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石ころテントと歩く異世界  作者: 天色白磁
第二章 ギルド島
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第七十三話 拠点を作ろう

 ジュンは本邸の転移室に着いた。

(今回は竜王に会う予定があったので、映像を送らなかったけど、結果的には良かったよね。カイが出てきちゃ大騒ぎになるよ)


 転移室の外には、いつも待っているコラードの姿はない。それが少し物足りないのだろうか、ジュンは辺りを見回してから小さく笑う。


 侍女長のサマンサが駆け寄って告げた。

「お帰りなさいませ。ジュン様」

「ただ今戻りました」


 コラードが急ぎ足で近づいて来るのが見えて、ジュンは満面の笑みを浮かべる。

 サマンサもその姿を見てから、礼をして戻って行った。

「お疲れさまでした。お出迎えが遅くなり申し訳ございません」

「ただいま。コラード。帰ると連絡しなかった僕が悪かったね。転送室の前に何日も、立っているわけにいかないからね。謝らないで欲しいよ」

「お心遣い、痛み入ります」


 ジュンは少し急ぎ足で部屋に入ると、コラードに告げた。

「コラードを迎えに来たんだよ。見つけたよ拠点の場所!」

 コラードは目を大きく見開いてジュンを見た。


「ジュン様にはいつも驚かされますね。早くともひと月と思っておりました」

「土地は大事だけれど、建物も必要になるでしょ? そんなに時間は掛けられないよ。皆も待っているでしょう? 明日、一緒に出かける事ができる?」


 コラードはうなずくと、答えた。

「はい。もちろん、お供いたします」



 次の日。

「行ってらっしゃいませ」

 そう言って見送ってくれたのは、カリーナだった。


 部屋から転移すれば良いのだが、モーリス本邸の主であるジェンナが、家は玄関か転移室を使って入る事と言うのだから、ならうしかない。


 ジュンは転移室から拠点の予定地に移動した。


「コラード? どうしたの?」

 ぼう然と立っているコラードに、ジュンが声を掛けたので、コラードは水平線から目を離さずに答えた。


「このような場所があるとは……。未知領域ですので、森の中か崖の上だとばかり思っておりました。しかし、入り江がもし発見されましたら」


「ここはね。カイ様もご家族で遊びに来られた場所みたいだよ? 付いてきて」


 ジュンはそう言うと洞窟の中の部屋にコラードを連れて行った。もちろん、宝の地図も手紙も置いてはいない。


 ジュンは珈琲をコラードに勧めた。

「六百年前の飲み物だよ? ここは隠れ家らしい」

「良質の珈琲でございますね」


 その言葉に今度はジュンが驚いた。

「珈琲ってあるの?! 見た事がなかったよ?」

「カブラタとヘルネーの間で栽培されておりますが、量が少なく高価なので、富裕層の方々が、(たしな)みます」


 カイが金に困っていたと思うのは、状況から考えて無理がある。まして彼の母親は珈琲が好きだったのだ。


「待って。モーリス家に飲む習慣はないの? カイ様は隠れ家に持ち込むほど、お好きだったようだけど」


 その言葉にコラードが告げる。

「ダンジョン町では、世界中のお茶の葉を販売しておりますので、珈琲もございます。そちらで楽しんでいらっしゃったのだと思われます。奥さまのルル様は、緑色のお茶がお好みでございましたので」


「緑のお茶?」


「お茶の木は世界中にございます。庭に植えている家庭もあるでしょう。若い木の葉を蒸してもんで乾燥した物が緑のお茶になります。木が古くなると葉をもんで発酵させてから乾燥させます。それが紅いお茶になります。木が若い時期は短いので、あまりでまわりません。ルル様は王女殿下でございましたので、王宮の茶畑より届けられておりました」


「そうなんだ。飲んでみたいな緑のお茶。米に合いそうだよね」


「茶葉はたくさん用意してございます。いつでもご用意させていただきます」


 茶の話に脱線はしたが、ここは水竜の結界がある事と、外からは見えない事をジュンは説明した。


「こちらには、竜王様といらしたのですね?」

「うん。だって、ここにたどり着けたと思う? 湖を見る事ができたと思う? 空からじゃなければ地形を把握するのは無理だと思ったんだ」


 コラードは優しく目を細める。

「はい。このような場所は、ジュン様でなければたどり着くのは不可能でしょう。未知領域の中にあるとは思えない開放感がございます」


 ジュンはその言葉にほっとした顔をしたが、すぐにコラードを見つめる。

「それでね。僕は家を建てた事がないんだ。何も知らないので、申し訳ないけど教えてくれる?」

「普通の場所で、普通の家を建てるのとは勝手が違います。先日ミゲル様とお話をされておいでだったように、ご相談されてはいかがでしょうか?」


 ジュンは、うなずくとその場でミゲルに連絡を入れた。


 ジュンは連絡を終えて、少し困った顔をして告げた。

「あのねコラード。驚くといけないから、先に言っておくけれど。森の家にはシルキーと言う妖精がいるんだ。そのぉ、驚かないでやってくれる? ミゲル様と一緒に連れてきたいんだ」


「ジュン様にお仕えする事になりましたので、ジェンナ様とご挨拶に伺った折、お会いいたしました。とてもチャーミングな方でございますね。ジュン様は彼女がいつでも遊びに来られる家をお考えなのでございましょう?」


 コラードの言葉にジュンは少し困ったように笑う。

「うん。ミゲル様もシルキーも一人ぽっちに慣れて欲しくないんだ。駄目かな?」

「ミゲル様は奥さまもお子様も既に亡くなっておいでです。ご自分がジェンナ様やギルドの弱点になる事を恐れて、森でお暮らしだと思われます。幾度もお運びいただけるようにいたしましょう」


