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騎士団長(女)は恋がお嫌い?!  作者: ありま氷炎
恋なんて関係ない。
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1-2 ファリエス様は恐ろしい。


 彼女が団長室に入るのは半年ぶりだった。

 退職してから一年、結婚したのはそれから半年後。

 結婚後は夫人としての活動が忙しいのか、カサンドラ城に来られることはなかった。

 普通は結婚前のほうが忙しいはずなのだが、ファリエス様は違った。

 結婚するまで、週一で通っていただき、その度に手作りのお菓子を振舞われた。


 その度に食べなければいいのに、食べてしまった団員が体調を崩し、医者の世話になる始末。

 来られない半年間、本当に平和だった……。

 なのに、なぜ……。


「ジュネ。見事に殺風景にしちゃったわねぇ」


 ぐるりと部屋を見渡しファリエス様は可愛らしい笑顔を私に向ける。 


「はっつ、そうですか?でもファリエス様の私物はご実家のほうへ送ってありますから」

「やぁね。ジュネ。怒ってるんじゃないわよ」


 ふふふと団長時代同様、ファリエス様は口に手を当てると可愛らしい笑い声を立てられた。

 なぜか悪寒が走ったのだが、気のせいだろう。


「桃色の壁紙とか、いいわよねぇ。ねぇ、今度かわいい壁紙を送ってあげようか?」


 ――いえ、結構です。


 そうでかかった言葉を慌てて押しとどめ、私は「よろしくお願いします」と頭を下げる。

 逆らうと怖い、上司ではなくなったのだが、逆らう勇気はなかった。

 団長だから怖いものはないといいたい。

 しかし、ファリエス様の怖さはなんというか、心の底から来るのでどうしようもなかった。


「じゃ、楽しみにしていてね」

「はい」


 えっと、用はそれだけだろうか?

 

 ファリエス様は目の前の来客用の椅子に貴婦人らしからぬ仕草で座っている。そして、突然天井を見上げ遠い目をされた。


「はあ。やっぱりいいわね。カサンドラ騎士団。私って結構女性らしいと思っていたけど、やっぱり騎士生活が長いとそういうのを忘れちゃってるみたいで。いろいろ大変なのよ」

「はあ……」


 なんだろう。

 愚痴を言いにきたのだろうか?


 お茶でも出すべきだろうか?

 そうだ。

 お茶。


「ファリエス様、お茶を用意させますね。少々お待ちを」

「いらないわ。それよりも用事があるのよ」


 部屋から出ようとした私に、ファリエス様が待ったをかける。


「ジュネ。新しい入団希望者がいるの。試験内容は前と同じ?貴族出だけど」

「貴族出?珍しいですね。どこのご令嬢ですか?」


 そんな酔狂な人材が貴族にいたのかと、私は思わず食らいついてついてしまった。


「エリー・カラン。私の従姉妹よ」


 従姉妹、

 従姉妹……。


 なぜか、従姉妹という言葉の衝撃は大きかった。


 いや、従姉妹。

 姉妹ではない。

 きっと違う感じで、しかも、試験に受かるかわからないじゃないか。


「本人がすごいやる気なのよ。まあ、お父様もかなり勧めていたけど。でも、叔母様がすっごくお怒りなのよね。私としてはあまり受かってほしくないのだけど」

「そうなのですか?それでは、試験は受けないほうがいいのでは?」

「そうしたいのだけど。本人がやる気だからねぇ。まあ、受かるわけないから、受けさせてみようと思ってるの。で、試験内容なのだけど」

「えっと、走りこみを砂時計一個分、井戸の水を四回城に運び込む、斧で薪を作る、この三つですね」

「……相変わらずなんか、めちゃくちゃな試験内容よね」

「実用的でいいですよ。やはり騎士となるからには力仕事をしてもらわないといけないですから」


 なぜかファリエス様は変な顔をされた。

 おかしいことを言っただろうか?

 

「あの子にはとても不可能な内容ね。きっと無理だわ」

「……やはり受けさせないほうがいいのでは」


 かなり前の話だが、無理に試験を受けて、腰を痛めたご婦人がいた。私のことをじっと見つめ、ちょっと気持ち悪かったから、同情はできなかったが、試験はそんなに簡単ではないのだ。


「走りこみでばてるはずだから、大丈夫よ。本当強情な子で、やらないと気がすまないのよねぇ」

「はあ、強情……」


 従姉妹、従姉妹。

 似てるのだろうか。

 いや、受からない。

 受かるわけがない。


「私の場合は、王命だったから、試験なんか受けなくてもよかったけどね」


 ファリエス様はその天才的剣術を見込まれ、王に直接騎士団入団を薦られた。 騎士一家のリンデ家で修行されていたのだから、当然といえば当然なのだが。


 私もファリエス様の剣捌きには結局ついていけなかった。

 それでも体力がないので、持久戦に持ち込めば私の勝ちだったのだが。


「さあ、帰ろうかしら。この次来るときは壁の色が替わっているはずね。ふふ。楽しみだわ」


 ――やはり忘れていないのか。

 この調子では、きっと彼女好みの派手な壁紙が送られてくるだろうな。


 私は彼女を門まで送りながら、送られてくる壁紙のことで頭がいっぱいだった。

 真っ赤とかは、本当にやめてほしい。


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