意思を持った石
?「ふうー」
?「……」
あれ?
体が動かないのか?
手や足の感触が、ない!
?「どうなってる!?」
上を見る、暗い。真っ暗だ。
おっ光が見えるぞ、あれは電灯か?
?「……」ジー
電灯をよく見る。
電灯のガラスに反射しているのは一粒の石だった。
石「あれ、もしかして、石になっちゃった!?」
石「ふうー」
石「……」
石「石だ」
石です。喋ります。ほんとは喋ってないけど。
どこに向かって喋ってるかというと、わかりません。
石「わからないのだ」
石「石です」
石「周りに何が見える」
石「空」
石「一面青く、ところどころ白い雲が浮いている」
石「ややっ、あの形は飛行機っぽい」
石「こっちはソフトクリーム」
石「あれは……鳥の形かな」
面白い、いろんなものを夢想して楽しむ。
石「ふうー」
石「ちょっと疲れた」
石「石だから動かないけど」
石「疲れるものは疲れる」
横になる。
石「もう横になってるようなものだけど」
石「いや、立っているのか」
石「どっちともとれる」
石「まあ石だけど」
石「うーん」
背伸びをする。伸ばすところがないけれど。
体を伸ばし、頭を上に上げる。体も頭もないけれど。
石「おっ」
石「鳥が通った。」
石「木に止まったな。二匹で止まってる。夫婦かなあ。」
石「口を開いてる?鳴いてるのかな。」
ん?
あれ?
そういえば、と一つあることに気がつく。
石「音が、聞こえない?」
石「鳥がいるけどピーチクパーチク言っていない。」
木に止まっている。
その木は葉が青々と茂っており新緑が美しい。
葉が揺れる。
石「……」
石「やっぱり聞こえない」
木が揺れてるのに。
葉が重なり合う音が聞こえない。
石「おかしい」
石「石な時点でおかしいけど」
石「目は見えるのに」
石「色もわかるのに」
石「音が、声が聞こえない」
石「なんでだろ」
石「うーん」
考える。
石「考える石って、なんか哲学的だな」
石「ヨーロッパの芸術作品の名前についてそう」
ふふっと笑う。
我ながら自分の想像力がたくましい。
これなら小説家にでもなれるんじゃないか。
石「いや、ソレはないな」
石「俺はそんな自惚れた性格じゃあない」
石「石だけど」
上を見る。
空が青い。
石「うーん、空ばっかも見飽きるなあ」
横を見る。
さっき木に止まっていた鳥はどこかに飛んでいったようだ。
木の葉が揺れる。
石「うーん」
石「やっぱりなんにも聞こえない」
石「おかしいなあ」
石「まあ石だから耳はないんだけど」
石「ついでに口と目はないけど、景色は見れてるし今喋ってる」
石「石だけど」
石「不思議だなあ」
石「そもそも、石なのになんで考えられるんだろうなあ」
石「生きてるのかなあ」
石「石なのに、無機物なのに、有機物じゃないのに」
石「不思議だなあ」
完全に考える石となった。
全く動かない。
石「石だからね」
石「さてどうしよう」
石「どうもしないか」
石「石だしね」
石「石は石らしくしよう」
石らしく佇む。
石は喋らないし動かない。
ソレが石なのだ。てかてかと黒光りはするかもしれないが、自分から光はしない。
ただじっと、地面に佇む。
「石だからね」
「何がいけなかったんだろ」
「今石だけどさ」
「なんもなかったら石にはならんじゃん」
「何があったんだろ」
「俺が悪いのかな」
「俺も悪いのかな」
「俺という考えがダメなのかな」
「はあああ石になりたい何もしたくない」
「あっ」
ハッと気づく。
「もう石じゃん」
「俺、石だった」
「すげー石だよ」
「なんもできないし動かない」
「モノホンの石」
「俺は、石だよ」
「まあ石なんだけど」
ゴロン、と横になる。
ゴロン、ゴロンゴロン
ゴロンゴロンゴロン!
ゴロゴロゴロゴロ!
