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赤トンボと道しるべ

高校の帰りはいつも田んぼの脇を通る。稲刈りを終えた田んぼには、赤とんぼが飛んでいる。


羽を伸ばして悠然と飛ぶ姿は、とても自由で憧れに近いものがある。


あんなふうに飛べたら、勉強とか嫌なこととか恋とか全部忘れられると思った。


 車の邪魔にならないように自転車をとめる。気持ちがおだやかになるまで休もう。


「おや、アンちゃん。休憩かい?」


「はい、なんか疲れちゃって」


「ふふ、思春期だからねえ。悩むこともあるだろうよ」


 おばあさんはそう言い残して、孫に手を引かれて歩く。


あんなに小さい子でも、ちゃんと歩いているんだ。当たり前だけど、すごいと思う。


 ポカリスエットをぐびっと飲み込む。蒸し暑い夏の終わりに飲むとなんか特別だ。


目を閉じてみると、すずむしの鳴いている声が聞こえてくる。


虫は嫌いで、近くで見るのもダメなくらいだけど、遠くから聞けば美しいと感じる。


何が違うのだろう。わたしが見る世界は、色眼鏡越しの世界なのだろうか。



 しばらく休んで、わたしは自転車を押して歩いた。錆びかけのチェーン。

 

その音は苦しんではいなかった。反対に、山の稜線から延びる夕日をいっぱいに浴びて、喜んでいるようだった。



 道を歩けば、軽トラの荷台に乗った柴犬が大きな欠伸をしている。


「よそ見してんじゃねーよ」


 横を走り抜けた自転車に気を取られ、少し目をよそに向けて戻す。


わんちゃんはもう眠りこけていた。


沈みつつあるなか、夕日は最後にまた輝く。


 急に着信が入りスマホを見ると、母からの連絡がいくつもあった。


早く帰らないと、みんな心配する。母さんも父さんもおとうとも。


夕ご飯を食べたら、悩んでることちゃんと相談しよう。最初は、数学で赤点を取ったことから。


 でもやっぱり一番は、


「遅くなってごめんなさい。ただいま」



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― 新着の感想 ―
[良い点] 日常の何気ない一部を切り取ったような話でした。山なし谷なしですが、それはそれで日常感が出てたと思います。 [気になる点] スケールがある訳でも勢いがある訳でもなく、雰囲気物っぽさがあるので…
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