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トレーディング・メモリアル -ある商人の備忘録-  作者: Galaxy
序章 ようこそ異世界へ〜Hello,Next World.〜
1/8

0-0 事故そして転生

俺の最後は呆気ないものだった。


 大企業でもなく、パッとしない商社の営業係として働いていた俺、坂上 透(さかがみ とおる)は、取引相手先の商談へ行く最中、交差点に入って来たトラックに撥ねられた。


 商談内容を確認しながら、周りを見ずに歩いていたのがいけなかったのだろう。


 猛スピードで突っ込んで来るトラックにも気付かず、そのまま衝突。


 トラックの積荷だと思われる鉄パイプが何本も身体中に刺さっていて、治療してもとても助からない事を物語っていた。


 連日の暑さにより鉄板の様に熱せられたコンクリートに、既に身体の何処から出たかも判別つかないくらい大きな血溜まりをつくっていた。


 外気の暑さとは別に全身に火をつけられたような熱さにも蝕まれ、意識も今にも霞んでしまいそうだった。


 そんな中、


 (今日は、お得意様との大事な商談だったってのにな……。ったく、今回のは、数ヶ月前から着々と準備してきた社運を賭けた案件だっていうのによ!)


 俺は今から行われるはずだった商談のことを考えていた。

 

 しかし、身体は既に半分以上の感覚がなく、意識も半ば刈り取られそうになっているため、もういくことができないのが現実だ。


 (ははっ、これだからワーカーホリックはいかんねえ。死ぬ間際だっていうのに仕事の事しか頭にないや)


 自嘲気味に、声に出そうとしても、既に肺も潰れた後なのか、いざ出そうと思っても口から溢れるのは赤黒い血だけであった。


 ふと思いついた。


 (ああ、死ぬ前に、一度でもいいから......)


 そう思い残して、俺の意識は瞬く間に暗い意識の底へ沈んでいった。





 「…ぉぃ、おー…、おきt…るk…い?聴こえてるかーい?」


 何やら傍で呼ぶ声がする気がする。ついに死神が来たのかと思い俺は二度寝を決め込もうとした。


 「……死神とは心外だなあ。これでもあんな奴らとは比べ物にならないレベルの上位神なんだけどなあ」


 「神だって!?」


 「おわっ!ビックリした。いきなり飛び起きないでよ。ショック死しちゃうじゃないか。ま、死なないけどねー。なんせ神だから。あはは、ジョークだよ、ジョーク」


 なんか、神(自称)が言ってる。二度寝しようとしたのになんだこいつは。


 「いやだから、神だって。神!かーみーさーま!」


 ならば言ってやろうか、


 「だからってたとえお前が神だとしても、人が寝ているところで面白くもないジョークかまして、一人芝居してる奴が神だなんて、誰も信じないから」


 「うぐっ。……確かにセンスはないかもだけど、別にトオル君も寝ていたわけじゃないんだから、死んでたんだし」


 そう言われてあからさまにショックを受ける仕草をする神(笑)


 確かに言われてみて、死んだ事を思い出した。だが何故、こうして目の前の神(阿呆)と話していられるのだろう。


 死んでいるなら、此処は天国か地獄ってところか。


 「(笑)とか(阿呆)ってねえ……。まあ、あながち間違いではないけど、半分正解で、半分不正解だね」


 「どういうことだ?」


 ていうかこの神(?)に俺の心の声漏れてないか?


 「まあ、神だからね。トオル君の心の声なんていくらでも読めるよ。ちなみに、今トウル君は昨日のおかずのハンバーグについて考えてたでしょう?」


 げげっ、当たってやがる。俺にプライバシーの権利はないのかよ。


 「それはさておき、さっきのことについてなんだけど、半分間違いっていうのは、此処が天国でも地獄でも無いっていうこと。…何回も言うようだけど、そろそろ神って受け入れてくれてもいいんじゃないかな」


 そろそろ、本当に怒りそうだったので神と認めてやろう。


 しかし、天国と地獄でも無いっていうならこの空間はなんだっていうんだ?


 そう、神の話を聞いていたせいで、周りを見ていなかったが、俺と神以外に何もない、ただただ黒い空間がどこまでも続いていた。


 「此処はね、僕の結界の中なんだ。凄いでしょ、トオル君と話すために用意したんだ。トオル君の魂をこの空間内に留めるの結構大変だったんだよ。そのおかげでこうして僕と話ができているんだ。だから敵対しないで、もっと褒めて欲しいなあ」


 ほう、それなら褒めてやろうかな。


 「おーえらいえらい」


 「なんで神を前にしてそんなに上から目線でいられるんだい君は……」


だって、神だというのに見た目小学生くらいのクソガキなんすもん。


 「くs……って、これじゃあ本題にも入れないじゃないか」


 「本題?」


 「ああ、何故普通だったら輪廻の輪に乗せるはずの君の魂をこんな所に繋ぎ止めているかについてだよ」


 輪廻とはまた、大層なもん出て来たな。てことは普通ならあのままおっ死んでいて、意識もないまま他の親元で次の人生を歩んでいたってことか。


 「そうそう、話が早いね。輪廻の輪に乗った魂は、大体の場合その世界で同じ種族に生まれ変わる。稀に、人間が昆虫になったり、逆に小さな微生物が人間になったりするけど、この場合は、その魂が身体の器に収まりきらずに、そのまま死んでしまうんだ。」


 「その話と俺はどう関係あるんだ?」


 「いい質問だね。いや至って簡単な話さ。トオル君が丁度他の生物に生まれ変わる所だったってことさ」


 「なん、だと……」


 「ちなみに、トオル君の生まれ変わり予定は、ミミズでした〜」


 「はぁ!?」


 危ねぇー!そのまま生まれても魂の器が溢れて即死。運良く生き永らえたとしても、ミミズだから鳥とかに食べられて……結局ダメじゃねえか!


