第7話 チー牛
「漫画のことは置いておいて、マジでどうするんだ?」
北海道に住む加藤は、香川の土地勘はゼロだ。だから観光地も知らなければ、どこが人気スポットなのかもわからないだろう。
「うーん、漫画の聖地巡礼だと他のアニオタも考えそうだしな。逆に映画の舞台だとかロケ地を巡るとか?」
「映画? 佐藤は映画に詳しいの?」
「詳しくはないけど、一般教養的な? 例えばセカチューって知ってる? 世界の中心で愛を叫ぶってやつ。あれは香川でロケしてるはず。あと魔女の宅急便とか」
「ちょ、待て待て! 魔女の宅急便くらいは俺でも知ってるぞ! 魔女の宅急便のロケ地ってどういうことだよ!? アニメ映画だろ?」
「実写版もあるんだよ。魔女の宅急便にはね。たしか小豆島の公園だよロケ地。見たことないけど」
「おい、アニメデブ。知ってたか? 魔女の宅急便の実写なんて」
「拙者も初耳ですぞー。佐藤殿、あなた只の『チー牛』じゃなかったのですね!」
――! デブ山田から『チー牛』なんて言葉が出るとは!
佐藤ヒカルは動揺した。
『チー牛』とは、元々は「3色チーズ牛丼、特盛温玉付きを頼みそうな顔」をしている人のことを指す。
それには別の意味もあった。
低身長、精神的に幼い、覇気のない顔、度が強いメガネをかけている、という特徴を兼ね備えた人の蔑称だ。
佐藤ヒカルは、まさにその特徴を網羅していた。
「あはは。チー牛ってww」
加藤はチー牛の意味を知っていたのだろう。大笑いする。
「ジャッジメント! 佐藤は『チー牛』!」
突然、右手を挙げて佐々木翔が笑いながら叫んだ。
今まで一言もしゃべっていなかった相川ですら、声を出して一緒になって笑った。
ヒカルは頭に血がのぼるのを感じた。
怒り、憎しみ、その他色々。
――話題を変えねば!
ヒカルは必死に話題を探した。
その時だった。
「君らなにをやりゆーが」
そこには女子高生が立っていた。
少し膨らみのわかる制服の右胸のポケットには、超能力者であることを示す脳みそを象った胸章が光っていた。
「君も『島』の参加者?」
加藤が目をハートにして、その女子高生に聞いた。
「そうやけど。悪いがやけんど、うちも仲間に入れてくれる?」
肩まで伸びた黒髪にキリッと上がった眉。
一見冷たそうな顔なのだが、方言とのギャップが可愛いく思える。
身長はヒカルより十センチくらい高い。
ヒカルは少し見上げるように彼女を見て言った。
「君、高知県民なん?」
これみよがしにドギツイ高知弁を使う女。
どうも何か裏がありそうだとヒカルは思いながら訊ねた。
ちなみにヒカルは徳島県民だが、そこまで徳島弁が出ることはない。
元々は兵庫県民だったし、ヒカルの住んでいる家はサンテレビも映る。ラジオも関西の放送が入ったから、ほぼ関西弁のイントネーションだ。
能力者もそうでない人も。
ブックマーク、評価をいただけら励みになります!
よろしくお願いいたします。
13話まで毎日投稿