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第2章

八重の元カレが出てきます。苦手な方はご注意を。

 スーパー岩卵。その名の通り、岩卵市唯一のスーパーマーケットである。

 岩卵市にはデパートなどの大型商業施設がない。そのため、こことホームセンターチェーンであるカノン岩卵店くらいしか満足に買い物ができないのだ。だからといって品揃えが貧相といえばそんなことはなく、地元で採れた新鮮な野菜と魚介が通常ではあり得ないほどの安値で提供され、学生や主婦の評判は非常に高い。なぜここまで詳しいかというと、何を隠そうここが私のバイト先だからである。

 「明日の朝9時にスーパー岩卵の前に集合ね!」

 一絵に一方的にそう宣言された私は、目的地に向かって歩いていた。集合場所に着くと、私以外にメンバーの姿がない。外は既に暑いから、店内に避難しているのだろうか?そう思って中を覗くと、鮮魚売り場前の巨大生け簀を覗いている、ナップザックを背負った瑠菜の姿が目に入った。

 巨大生け簀にはアジやタイが泳ぎ、イセエビが不機嫌そうに触覚を動かしている。ここは買い物連れの子供達に人気であり、時には偶然網にかかったマンボウが泳いでいることもある。

 「やっぱ好きなの?海の生き物」

 声をかけると、瑠菜がピクリと震える。はい、とうなずいて恥ずかしさと照れくささ半分ででほほえむ。好きなモノがあるのはいいことだな、と両親からの跡を継いでくれという懇願に流されて農学部に入った私はそう思う。

 私も瑠菜に習って生け簀をのぞき込む。冷えた店内で涼しげに泳ぐ魚を見るのは、とても心地よい。

 「八重さんは一絵さんとお知り合いなんですか?」

 しばらく眺めていると、瑠菜がそう尋ねてきた。

 「知り合いっていうか腐れ縁だけどね。」

 幼稚園からの。と私は付け加える。

 「アイツの煽りに乗る私も悪いんだけどさ、どうしてもガマンできなくてさ。いつも顔合わせるとあんな感じだよ。」

 「なんか・・・仲が良いなぁ、と思ってましたけど。」

 「そんなことないって!私もアイツのこと大嫌いだし、アイツも私に対してそう思ってるよ!」

 思わず語気を強める。アイツと友達と思われるのは心外だ。

 「大学に来てようやく離れられると思ったらさ、アイツ黄龍大学蹴ってわざわざ青龍大に来たんだよ!嫌がらせとしか考えられないじゃん!」

 アツくなってそう主張するが、瑠菜はなぜか楽しそうに笑っている。こっちにとっては笑い事ではないのに。

 

 結局呼び出した張本人の一絵は、20分の遅れで到着した。遅刻を責めたものの、

 「遅れてきた方が強いんでしょ?自称宮本武蔵さん。」

 こう煽り返された。それとこれとは話が違うし、そもそも私は例えとして出しただけで宮本武蔵を名乗っていない。

 私たち3人は目的地に向かって歩き出した。田舎特有の、ガードレールどころか歩道すらない、白線で区切られた道の端を進んでいく。少し進んで海沿いの坂道に突入したが、丁度木陰になっているお陰か涼しくて良い気分だ。

 突然、後ろから走ってきた一台の乗用車が近くの路肩に停車する。降りてきた男を見て、さっきまでの良い気分がそそくさと逃げてしまう。他でもない私の元カレ、高木坂了見(たかぎざかりょうけん)だった。

 「おい」

 何も言わずに一絵の元に向かおうとする了見に思わずそう言う。

 「うわっ八重だ。」

 首だけこちらに向け、眉間にしわを寄せて了見がそう言う。2年になって服装がよりラフになったが、神経質そうな長い顔は全く変わっていない。

 「まさか・・・今更浮気したのを謝れってのか?あの後にあんなことしたんだからおあいこだろ。」

 むしろ俺の方が謝って欲しいくらいだけど、と薄く茶色に染めた髪を掻きながら言う。よく見ると靴もズボンもブランド品で固められていて、羽振りはかなり良さそうだ。別れてからそうなったとか、まるで私が貧乏神で一絵が福の神みたいじゃないか、と勝手に苛立ちが募る。

