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第8章 前編

長かったので2話に分割しました。ちょっと繋ぎが不自然ですがご容赦ください。

 「おいしいですね~!」

 「うんま~い!」

 じゃがいもの天ぷらを囓りながら、口々に絶賛する私と一絵。

 「そうだろうそうだろう、ばあさんの天ぷらは天下一品だからなァ。」

 「若いんだから沢山お食べよぉ、まぁ一番食べるのはうちの子なんだけどねぇ。」

 それに同意する老人と、くすくすと笑う老婆。それに対して瑠菜が、おばあちゃん止めてよ、と言いながら大きなサツマイモの天ぷらをあっという間に片付けている。

 何故私たちが瑠菜の家で美味しく天ぷらを頂いているのかというと、少し説明が必要になる。


 「ねぇ・・・これマズくない?」

 私は海上で、至極当たり前のことに気付いてしまっていた。

 「ここから陸地まで泳ぐのはかなり厳しいですよね・・・」

 瑠菜がそう同意する。一絵を救出して全てが終わった気になっていた。しかし陸地に灯る町の明かりを見る限り、ここからの距離はかなりありそうだ。そこまで瀕死の一絵を背負って泳いでいくのは、遠泳の金メダリストでも無理だろう。携帯は連中に取り上げられたらしく、そのせいで助けも呼べない。もっとも、取り上げられなかったとしても故障して使い物にならなくなっていただろうけど。そういうわけで、現実はかなり絶望的な状況だ。

 どうしようかと海の上でぷかぷかと立ち往生していると、腹の底に響くようなエンジン音が聞こえてきた。奴らが戻ってきたのか。そう思って構えるが、瑠菜の様子は少し違う。

 「この音は漁船です!もしかしたら助けてくれるかも!」

 そう言われてみれば、太陽が顔を出したせいか辺りが少しだけ明るくなっている。

 「おーい!」

 ありったけの大声を発する。すると、船が方向転換して私たちの方へと向かってくる。

 「大丈夫かァ」

 船から老人が顔を出す。漁師としての力強さが伝わってくるような、よく通る声だった。とにかく助かった、そう安堵するも老人の様子がおかしい。露骨に目をこすり、まばたきしてこっちを見てくる。

 「どうか・・・されましたか?」

 救助される側というのも忘れてそう尋ねる。

 「おじいちゃん!」

 「瑠菜がなんでいるだァ」

 意外なやりとりが目の前で行われた。

 

 瑠菜のおじいさんの漁船に乗せてもらい、陸地に帰った私達は、警察から事情聴取を受けた。

 私たちはあったことをありのまま話し、そして警察の人から私達の知らないところでなにがあったのかを聞いた。

 あの時私達は全員酔いつぶれ、意識が無い状態だった。よく飲みに来てつぶれるという本田研究室のメンバーと他二名はともかく、JD3人組を店員さんがどうするべきか扱いに困っていたところに、私達の知り合いを名乗る人物が現れたのだという。その人物の誘導のままにワンボックスカーに乗せられたということらしい。そいつが犯人であることに疑いはないが、顔は店員さんもよく覚えていないという。

 その後、本田研究室の面々が直々に見舞いに来てくれた。大の大人なのに学生を守れなくて申し訳ないと謝る本田教授。大丈夫だったかとしきりに心配してくれる平井先輩とロザンナさん。彼らは何も悪くないのに、なんと義理堅いことだろうか。気にしないでいいということと、調査に同行させてくれた感謝を述べ、ひとまず別れた。


 全てが終わった時には、既に日が傾いていた。

 「これからどうするか・・・」

 飲みに行く前と同じことを考えていた。あの時と違うのは、私達が殺されかけたことだ。

 「どうしようね・・・」

 一絵がつぶやく。厄介なことに、アイツが植え付けた好奇心の呪いは未だに残っている。後ろ髪を引かれる思いと、経験と本能から来る警戒心がせめぎ合っていた。

 後に続く言葉がなく迷う私達に、瑠菜がこう提言する。

 「調査を続けるにしても諦めるにしても、このまま今までと同じ生活を送るのは危険だと思います。彼らは私達が生きていると知ったら、また同じことをやってくるでしょうし。」

 今度はより確実な手段で、私達を仕留めに来るでしょうね、と、さらりと恐ろしいことを言う。

 「そうしないためにも、しばらく3人で一緒に行動することが好ましいと思います。出来れば24時間一緒に。」

 彼女の言うことは一理ある。しかし、ある疑問が残る。

 「私のアパート、3人も寝泊まり出来ないんだよね~」

 「ウチのも同じ。スペースが足りない。」

 寝るときが一番無防備なのに、そこをカバー出来ないのはどうしようもないではないか。

 「そこで提案があります。」

 瑠菜が真剣な顔でこちらを見つめる。

 「お二人とも、私のおじいちゃんの家に寝泊まりしてみませんか?」

 

 そういった経緯で、私達はしばらく瑠菜のお祖父さんのお家に居候することになった。

 急に3人も負担が増えたにもかかわらず、お祖父さんとお祖母さんは快く承諾してくれた。

 「瑠菜はもとから沢山食うからなァ。一人二人増えたって、大して変わらんさァ。」

 痩せ

た小柄の老人が豪快に笑う。彼の名前は日村達夫さん。私達の命の恩人であり、岩卵のベテラン漁師である。

 「瑠菜にお友達が出来て嬉しいよぉ。甘えん坊だけど、引っ込み思案だからねぇ。」

 おおらかにほほえむ女性の名前は日村文江さん。達夫さんとほぼ同じ身長、体型であり、二人並ぶとペアの小物のようである。

 今日はご馳走しなきゃねぇ、と文江さんが腕を振い、得意料理の天ぷらを振る舞ってくれたのである。その味は絶品で、箸とビールが進むこと進むこと。私達は命を落としかけたことをすっかり忘れ、酒池肉林の宴に興じていった。

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