勇者に健やかなアシストを
私とおじさんは【はじまりの村】のとある一軒の家に同棲することになった。
べつに変な意味ではない。この世界ではおじさんと私は親子なのだ。怪しいことなんてなにもない。こうした生活はしょっちゅうあることなので、他人と一緒に暮らす生活には慣れている。
おじさんは今家にいない。はじめの方におじさんの出番はないので、その間に別の小世界で一日で終わるやられ役や一瞬職業名が出る程度の端役などの短期の依頼を受けに行っているのだ。
おじさんはスキンヘッドの強面なので、やられ役の依頼をよく受けている。やられ役はほとんどに補償がついているので死ぬ心配がなくていいと笑っていたが、ほとんどの依頼に補償がついていないこのサバイバルな世界でそんなことをいっているおじさんは、顔の割に臆病だと思う。
「こんにちはー!」
突然、元気な声とともに幼い少年が家に飛び込んできた。
「こんにちは。どうしたの?」
「遊びに来た!」
かわいらしい声の少年。彼こそがこの物語の主人公、勇者だ。
今の姿形だけでは、この少年が将来勇者になることなど考えもつかないだろう。
小さな手足、つぶらな瞳、華奢な体格。
どれも強者にはなりえなさそうな要素ばかりだ。
しかしすでに彼の体内には強大な力が眠っており、今の状態でもオークくらい簡単に倒せてしまう。将来的には魔王も倒すことになるのだが・・・。その素質は今の時点で持っているため、十分なチートであるといえるだろう。そんな彼が健やかに勇者の階段を上るための足掛かりとなるのが、私たちモブなのだ。
「お姉ちゃん、何か困ったことない?」
「え?困ってること?」
「うん。今、いろんな人のお手伝いをしてみようって思ってるんだー。お姉ちゃんはなにかない?」
「そうねー・・・。あ、そういえばそろそろ薬草が足りなくなりそうなの。もしよかったら少しでいいからとってきてくれない?」
口調を変え、よりお姉ちゃんらしいものにする。今行われていることはクエストの受注だ。
「わかったー。取ってくるねー。」
少年はそう言い残すと家を飛び出していった。
薬草は村の中にもいくつかあるから、すぐに戻ってくるはず。そうしたら、彼にはお礼としてポーションを渡す予定になっている。いささかお礼の度合いがおかしいような気もするが、これは勇者のためのイベントであり、このあとの伏線にもなっていくので必要な場面なのだ。
彼が戻ってきたらしばらく私は暇になる。おじさんに倣って、私も短期の依頼受けようかなぁ・・・。