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私は騎士になりたい。(ミラナ視点)

 エリー・カランという人はちょっと変っていた。

 貴族のお嬢さんで、カサンドラ騎士団に入団することからして、違う。

 ジュネ様も貴族だけど、お嬢さんという感じではなくて、根っからの騎士という雰囲気。

 初めて街であった時も、すごく綺麗なお兄さんだと思ったくらいで、とても中性的だ。


 でもエリー・カランは、ふわふわしていて、まあ、男の子に見えないこともないけれど、きっとドレスを着て晩餐会などに出かけたら,映えるだろなと思うくらい女の子だ。


だから、彼女が騎士団に入っていて、あの訓練に耐えているのが信じられないくらいだった。


しかも、彼女はなぜか、私に話しかけてくる。

みんなが私とは関わらないようにしているのに、わざわざ声をかけてきた。

最初は無視しようかとも思ったけど、貴族の人だ。

機嫌を損ねたら大変なことになると、話かけられたら答えるようにしていた。すると、なんだか仲良くなってしまった。

 昔の話なんてするつもりなかったのに、話してしまって後悔していたら、彼女が泣き出してしまった。

 同情されてるんだと思ったけれど、それで惨めになることもなく不思議だった。彼女にぎゅっと抱きしめられたら、心が温かくなった気がした。


 エリーは、ジュネ様をとても尊敬していて、騎士団に入団したきっかけもジュネ様への憧れだと言っていた。

 ジュネ様は私にとっても尊敬できる人だ。暴力を振るうお父さんの元から救いだしてくれて、城にまで連れてきてくれた。そしていつも気にかけてくれて、本当に感謝していた。


 でも半年前の事件から、私はジュネ様をちゃんと見られなくなっていた。

 アン様によって、ジュネ様が城の外へ連れて行かれると思った。

 だから、アン様がとても憎くてたまらなかった。

 多分、ヴィニア姉さんにもらったハリアリ草のせいで、あんなに憎しみが増長してしまったんだろうと思う。

 ジュネ様に守られているから、私はこうして城で平和に暮らしていけている。もし、いなくなってしまったら、誰が私を守ってくれるんだろうと、怖くなって、ヴィニア姉さんの言うことを聞いてしまった。


 後悔しても、もう遅い。


 私はジュネ様の信頼を失い、城の権威に傷をつけてしまった。

 本当はその罪をおって処罰される覚悟だったのに、アン様――殿下は「知らない」と主張したみたいだ。

 だから、私はこうして今も城の中で平和に暮らしている。

 何も変らず、平和に。

 嘘だ。

 何も変ってないなんて。

 

 私は城の仲間とジュネ様の信頼を失ってしまった。

 愚かな自分の行動で。


「ミラナ?どうしたの」


 隣に座っていたエリーが黙ってしまった私を訝しげに見つめる。


 エリーも、私のせいで、誘拐されたって聞いた。彼女はそのことを私に直接話したことはないけれども、他の人が話しているのを聞いてしまった。


 エリーは、本当は私が嫌いではないのかな。

 ジュネ様みたいにきっと、私に気をつかっている。

 もしかしてジュネ様に言われたかもしれない。

 そんなの嫌だ。

 人に言われてわざわざ友達になってもらうなんて、嫌だ。

 だから、私は、もうエリーと友達をやめるつもりだった。


「エリー。もう私のことは構わないでもらえますか?私、一人のほうが楽なんです」


 酷い言葉を選んだと思ったけど、これできっともう友達ごっこはしなくなると思った。


「嫌。私は嫌。ミラナが一人のほうが楽だったら、私が黙っている。だけど、一緒にいたい。だめ?」

「どうして、そんな。ジュネ様に言われたからって、したくないことはしなくていいんです!」

「ミラナ?!」


 声が大きかったかもしれない。

 驚いたように彼女の目が大きく開き、私を両手で口を押さえる。


「ごめんなさい。だから、あのほっといてください」

「えっと。ミラナ?ジュネ様、団長に言われたって何のこと?私は団長から何も言われてないよ。自分の意志でミラナと仲良くなりたいと思ったの。だめ?」

「だって、どうして、私なんかと」

「うーん。最初はどうして一人なのだろう。寂しくないのかなって思って話しかけた。でも、今は違う。ミラナと話していると面白いし、知らないことをいっぱい教えてもらえるから、色々勉強にもなる」

