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第一章

書きためた分も投稿しておきます。次回更新までしばらくお待ちください。

 前期最後の講義で、教授が今までの講義の振り返りをしていた。手元には、先ほど返却された期末テストの答案が握られている。点数は78点。余裕で合格点に達している。

 他の学部だと鬼のように厳しい教授がいるらしいが、私の所属する農学部にはそんな先生はいない。真面目に講義を受けてテスト前に復習すれば合格点を出してくれる。そのため、単位で困ったことはほとんどない。

 唯一ピンチだったのは、1年生の時に教養科目で取った民俗学だろうか。よりにもよって配点の多い最終問題に、先生が授業でちょろっと話しただけの問題を出してきたのだ。この県に伝わる河童と龍の伝説についてだったが、そのことが頭から抜け落ちていた私は散々な点数を取ってしまった。

 落第生への補習の話を上の空で聞きながら、私は先週末に見た巨大な影について考えていた。あれからあのことが頭から離れない。


 講義の終わりを知らせるチャイムが鳴ると、私は食堂へ向かった。花の金曜日、しかも明日から夏休みということもあって、学生達は皆浮かれているように見える。

 食堂につくと、かなりの席が埋まっていた。憂鬱な気分になるが、生姜焼き定食を注文して座る場所を物色する。すると、4人掛けの席に一人で座っている女子と目があった。あの日、一緒に釣りをした娘だ。大学生で、しかも同じ学校だったとは知らなかった。

 軽く会釈をすると、その娘も会釈を返してくれる。

 「座っていい?」

 遠慮がちに聞くと、軽くうなずいてくれた。それに甘えて座ることにする。

 いやに視線を感じる。いくら私がキングコングニードロップ事件を起こしたからといって、そこまでじろじろ見なくてもいいじゃないか。そう心の中で抗議するが、やがてそれは瑠菜の方に向いていると気付く。私は彼女の方に視線を向ける。

 瑠菜が食べているメニューを見て驚いた。この食堂には大盛の上に超大盛という階級が存在する。変化球もなにもないシンプルなネーミングだが、彼女が食べていたのは食堂で最もえげつない重量を誇るカツカレーの超大盛だったのだ。アメフト部の男子でさえ3人がかりでようやく完食できるとか、匂いをかいだだけで体重が2キロ増えたとか、そんなホントかウソか噂が流れている代物だ。そんな怪物に、牛肉コロッケが3コも添えられていた。

 彼女はそれを食べ始めた。すると、凄まじい速さでカツカレーが彼女の口へと消えていった。しかも口の周りも机も一切汚していない。処理班が素早く精密に爆弾を解体するが如く、彼女はカツカレーの山を片付けていった。スプーンの動きは精密かつ躍動的で、クラシック楽団の指揮者の演奏を見ているような感覚だった。

 カツカレーの山が半分ほど消え去っても、食べるペースは衰えることはない。この小さな体のどこにそんなパワーがあるのだろうか。彼女の腹の中に怪物が寄生していて、栄養を全て奪っているのだろうか。

 「どうかされましたか?」

 彼女の一言で我に返る。あまりにもじろじろと見過ぎていたようだ。ごめんなさい、と一言小さく謝る。

 

 そういえば、自己紹介がまだでしたね、と彼女がつぶやく。

 「日村瑠菜と申します。水産学部海洋生物学科の2年生です。」

 私たちの通う岩卵キャンパスには、水産学部と農学部の2つの学部がある。同じキャンパスなのに今まで知らなかったのは、学部が違ったかららしい。

 「七海八重。農学部の2年だよ、よろしく。」

 相手が小さくお辞儀を返す。しかしその後に続く会話がなく、黙って各々の食事を進める。

 「あれって何だったんだろうね」

 思わずポツリと呟いてしまう。「あれ」が何なのか分かったのか、瑠菜の動きがピタリと止まる。

 「クジラでしょうか・・・ただこの海域には本来いないんですよね。サメも日本であれほど大型のものは生息していないはずなので・・・」

 ぽつぽつと呟くように話し始める。流石水産学部と言うべき知識量だが、やはりあれが何なのか分からないらしい。

 「・・・何なんでしょうね、本当に。」

 勝手に自分だけで話しちゃってごめんなさい、と頭を下げた瑠菜の顔には、恥ずかしさと残念さが浮かんでいた。お祭りのクジのラストチャンスで外してしまったような、そんな表情だ。

 「だったらさ、一緒に調べてみない?」

 思わずそんな言葉が口から出ていた。目を見開いて瑠菜がこちらを見る

 「日村さんが良かったらでいいけどさ、私は夏休みヒマだし。」

 瑠菜の目に希望の灯が点った、そんなように思えた。

 「いいん・・・ですか?」

 瑠菜は少しうつむきながら、控えめにそう尋ねる。だが、そこからは溢れんばかりの高揚が感じ取れた。それは私も同じだった。二人ともあれほど怖がっていたのに、今では最高にワクワクしていた。

 「なになに~?なんの話してるの~?私も混ぜてよ~」

 背後から不快な妖精声が聞こえてくる。振り返るとざるうどんを抱えた一絵がいた。

 「日村さんこんにちは~あの時以来だね~」

 無遠慮に私の隣に座り、瑠菜に話しかける。そういえばこの二人は私が来る前から防波堤にいたんだっけ、と思い返す。

 「あのさ・・・これは私と日村さんの話だからさ、お前はでしゃばらなくて良いよ。」

 「いいじゃ~ん わたしも一応当事者なんだしさ。」

 「うるさい。あっち行ってろよ。」

 「便利な道具持ってるんだけどな~」

 そう言って一絵はバッグから何かを取り出し、机の上にゴトリと置いた。

 それは2つのカメラだった。

イルルカSPが滅茶苦茶楽しいです。カメハに引き渡すにじくじゃくを乱獲することまで楽しく感じます。スクエニさんありがとう。

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