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0.5話 色々あったんだ、色々

試し書きを兼ねているので、暖かい目で見てください。






「ーー神が……墜ちる………」



「本当に、勝てたんだ……俺たちはやったんだーー!」




 勇者と呼ばれている男が勝利に歓喜し、聖剣を空に掲げて空に吼える。それを聞いて我に帰った仲間達は、張り詰めていた表情を緩めた。


 それを数歩後ろから見つめる銀髪碧眼の天使は、ボロボロの体を見つめながら安堵のため息を吐いた。


 ふむ、なんとかなったようだな。

 流石に今回はキツかったな、これも上の無茶な条件指定のせいだ。半覚醒状態の勇者に神を討たせるとか、なに考えてんだ無理に決まってんだろ。しかも本来導くだけが役目のはずの私が出張る羽目になったし……。

 これは休暇を100年くらい貰わないと割に合わないな。


 上司に対する愚痴を溢していると、不意に背中の翼膜器官から"ピキッ"っと、限界を知らせる擬音が上がった。


 マズいな、流石に無理させ過ぎたか、翼膜器官は間接先のぶっ飛んだ左翼がギリギリ生きてるな、後は胴体に多数の風穴と四肢は左足が何とか繋がってるか?

 どちらにせよ、これはもう永くないな。

 皆には悪いが一度帰還させてもらおう。


「勇者たちよ、感謝する。 どうやら身体が限界のようなので私は一度天界に戻り、後日また礼に向かおう。」


 私がそう発言すると勇者たちは一斉にこちらを見て、綻んでいた顔を驚愕の色に変えた。


「て、天使様!」

「そんな、お身体が! 動いてはダメです、回復魔法を掛けますからすぐに横になってください!」


 青髪の僧侶は泣きそうな顔でこちらに走り寄ってくる。

 そこまで心配してくれるのは有り難いが、早く帰りたいので適当言って話を切り上げるか。


「天界に戻ればすぐにでも直せますので、お気持ちだけ受け取りましょう」

「本当に大丈夫なのですか?……」

「もちろんです。 ではそろそろ失礼します、最後にこの世界の救世主達に最大の感謝を」


 そうしてボロボロの天使は勇者たちに見送られながら、光に包まれて姿を消した。










 《天界 ‐転生神の書斎‐》




 人一倍大きな部屋の前に転移した私は、穴だらけの胴体と片足を上手く操って無駄にバカデカい扉を蹴り開ける。そしてその最奥にポツンと存在するデスクには、紙の山に埋もれながらウンウンとうなり声を上げる金髪の女性が座っている。長く艶やかなロングヘアーに胸元の開いた服から覗く魅力的な谷間と、人形のように整った顔はまさしく人間とは一線を駕した存在感を持っている。

 そんな彼女は見るからに忙しそうな雰囲気だが、関係ないと言わんばかりに私は口を開いた。


「終わったぞ上司、今回は流石に疲れたから100年程、休暇をくれ」

「……あのですね、これでも私はあなたの七階位は上の上位神なのですが」

「それがどうしたんだ上司」

「だからですね、って?! どうしたんですかその身体は!」


 今まで書類と睨み合っていたうちの上司が、不意に目に入った私の身体を見て悲鳴を上げた。

 

「いったい何があったのですか?!」


 そして黒塗りのいかにも高そうな机を踏み越えて、というかその上に広がっている書類まで踏みつけて、こっちに飛び付いてきた。


 あの資料、踏んづけていいのだろうか。


「何がって、そっちの命令通り神と戦ってきたんだよ」

「その命令って、"勇者に堕神の討伐に向かうよう、声を届ける"だった筈よね、それがどうしてあなたが戦うことになっているのよぉ」

「いや、勇者たちを死なせないようにサポートするのが私の役目だし、今回は出張らないと絶対無理そうだったから降りて戦ったんじゃん」

「今回は堕神討伐隊を編成するまでの時間稼ぎのつもりで命令が降りたの、だからあなたがそんなに無茶しなくてもいいのよ」

「……それは勇者を死にに行かせようとしていたって事だよな?」

「そんな眼で睨まないでよぉ、私だって反対したのよ? けれど多数決でそう決まってしまったの、こればっかりはどうしようもないわ」


 知っていた。

 だから私が出張ったんだ。


「もう、こんなになるまで無茶して、堕神は討伐隊がこれから向かうから安心して直してもらってきなさい、いいわね?」

「いや、もう堕神は倒したよ」

「え?」

「ん?」

「………」


 なに言ってるのこいつみたいな顔でフリーズしないでくれないだろうか。


「………倒した?」

「ああ、倒した」

「………………ええええええっーーー!!」


 舞踏会でも開けそうな程に広い部屋中に、上司の叫び声が木霊した。かと思えば今度は視線が定まらずあたふたと、忙しい上司だな。


「ま、まって! 倒したってどういうこと?! 仮にも相手は武神よ!!」

「そうだな」

「最上位神の一柱なのよ?! 一息で惑星を粉々に出来る力を持ってるのよ?!」

「安心しろ上司、あの世界も勇者たちも無事だ」

「んああああぁ! この子はああぁーー!! 天界で最も武を極めてるかこその武神なのに! 個神で勝てないからの討伐隊なーのーにー! もぉ、なんでかなあぁーー!!」


 おお珍しい、普段はのほほんとしてる上司が荒れてること荒れてること。これが最上位の転生神だと思うとなかなかに滑稽だな。


 そんな事を内心ほくそ笑んでいると、四つん這いで突っ伏していた上司がこちらに顔を向ける。


「こんなことしてる場合じゃないわね、早めに対策を考えないと」

「対策?」

「武神を倒す下位天使なんて、他の上位神から見たら新たな脅威でしかないわ。 しかもそれが自我を持った例外番号個体だなんて即処分ものじゃない!」


 そういうものなのか、相変わらず上位神は自己の保身しか考えていないのだな。しかしそうなると私がいる限りこの上司にも迷惑を掛けてしまうか。

 そう思いながら自身の身体を見下ろす。殆ど機能しない翼膜器官に、魔力を上手く回せず崩れ始めた左足。この身体になって随分立つがここまでボロボロになったのは初めてだな。機能不全で浮けない状態になったことにより、久しく忘れていた"地を噛みしめる"感覚を思い出した。


 どうせなら降りるのも悪くないか。


「世界からこの子の記憶を消して、あの半夢魔に賄賂贈って、ええっとそれからそれから……」

「上司」

「ちょっと待っててね、直ぐに何とかするからね」

「私を人間に降ろしてくれ」

「………………え?」








《地球 ‐都内某所‐》




「ん?……ここはまた懐かしい所に降ろしてくれたもんだな、上司」


 深呼吸して伸びをする銀髪の少女を朝日が照らし、深い影を芝生に落とす。それを見た少女はしゃがみこんで、懐かしむように自身の影を撫でる。暫く懐かしんで満足した少女は立ち上がり、高い建物が密集している方角へ足を進めた。


「さてと、先ずは何から始めるかな」


 これからを考えて表情を崩した女性の足取りは、とても緩やかなものであった。





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