 ナイス神!なんかいきなり神々しく見えてきたよ!


 「そうそう、ジャンジャン褒めてねー」


 あ、なんか調子乗らせた。やっぱ前言撤回。


 「そういうこといっちゃう?今からでも輪廻の輪に戻しちゃおっか」


 汚ったねー!脅してきたよ、職権濫用してきたよ。何様なんだ。


 「神様だけど」


 「…」


 「…」


 「ま、まあ、気を取り直して……、そんなトオル君にビックチャーンス!なんと今なら、異世界転生生活一生分をプレゼント!」


 「マジで!?」


 「大マジです!なんなら神様パワーで、転生特典とかもつけちゃってもいいよ。トオル君は見込みがありそうだし、簡単に死なれても困るしね」


 流石にそれは予想外だったわー。それなら即答せざる終えないじゃん。

だって、断ったらミミズだろ?絶対ごめんだわ。


 「オーケー、その商談乗った!」


 「はいよー、じゃあまず転生先についての情報お教えちゃおう。差し詰め転生特典その一ってところかな」


 「ああ、よろしく頼む」



 ◇



 「第一に、トオル君の転生先はこちらで決めさせてもらいました」


 「えっ」


 滅茶苦茶重要な事をサラッと言いやがったよ。いや、選択肢なしかい。


 「変な世界選んじゃって、ミミズ以下の得体の知れない物になったら、困るのはトオル君でしょう?」


 「ああ、確かに、その点では選んでもらった方が確実性があるな」


 神も案外色々考えているということか。


 神が話した内容を要約すると、俺の転生先の世界には魔法と呼ばれるものが存在していて、『勇者』とか『魔王』が普通に戦っているそうだ。


 まだこれなら分かる。だって定番じゃないか。もはや異世界転生もので魔法とかなかったら、最初の時点で詰んでるし。


 次に、生まれ先について聞かれた。


 こういう場合、どこかの王侯貴族とか裕福なところに生まれるのだろうが、俺はそんなのは選ばずに、普通の家庭を望んだ。


 「えっ、富とかそういうのには興味ないの?」


 と聞かれたが、そういうのにはだいたい政治的な何かが絡んでくる。俺はそういうのはパスだ。


 むしろ、金は自分で汗水流して手に入れるもんだろ。というと神が、


 「ふふっ、だからこそ君は面白い」


 と言われた。なんか見透かされている気がして、嫌な感じだ。


 「じゃあ君には、とある商人の長男として生まれさせてあげよう。このくらいの経済力なら大丈夫でしょう?」


 商人か……、悪くないんじゃないか。むしろ好都合だ。

 元営業の力なめんなよ。すぐにそんじゃそこらじゃ稼げない大金稼いでやる。


 「決まりだね。じゃあ次に転生特典その二についてなんだけど、これについては、あっちの世界に行ってから自然にわかると思うから、」


 今までの流れ的に、ここではぐらかすのはおかしくないか?


 「まあまあ、いいじゃない。どうせ分かることだし。じゃあ、困ることがあったら僕に連絡できることができるようにしてあげるよ。あ、これ転生特典三ね」


 そこまでするのか神。アフターサポートばっちりだなおい。


 そうと決まればさっさと転生してしまった方がいいな。


 「こんなもんでいいだろう。早く転生させてくれ」


 「そうだね。そろそろいってみようか。じゃあね。君の商人としての物語、楽しみにしているよ」


 そう言って、神が手を振りながら、俺を送り出した。


 目の前が今までの空間とは対照的に、白く塗りつぶされていった。





 最初の記憶は、長い間ずっと湯の中で沈んでいるような感覚が襲ってきていた。


 だが、嫌な感覚ではなく、むしろ何かに包まれているような安心感があった。


 次の記憶は湯の中からどこか明るい場所へと出たところだった。


 初めての光や感触に、目や肌がピリピリと痛み、思わず大声で泣いてしまった。


 「おやおや、元気な男の子だこと。きっと立派に育ってくれるわ」


 そこには、笑顔でこちらの手を掴む一人の男と、俺の隣で微笑みながら俺のことを見ている、一人の若い女がいた。


 「どれどれ、もっと顔を近くで見せてくれ」

 

 次に気がついた時には、俺はその男に抱きかかえられていた(・・・・・・・・・・)


 その時気が付いた、この人たちは俺の両親だということに。


 これがまだ俺が赤子だった時の記憶だ。

 どうやら俺は本当に転生してしまったらしい。

初投稿です。

一応続けるつもりですが、次いつになるか分かりません。


12/4 誤字修正しました。

12/9 次の章のため、タイトルの数字を一個下げました。

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