「ありがとう、コラード。二人を迎えに行くからね」

「行ってらっしゃいませ」



 さほど時間を空けずに、ジュンはシルキーを肩に乗せ、ミゲルと共にコラードのいる拠点の場所まで戻って来た。

 コラードのあいさつを笑顔で受けたミゲルは、楽しそうに辺りを見回す。

 シルキーはコラードが気に入っているのだろう。笑顔で話し掛けている。


「ほぉ。良いところじゃのぉ。潮風は建物を傷めるが、ジュンには時の魔法があるからのぉ」

 ミゲルの言葉にシルキーが笑う。

「ここは良いところだわ。竜の守りがあるのね。あっちには良い水場があるわ。でも、そこは魔物たちの大切な場所だわ。取ってはいけないわね」

 シルキーの言葉にジュンは笑ってうなずく。


「ここに人を呼ぶわけにもいかないじゃろう。石の家なら儂も持ってはいるので、ジュンにやろう。気に入らないなら、ルーカスにでも頼んで、探してもらうかのぉ。商業ギルドには最後に頼むのじゃ。商人なだけに余計な詮索や口出しが多いからのぉ」


 先程から不思議な顔をしている、ジュンが口を開く。

「家をもらうとか、探してもらうとかって、どうするのですか? 僕はこの場所に家が欲しいのですが」


 ミゲルは口元に笑みを浮かべると話しだす。

「石ころのテントは石の中に異空間を閉じ込めた物。原理は簡単なのだが、そこに加えてあるさまざまな魔方陣が難しい。だが、倉庫に使う亜空間と違い。異空間は容易に作る事ができるのじゃ。少々のコツと大量の魔力が必要じゃがな。さてあの場所に出してみようかのぉ」


 ミゲルが出す建物は、どう見ても貴族の屋敷。

 コラードとジュンはただ、驚いているしかない。

 それでも、何とかジュンが話す事ができたのは、コラードよりこの手の驚きに免疫があるからなのだろう。


「ミゲル様。これは?」


 ミゲルが少し困った顔をして笑う。

「大物貴族の家系は歴史があるからのぉ。家は古くて大きいのじゃ。悪事を働いた者の家から、人を追い出して中を調べたかったのでのぉ。家を王城に移して調べさせたのじゃ。王族はわがままでのぉ。終わったら持って帰れと言うのじゃよ」


 ジュンは面白そうに笑ったが、コラードは、ジュンとミゲルを見比べて何かを悟ったのだろう。諦めたような顔をして苦く笑う。


 見せてもらった家は立派だったが、どれも調理場や家事室など使用人の仕事場は地下にあり、狭い屋根裏部屋が使用人の部屋になっていた。


 調理場が一階にあり、ゲストルームが多い家は、貴族の別荘だったようで、ホールから景色を眺める窓も大きく、ジュンもコラードもシルキーもその家が気に入ったようだが、ホールで茶会や夜会を開く予定は全くない。

 上下水道がどれだけ普及していても、未知領域の中では使えない。しかし、ゲストルームは全てに風呂とトイレが付いているのだ。


「さて、どこを直すか、皆で考えようかのぉ?」

 ミゲルの言葉にジュンが尋ねた。

「できるのですか? どうやって?」


 ミゲルはうなずいてから言う。

「ルーカスは別荘をいくつか持っておるのじゃ。そこの使っていない敷地に家を置かせてもらおう。改築してから持ってくるのじゃよ。簡単なことじゃろう?」


「……ミゲル様がそうおっしゃるのなら。それからもう一つ、下水はどうしたらいいのでしょう? 亜空間ですか?」


 ジュンに質問にミゲルは答える。

「人が多いと大変じゃからのぉ。処理場の小さい物を置くのじゃ。別荘などで使われておる。闇のムシと光の浄化で、分解するのじゃ。汚泥は臭いがほとんどないうえに、肥料にもなるから、埋めて良いじゃろう。良い土になるのでのぉ」


 ジュンにとっては一番の心配事だったのだろう、その答えに顔を明るくする。

「聞いて良かった。それから、地下に練習場を作りたいんです。季節や天候に左右されずに、ある程度の魔法も使えるような。無理でしょうか?」


「特務隊の練習場は石で組んだ後、土魔法で出した土と水魔法で出した水に、粘土を合わせて塗り、高火力で焼いて作ってあるのじゃ。魔法を吸収出来なければ危険じゃからのぉ。ジュンが作ると良いじゃろうのぉ。練習場の性能は作った者の、能力次第じゃからのぅ」

 ミゲルの言葉にジュンは大きくうなずいた。


 シルキーを入れた四人は、間取りや手順を相談すると、動き出すようだ。

 ミゲルはルーカスと共に、ルーカスが懇意にしている職人たちを集めて改築に取りかかるらしい。

 コラードはマシューに連絡を入れ、必要な資材の調達や、確保にあたらせると言った。


 シルキーは拠点で使う最低限の物をそろえる事にしたようで、楽しそうな姿がかわいいとミゲルが顔をほころばせている。


 ジュンは、家の改築が終わる前に地下室を作ろうと、拠点でテント暮らしを始める事にしたようだ。


「お一人で魔法を使って地下室をお作りになると? 私は本邸には戻りません。このような場所で、ご無理をされる事は目に見えております。お身の回りのお世話だけでもさせていただきます」


「え? 子供じゃないし、大丈夫だよ」

「では、カリーナを連れて参りましょう」


「本気で言っているの? 女の子だよ? ごめん、コラード。ここにいて」

「かしこまりました」


 二人の息の合う主従関係も、完成が近いのかもしれない……。


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