラワー装飾技能士3級……などなど。お金と、勉強の時間をかけて、資格を取得する日々。

 俺は、なんとかかんとか、この社会でやっていけそうだった。


 最後の記憶の日。俺は大型トラックを運転していた。

 荷の積み込みと、運搬と、目的地にたどり着いてからの荷下ろし……。大型の運転免許と、フォークリフトの免許も持つ俺は運送業者にも気に入ってもらえていた。何より、外食バイトなんかに比べて人とのコミュニケーションが少ないこの仕事は、俺の性に合っていた。


 気分良く……なんなら鼻歌でも唄って目的地に向かっている途中……学校が付近にたくさんある交差点に差し掛かった時だ。


「あ、危ないッ!」


 横断歩道の信号が赤にも関わらず、ひとりの女子高校生が俺のトラックの前に飛び出してきた。

 俺はそれを何とか避けようと、急ハンドルを切った。


キキキキーッ!


 クラクションの音とともに、俺のトラックに向けて突進してくる対向車。それが、俺が最後に見た光景だ。


***


「……ん。あ……あれ?」

「あ、お目覚めになりましたか!」


 俺は体を起こして、周りを見渡した。

 トラックを運転していたはずなのに、俺は真っ暗な空間の中、寝そべっていたらしい。


「ここは……病院かな……?」

「ビョウイン……。なんだか分からないですけど、ここは『始まりの部屋』ですよ」


 可愛らしい声がここが病院でないことを否定する。その声の主はすぐそばに立つ……女の子だった。

 どういう作りなのか判らないけど、ところどころにピンクのリボンがあしらわれている、帯のような布を何重にも重ねて体に巻き付けているような……変に露出の高い格好。帯の端はふわふわと宙に浮いている。

 そして、その見た目。なんだろう、日本人とも外国人とも言えないけど、ハッキリと言えるのは「可愛い顔」。染めてでもいるのだろうか。不自然にピンクの長い髪。これもなぜだかふわふわと浮いている。目はパッチリと開かれて、瞳がうるうると輝く。ぷっくりとラインの綺麗なほっぺたには少し赤みが差し、浮かべている笑みは優しげだ。

 彼女の口元の笑みは解かれ、言葉が流れ出す。


「おめでとうございます!」

「……おめでとう?」

「あなたは、この世界に再生されました!」

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