「べ、勉強?面白い?」

「うん。そう。ミラナは私といてもつまらないの?だから、友達をやめたくなった?」

「そ、そんなことはないです。ただ、エリーは、本当は私のことが嫌いで、無理に友達のふりをしているんじゃないかって」

「ミラナ!ふりだって思っていたの?酷い!そんな風に思っていたなんて」


 突然、エリーが両手で顔を覆って、俯いてしまった。


「ごめんなさい。あの、本当に」


 泣いているみたいで、私はただ彼女の隣で、何をしていいかわかなくてうろたえる。すると急にエリーが顔を上げた。


「冗談。冗談だから。でもふりだと思っていたのは許せない。だから代わりに友達を続けてね」

「エリー?」

「ミラナ。私はあなたの友達なの。それは信じてくれる?」


 戸惑ってばかりの私に彼女が不安げな表情を見せる。

 

 信じていいの?

 うん。信じてみよう。

 

 そうして私はエリーのことをもう一度信じることにして、私たちは前よりも親しい友達になった。

 ジュネ様のことや、ヴィニア姉さんのことは誰にも話したことがなかったけど、私はエリーだけにすべて話した。

 隠すことなく、すべて。

話したら、気持ちがすっきりして、見上げた空が本当に綺麗な青色に見えたくらだ。


 エリーも、捕まったときのことを話してくれて、ヴィニア姉さんの最後の時を教えてもらった。

 そして彼女がジュネ様に投げかけた言葉も。


 聞いた瞬間、ヴィニア姉さんの憎悪が体にまとわりつくような、感覚がした。震えている私をエリーがぎゅっと抱きしめてくれる。


「ミラナ。私が守ってあげる。だから安心して」


 頭を撫でられ、そういわれると、体が軽くなった気がした。


 それから私はエリーにべったりだったと思う。でもある日私は気づいてしまった。これは以前感じていたジュネ様への思いと一緒じゃないかと。だからまた彼女がいなくなることを考えたらおかしくなるんじゃないかと怖くなった。


 あんな思いはしたくない。だったらどうすればいいの。エリー以外友達がいない私は一人で悩んだ。こんなこと、エリーに話すこともできないから。


 一人。

 一人だから?


 本当に私はエリー以外に誰もいないの?

 六年も城で過ごしているのに。


 その日から私はエリー以外にも仕事のことだけじゃなくて、人と会話するようにした。最初は戸惑っていた人もいた。でも優しく返してくれる人もいて、私はエリー以外にも友達が出来るようになった。


 そうすると世界が変わった。

 なんだが周りが暖かくなった気がした。

 エリーにも最近明るくなったって言われて嬉しかった。


 友達になった洗い場のレイナは噂好きで、よく街の話をしてくれた。私はこの六年間街に出たことがないから、レイナから聞く話は本当に面白かった。

 それで、エリーが入団する前の話を聞いて驚いた。


 彼女はものすごく人見知りで、友達も少なかったとか。

 入団してから、人が変わったように強くなったと聞いて、私は興奮してしまった。


 そのことをエリーに聞いたら、すごく顔を赤くされて、とてもおかしかった。


 エリーは強くなりたいと思って、頑張っている。そして変わられた。

 私は?

 このまま、エリーに守るって言われるだけでいいのかな。

 城の中で一生を過ごす?

 そんな人生を送る人もいる。

 だけど、レイナが聞かせてくれたお菓子屋さんに行ってみたり、城にはない、川や森を見てみたいとも思う。

 そのためには、私も強くならなきゃ。

 だったら、エリーのように騎士団に入ったらどうだろう。

 強くなったら、自分の身が守れるし、もう誰の手を煩わせることもない。もしかしたらジュネ様が 私を救ってくれたように、私も誰かを救えるかもしれない。

 私は体も小さくて、力も弱い。心もすぐに他人に利用されるくらい、強くない。だけど、こんな私でも努力すれば、心も身体も強くなって、誰かを救えるかもしれない。


 だから、私はカサンドラの騎士になるため、騎士団の入団試験を受けることに決めた。




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