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騎士団長(女)は恋がお嫌い?!  作者: ありま氷炎
恋なんて関係ない。
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1-1 カサンドラ騎士団

 今から五十年前。

 建国以来、初めての女王となったカサンドラ様は、家庭内暴力や性犯罪などで心に傷を負った女性のために城を作った。

 そこには女性だけが入ることを許され、男性によって傷つけられた心と体を癒した。


 女性だけが住む、その噂を聞きつけ、善からぬ者が何度も侵入を試みた。その度に騎士が城を守ったのだが、騎士といえども男。

 そこで、カサンドラ様は城を守る女性だけの騎士団「カサンドラ騎士団」を結成した。

 王族につぐ階級――貴族が団長であったが、団員は広く募集した。その結果、カサンドラ騎士団は百人を超える団員を抱えることになった。

 しかし、正規の騎士団との対立、女性らしさを取り戻す会などの活躍の陰に、規模はどんどん縮小された。

 現在の「カサンドラ騎士団」は五十人規模の「カサンドラ城」のみを警護する騎士団である。


 私の名はジュネ・ネスマン。

 この栄えあるカサンドラ騎士団の第四代目団長だ。

 青い空を真っ白な雲がのんびりと流れていようが、我々は城の女性を守るために訓練を欠かさない。

 平和な時こそ、訓練をするのだ。


「さあ、もう一周いくぞ」


 私は背後に二列になり、ぞろぞろを走っている一番隊に声をかける。


「はい!」


 背後を走る隊長のメリアンヌがそれに答え、さらに後ろの団員たちに檄を飛した。彼女たちは額に玉のような汗を浮かべながらも、足を止めようとしない。

さすが、カサンドラの騎士だけある。

 メリアンヌは私より五歳年上で体力の衰えもあるだろうに、私の後ろにぴったりと付いている。

 年齢と経験から本来ならば彼女が団長であるはずなのだが、彼女は平民のため、団長にはなれない。

 団長は貴族の者でなければならない。これはカサンドラ騎士団の決まり事だ。

 貴族の令嬢で、このような役職を選ぶのはまれなので、別に平民でもいいと思うのだが、これはカサンドラ様が決めたことで、現国王も掟を変えるつもりはないようだった。


 私としては、貴族ということで第四代カサンドラ騎士団長になったのだから、その地位に甘えないように絶えまない努力をしている。

 毎日の訓練は当たり前で、その他にも薪割りや水運び、力の必要な仕事は必ず手伝うようにしていた。


「……団、団長!」


 メリアンヌがいつの間にか私の前に回りこんでいた。

 走り込みで火照っているはずなのに、なぜは青白い顔をしている。


 彼女の視線の先にいたのは赤毛の麗しい貴婦人、真っ赤はドレスが目にまぶしい……。

 第三代目団長ファリエス・リンデ様、いや今はご結婚され、エッセ夫人か。

 彼女がにこにこと笑みを湛え、手を振っていた。


「はい、止まれ!そこまでだ」


 私は号令をかけると、どさっどさっと地面に何かが倒れる音がした。

 後ろを振り返らなくてもわかっていた。

 力尽きた団員だろう。

 

「各自、汗を拭いて、水分を補給するように」


 訓練しすぎて、体を壊すのは馬鹿らしい。

 今日の訓練はこれまでにしよう。

 

 団員たちはおのおの楽な姿勢で地面に座っていたのだが、前団長のファリエス様が近づいてくると、びくっと震え立ち上がり、敬礼をする。


「みんな元気?やあね。もう私は団長じゃないのよ。怒らないから安心してね。今日は苺パイを持ってきたのよ。私の手作りよ。よーく味わって食べてね!」


 苺パイ……。

 気のせいか、お腹に痛みが走った。

 どこに隠れていたのか、ファリエス様の背後から侍女がさっと現れる。両手に抱えた籠には歪なパイたちが隙間なく配置されていた。

 口を押さえそうになったが、私はどうにか耐えた。

 他の団員も精一杯の自制心を発揮しているようだ。

 顔は青ざめていたが、それだけだった。


「……ファリエス様。ありがとうございます」

 

 団長である私は必死に笑顔を作り、礼を述べる。

 他の団員も私に習いお礼を伝え、ファリエス様は満足そうに頷いた。


 第三代目団長はそれはそれは、恐ろしい方であった。

 気分しだいで当り散らす、花嫁修業といって最悪な料理を団員に振舞い、何人もの団員を部屋に篭城させた。

 それを理由にやめていった者も数名いた。


「……皆。いったん食堂に戻ってから、前団長の差し入れをいただくように」


 食べなくてもいいぞ、そういう意味を込めて私は団員に指示を出した。

 心を込めて作っていただいたファリエス様には感謝している。だが無理やり食べさせて、団員を数日病欠にさせる気は毛頭なかった。

 そういう私も食するつもりはない。

 入団してから幾度か彼女の料理を食べたが、お腹は依然として彼女の「味」に慣れることはなかった。薬の世話になるのは当たり前、最悪高熱を出して一週間寝込んだこともある。そんなこともあり、私は彼女が退職してからは断固として食べることは避けていた。

 

「ねぇ。ジュネ。何黙りこくってるの?」

「あ!すみません」


 いつの間にか過去の痛い思い出に浸っていた。

 団員たちは逃げるようにその場から去り、私とファリエス様だけが残されていた。


「このまま、ここで立ち話させる気?」

「いえ。そんなことは」


 ファリエス様はやはり退職しても団長だ。

 私は慌てて彼女を団長室に案内した。

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