第1話 予選の季節
「はいはい、みんな注~目~。毎年恒例の全国高校超能力者バトル大会予選の季節がやってまいりました。みんなには期待しているからな? クラス優勝して先生を胴上げしてくれ!」
教壇に立った担任の原田は、大会プログラムを配布し始める。
梅雨が明けセミが鳴き始めた頃。
どうして期末テスト直前という、なんとも迷惑な時期に全国高校超能力者バトル大会の予選という、これまた迷惑なイベントをやるのか。
窓の外から見えるグラウンドを風を受けて転がっていた白いビニール袋を目で追いながら、佐藤ヒカルはため息をついた。
全国高校超能力者バトル大会。
全国の高校生超能力者たちが試合会場に集められ、各種競技で自分たちの能力を競い合うというものだ。
過去の大会の結果なるものを見てみると、バトルといってもその内容は様々で、野球やサッカーといった能力者じゃなくてもできるようなスポーツ競技から、クイズ、料理、手芸といった文科系競技、かくれんぼや鬼ごっこなど、それを競っていったい何の意味があるのか? というような内容の種目まで。
バトルの内容は定番のモノ以外はコロコロ変わっている。
恐らく主催者の気まぐれでバトル内容を決めてるのだろう。
こんな主催者の茶番に付き合わされるのだから、ヒカルのように好んで超能力者になった訳ではない者たちにとっては、たまったものではない。
――もし神さまがいるのなら、普通の高校二年生に戻してください。
いるかいないか、いや、絶対にいないであろう神さまに心の中でお願いしながら、ヒカルは前に座る生川祥子から大会プログラムを受け取った。
その瞬間、大会プログラムが炎をあげて燃えだした。
「うわっ! 生川さん危ないじゃないか!」
ヒカルは思わず声をあげた。
「ごめんなさいっ! 今日は具合が悪くて能力のコントロールが上手くいかないの」
生川祥子。彼女の超能力は『ファイヤーマジシャン』、つまり炎を使う魔術師なのだ。
「おい祥子。具合悪いなら保健室行けよ。あぶねーな」
祥子の隣の席に座る和田明がそう言って、ヒカルの手の上にあった燃えて真っ黒になった大会プログラムを元の状態に戻した。
彼は『復元』の超能力者である。
「復元の和田。助かったよ」
ヒカルは和田に礼を言うと、元の状態に戻った大会プログラムに目を落とした。
どうやら今回の大会のバトル種目は十種類。
1.野球
2.サッカー
3.ソフトテニス
4.水泳
――体育会系の種目か。この辺は恒例だよなー。どれも僕が苦手な種目ばかりだ。
ヒカルは次のページをめくる。
5.吹奏楽
6.クイズ
7.デスマッチ
8.創作料理コンテスト
――ここは文科系か。って、おい! デスマッチっておかしいだろ! なに物騒なもん文科系にぶっこんでるんだよ。しかも注意事項のところに『死にます』って書いてあるぞ! こんなもん誰も応募しねーだろ!
「なにこれ? デスマッチだって。面白そう。わたしコレにしようかな。先生、わたしデスマッチにしまーす!」
どうやら誰かが志願したらしい。
いったいどこのアホが、こんな危険な種目に志願しようというのか? 声のした方へ目をやると、廊下側の後ろの方の席に座る女の子が、元気よく手を挙げて立っていた。
――おいおい、山下さんじゃないか! 可愛い君にはデスマッチなんて物騒なものは絶対に向いていないよ……。それに君の超能力は『手芸』じゃないか! 文科系の超能力で、どうやってデスマッチを生き残るつもりなんだ!?
「おー、山下。デスマッチに応募してくれるのか。そうか。先生、デスマッチを誰も選ばないんじゃないかって心配してたんだ。そうか、じゃあデスマッチは山下で決まりだな」
担任の原田は、黒板に白いチョークで書かれた種目別メンバー表のデスマッチの部分に躊躇することなく山下園子の名前を書いた。
――おい、原田! てめぇ担任の癖して、なにさらっと山下さんを殺そうとしてるんだ。山下さん、君は可愛いクマさんのぬいぐるみを作りながら、優しい旦那さんでも見つけて人生を有意義に過ごした方がいいと思うよ絶対……。
佐藤ヒカルが『手芸の山下』の心配をしている間に、ほとんどの生徒が自分の出たい種目を決めて、黒板に名前を書いていた。
超能力者もそうでない人も。
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