戦闘シーンは刹那のうちに
『制限解除!』
そう叫んだ瞬間、私の身体の中でカチッとなる音が聞こえた気がした。制限を解除した時にいつもなる音だ。制限の解除で、身体能力が本来のものに戻った。さらに加速したスピードで走れば・・・
「――よし、間に合った。」
ガキンッという音と共にドラゴンの爪が弾かれる。
「ギャアッ!!?」
ドラゴンが困惑の叫びをあげる。
「お、お姉ちゃん?」
おっと、しまった。
「ごめんね。」
手刀を当てて、勇者を気絶させる。
・・・ここからは物語の外の話だからね、主人公は寝てないと。
「じゃあ、行きますかー。」
私はドラゴンに向かって駆け出した。勇者が気絶している今なら、自分が本気で戦っても問題ない。
そう思っていたのだが・・・
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ど、どうして・・・?
どうしてお姉ちゃんが戦ってるの?
勇者は困惑していた。
戦闘能力などないはずの少女が勇者(?)である自分を戦闘不能にさせたことが。そして自分がほとんど傷つけることが出来なかったドラゴンに立ち向かっていることが。
・・・なぜ自分が気絶していないのかも疑問の一つだったが、勇者はきっと当たり所がよくなかったのだろうと大して気に留めなかった。
勇者の興味は、目の前の戦いに注がれていた。というのも、
「素手でどうやってドラゴンを倒すんだろう・・・」
少女は、何の武器も持っていなかったからである。
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「ギャオオオッ!!!」
私の目の前でドラドンが吼える。私の頭と同じくらいはありそうな紅蓮の瞳は怒りに満ちている。鼻孔からは体内の熱が漏れ出し、口元からは時折炎が見え隠れする。
こんなのに素手とか、ちょっとキツイなあ。
「でも、行きますよ・・っと!」
私は先にドラゴンに拳を振るった。ガンッという音と共にドラゴンの腹部に命中する。衝撃波がドラゴンと私を貫く。双方数メートル吹っ飛ばされ、私は受け身を取って体勢を立て直した。
「痛ったあ・・・。」
腹部が比較的柔らかいとはいえ、やはりドラゴン。壁でも殴っているみたいに痛い。
・・・だが、それは向こうも同じらしい。
「グ、グル・・・」
吹っ飛ばされてひっくり返ったドラゴンが呻く。
・・・今がチャンスだ。
「てやっ!!」
私は無詠唱で水刃を当てていく。ちなみにこの魔法は『ウォーターカッター』のバージョンアップ版だ。名前はない。・・・あえて言うなら『エクストラウォーターカッター』とか?
私がいくつも繰り出した水刃のひとつがドラゴンの翼を切り裂いたとき、ドラゴンの首がこちらを向いた。
「ギャアアアッ!!」
叫びと共に、炎が繰り出される。
私は危なげなく避けるともういっちょとばかりに『エクストラウォーターカッター』を当ててやった。
ドラゴンが痛みに吼える。
・・・そろそろいいかな。
私は魔力を集め、集中する。
「えいっ!!」
ひときわ大きい水刃がドラドンの首をさっと切り裂く。
ドラゴンは最期の言葉を残すことなく、地に伏した。
「・・・すごい。」
そしてその一部始終を、勇者は目を輝かせて見ていた。
戦闘シーン、終了。