 私が怒りに震えて反論できないでいたので、一絵の方に向かう了見。

 「あの・・・一絵さん?その・・・俺とヨリを戻すつもりはないの?」

 その台詞を聞いて驚く。

 「あんたたち別れてたの!?」

 思わずそう質問するが、了見は無視して言葉を続ける。

 「俺、なんか悪いことした?改善するように努力するからさ、ね?」

 改善するように努力する、という企業めいた言葉選びが可笑しかったが、その気遣いを私にもして欲しかった、と再び腹が立つ。なんか今日はイライラしてばかりだ。

 「高木坂くんは悪いことしてないよ?」

 ただ、と一絵は続ける。

 「付き合ってて単純に楽しくないんだよね~」

 さらりと残酷な言葉を放つ。呆気にとられる私と了見。

 「八重はよくこんな面白くない人と付き合ってたと思うよ~ あの無神経さなら納得だけどね!」

 その言葉で我に返り、なんだと!と声を大きくする。一絵が笑いながら坂を駆け上がっていくので、私も負けじと追いかける。その後に瑠菜も続き、了見は一人ぽつんと取り残された。


 先日の港に到着すると、それじゃあ準備するか、と一絵がカバンから2つの物体を取り出した。

 そう、これこそ私が一絵を仲間に入れることを決断した理由である、水中カメラと普通のカメラだった。これにより、謎の影を水陸両方から追跡しようという寸法だ。

 「めっちゃ怪しい通販サイトで売ってたんだけどね~ お手頃価格だから買ってみたんだよ。」

 超強力な惚れ薬とか、ゾウも気絶するスタンガンとかも売ってたよ、とホントかウソか分からないことを言う一絵。ふと疑問に思ったことを言ってみる。

 「これどうやって仕掛けるんだ?」

 「え?流石にそこは八重が考えてきてくれると思ってたよ?」

 お金は私が負担してるのにまさか準備まで任せるつもりだったの!?と大げさに驚いて見せる一絵。確かに正論だけど、どうも納得が出来ずにモヤモヤする。

 「あの・・・私、一応準備してきたんですけど・・・やっても大丈夫ですか?」

 おずおずと手を上げる瑠菜。さっすが日村さん!どこかのゴリラと違って気が利くね!とはやし立てる一絵。どうにも居心地が悪いので、瑠菜の手伝いをすることにした。

 私は防波堤に置くカメラの置き場所と角度を調整していた。

 「入り江全体が見渡せるような場所が良いと思います。」

 瑠菜の指示に従い、カメラを覗きながらあーでもないこーでもないと三脚を動かす。一方一絵は日傘をクルクル回して遊んでいる。良いご身分だこと。

 一方の瑠菜は水中カメラの周りに、岩を模した発泡スチロールを取り付けていた。これだと浮いちゃわない?と質問すると、下に金属の重りをつけるから大丈夫だそうだ。ふと手を見ると、人差し指に指輪が付けている。よくよく観察してみると、貝を加工した特殊なもののようだ。日村さんめっちゃオシャレだね!どこで売ってたの?と一絵が絡み、瑠菜は顔を赤らめる。

 そうこうしているうちに重り付きカメラが完成した。ゴツゴツとした岩からカメラの目がにゅっと飛び出ている様子は、RPGに出てくるモンスターのようだ。ひもをくくりつけて海中に放り込むと、水しぶきを上げて沈んでいく。結果は明日だ。私はかなりワクワクしていた。


 結果から言うと、カメラ作戦は大失敗に終わった。陸上に置いたカメラは見るも無残に破壊され、海中のカメラはひもを切られてその先はなくなっていた。切り口を見るに、自然に切れたというより鋭利な刃物で切断されたように思える。

 「また仕掛けても同じことになる可能性が高いよね。」

 「なにか別のアプローチを考える必要がありそうですね・・・」

 何者かの妨害をくらったのは確実なのに、二人とも諦めるつもりはなさそうだ。私も同じだけど。あの怪物が植え付けた好奇心という呪いは、個人差無く厄介な副作用をもたらしてくれたらしい。

 そういえばさ、と一絵が話を切り出す。

 「私たちはアレの調査をしてるわけじゃん。っていうことは調査隊じゃん。なんか名前があった方が良くない?」

 そんな小学生みたいなことしなくてもいいだろ、と意見すると、今まさに小学生みたいなことやってるじゃん、と言い返される。岩卵調査隊、っていうのは直球過ぎるでしょうか、と瑠菜が呟く。いやあんたも乗り気なのか、と心の中でツッコむ私。

 ふと海を見ると、あの日と変わらない青に染まっていた。そこで閃く。

 「岩卵群青調査隊、っていうのはどう?」

 なにそれダサくない?という一絵と、良いですね!と目を輝かせる瑠菜。多数決だと2対1、私たちのチーム名が決定した。

思ったより早く出来ました。4章もこんな感じで早く出したいですね。

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