「あ、あれ?」
「すごい、目の前の景色が横になったり縦になったりするけど」
「あれれ」
ゴロゴロゴロ、ゴロゴロゴロ
ゴロンとしたらゴロゴロしだす。
「石だけに、転がっているのか」
「いやいや、動かないのが石だぞ」
「動物みたいに自分から動けないんだぞ」
「だのに、なぜ……」
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ
場面は急転直下へ……
ドッシーン!!
白く高い壁にぶつかる。ここは道の曲がり角のような場所だろうか。
「あいたたたたた、勢い良くぶつかった、かな」
「まあ石だから痛くないんだけどね」
?「あはは、ほんとそうだね」
「!」
突如声が聞こえる。
自分以外の声だ。おかしい、俺は声が聞けないはずなのに。
周りから声が聞こえる。どこかわからないのに、とても近く、顔と顔を面合わせて話してるような感じだ。
?「ここだよここ」
?「ほらあなたの前の」
?「わかんない?」
声が聞こえる。これは自分以外のような、というか自分の目の前のような……
というか、
「自分の目の前じゃん!」
「えへへ、そう」
目の前の石が話す。
石だけど。
「そうそう、私私」
「石だけど、私」
どうやら感性は俺に似てるらしい。
その石も、どうやら話す石のようだ。
石だけど。
「なんかねー気づいたらこうなってた。あはは。」
「気づいたらって、お前、よく笑えるな」
「だってー、どうしよーもないじゃん、どうすんのこれ」
「さあな」
「さあなってカッコつけても何も出てこないよーあははーおかしー」
「確かにーはははー」
自分もつられて笑う。
最初は笑う気分なんかじゃなかったのに、なんだか一緒にいたら自分も楽しくなってきた。
いいなあ、こういう石……
「ところでさあ」
「ん?」
「狭くない?」
「確かに」
その話す石とは目と目の先におり、顔があるわけではないが直接距離が近くてそれはそれで気が引けるものがあった。
「なんか窮屈よね」
「窮屈って言われてもなあ、動けないし」
「じゃあ動こう」
えっ、何を言い出すんだこの石は。
動けないのが石じゃないのか、動いたら石ではないのでは。
「だって私達、話せるんだよ。石なのに」
「石なのに話せるなら、動くことだってできるじゃん」
何その発想。飛躍しすぎていると思う。しかし、とても魅力的かつ活動的な、なにか本当に出来るという言葉の凄みをその石から感じる
「じゃあいくよー」
「いくよーってなにが」
「動くのよ、ほらいっせーのーせ」
「あわわわ」
ボンッ
あ、あれ?俺手がある?足ある……!
俺の目の前には可憐な少女が立っていた。
というかほんと目の前過ぎて
「キャー!」バチン
殴られた。痛い。咄嗟に後ろに翻る。
まあ俺の方も気まずく感じたんだけど。
「なんなのよもう!変態!」
「いやなんなのって、石だよさっきの」
「はあ!?石って何?意味分かんないんですけど!」
いや意味がわからないのはこちらだが。
さっきまで仲良くしてたじゃん。いや、仲良くしていたとはいえなくとも話はしてたじゃん。
ん、もしかして
「覚えてない?」
「何が!?」
「さっきの、いやここに来るまで何してた?」
「学校から帰る途中だったそれだけ!なのに男の人が目の前にいた!気色悪い!」
なんなんだろうほんと。なんなんだろうしかないがこのままでいいわけでもない。
とりあえず警察にしょっぴかれるのはごめんなので
「んじゃもう帰っていいよ」
「わかったわよもう!サイテー二度と見たくない!」
散々だ。が、自分の時間ができた。今までのことを整理したい。
俺は石で、俺以外に話す石ができて、石が人になって、変態扱いされた。
うーん、俺が悪いのか?正直そうも思えないが、人生そんなことの連続のような気がするように思う。
石になって動けなかったせいだろうか、ありのままをありのままに受け入れる生活が楽だとそう思えるようになったかんじだ。
「なんもねえなあ」
空を見上げてそう感じる。