異変
そうこうしているうちにオークの叫び声がだんだん小さくなってきた。同時に村人の悲鳴も聞こえなくなっていき・・・静寂が訪れる。
「お姉ちゃん!」
勇者が戻ってきた。服には返り血がついていて、なかなかの死闘を繰り広げたことがわかる。息は切れていたが、まだまだ余力はありそうだ。
「大丈夫?その血は・・・?」
「血??・・・うわっ!たくさんついてる!?」
「その血はあなたのじゃないのね?」
「うん、たぶんオークのだと思う。うわー・・・。」
勇者は嫌そうに顔をゆがめた。服にはかなり血と獣の匂いが染みついているので、もうその服は使えないだろう。
「それで、オークはどうなったの?」
「大丈夫!僕が全部倒したよ!」
「あなたが?」
「・・・信じられない?」
「いいえ。だって私を助けてくれたのはあなただから。」
「本当に?」
「ええ、そう思うわ。」
そういうと、勇者はうつむいた。
「・・・ほんとは、僕の方が信じられないんだ。だって、今まではこんな力があるなんて全然知らなかったし、魔法だって使えなかった。でもみんながオークに襲われてるのを見たら、体がカッと熱くなって今まで聞いたこともない呪文が頭の中に響いてきて・・・。ねえ、僕はどうしてこんな力が使えるようになったの?僕は・・・人間じゃないの?」
私は、言葉をゆっくり紡ぐように勇者に語りかけた。
「私が昔聞いたお話ではね、『ファイアーボール』を使える人はほとんどいなかったんだって。どんなに一流の魔法使いでも、ね。・・・でもある日、『ファイアーボール』を使える人物が現れたらしいの。その人は何になったと思う?」
首をかしげる勇者の目を見据える。
「その人は・・・勇者になったの。」
「!!」
「あなたはまだこんなに小さいのに超一流の魔法、『ファイアーボール』が使えるようになった。もしかしたら、かつての勇者よりも、もっと・・・」
強くなるかもしれない、そう言おうとした時。
突然地面が揺れた。
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「きゃっ!!」
「わっ!!!」
空に放り出されるような感覚。体が一瞬宙を舞う。
(何、これ・・・。予定ではこんな地震は無かったはず・・・。)
勇者も混乱している様子だが、必死に私をかばおうとする。
「お、お姉ちゃん!あれ!!」
勇者が怯えるように目を見開き、指をさした方向には。
「ドラゴン・・・!?」
【はじまりの村】には似つかわしくない魔物が咆哮をあげ、地に降り立っていた。