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「それ」

 

 驚いたなぁ。

 薄汚れてて分からなかったけど、髪は長く綺麗な青色、瞳は透き通った水色でかなり整った顔立ちをしている。正真正銘の超絶美少女だ。


 少女は体を洗い終え、風呂から上がる


「えーっと、服はこれでいいかな?ごめんね」


 城では男物の服しか盗らなかったし、母親の服も着せたくないので、僕のシャツを提示する。


「は、はい有難うございます……」


 これからどうするかなぁ。

 衝動的にさらって来ちゃったけど、このまま放りだすのも後味悪いと言うか、そんな事したらそれこそあいつと同じだし。


「奴隷」っていうのはタチの悪い制度で助けて終わり、万事解決!にならない。

 奴隷自体使役者が居なければ生きていけない、仕事がない、価値がないから結局解放しても意味がないみたいな事態が起こる。


 でも僕は「見て見ぬ振り」が出来ないから、この先奴隷に遭遇する度に「運命的な出会い」をする羽目になってしまう。


 だから、さっさと世界を滅ぼさなきゃいけないんだけど。


「とりあえずリビングに行こっか! お茶でも入れてあげるよ」





 僕たちはリビングへ移動する。


 気まずい。

 少女に対する接し方が分からない。


 僕同様に「弱者」で被虐者。

 どうすれば心休まってくれるんだろう、どうすれば喜んでくれるのだろう。


 僕は湯を沸かし、茶葉の準備をする。


 ソファに座る少女を見る。


 そうだ、僕が人にされて嬉しかった事をすればいいんだ!


 嬉しかった事をすれば……ってあれ。


 おかしいな、何もないぞ。

 そもそも僕に善意を向けてくれた人間がいないような……。




 僕はお茶を少女に差し出す。


「い、頂きます……」


 少女はお茶を飲む。

 しばらくして少女は涙を流し始めた。


「どうしたんだい!? もしかして、熱かったのかい?」


「あ……いえ……違うんです……。今まで……誰かに優しくされたことが……無かったので……。すいません……」


 少女の涙は止まらない。


 それを見ているとなぜか僕の目からも涙が溢れてきた。


「ル……ルイ様……?」


「あ……あれ? ごめん……何だろうこれ。な……何で僕泣いてるんだろう。意味わからないね……。ごめんね!」


 僕もよくわからない。

 けど、少女を見ていたら何故か、自分が救われたような感覚がしたんだ。

 虐げられていた少女を見て胸が締め付けられたときと同じように、自分と少女が重なる感覚。


「あ……あれ。おさまらないや……」


 どれだけ痛くても、どれだけ辛くても、どれだけ悲しくても今までこんなに泣くことはなかった。


 プラスの感情に対して僕はこんなにも脆かったのか。

「救われた」感情は今までの何よりも僕の心を揺さぶる。


 少女にそれを見られたくなくて、僕は手で顔を覆う。


「うっ……うう……」


 止まれよ。フィリアちゃんが気味悪がるだろ。

 別に僕が何かされたわけじゃないんだ。

 意味がわからないじゃないか。



 少女は泣き突っぷす僕を優しく抱擁する。



 まずい。

 今「それ」はやめてくれ。


 内側から今まで堰き止めていたものが溢れてくる。理不尽に対して張っていた虚勢が、僕を形作っていた強がりが僕の中で崩壊していく。


 僕は自分のキャラが保て無くなり、声を出して泣く。



 少女はそんな僕を黙って抱き続けた。



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