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石ころテントと歩く異世界  作者: 天色白磁
第二章 ギルド島
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第七十一話 ギルド島未知領域  

 ギルド島の四分の一を、シオンの遺産として受け継いだジュン。

 だが、島の半分弱の面積が未知領域なのである。

 ギルド島は戒めの森と同じく、不可侵の結界が張られているので、地図を作製している魔人族の飛竜隊も、見る事ができない。

 それは、地図を頼りに探索ができないという事になる。


 不用意に足を踏み入れて、やみくもに歩き回って、どうにかなる物ではない。

 ジュンはカイが残した、メモやノートを懸命に探していた。


 大陸の中央が沈み、アルトロア国とコンバル国の間の低い場所から、外海とつながったと伝えられる内海。

 潮が渦を巻く海は魔物も多く、船でたどり着く事ができない。


 取り残された山だと伝えられている島は、断崖絶壁のために上陸はできない。

 一度行った場所と目視ができる場所でなければ転移は使えない。ないない尽くしの状況で、カイがどのようにして島に渡ってきたのか。


「予想通りだった……。竜王以外は無理だと思ったよ。まずは食料だね」


 ジュンは特務隊に行くと、本部の解体場を聞き、そこに向かった。

 冒険者ギルドが解体をしてくれるようで、ジュンは一人では大き過ぎて手に余るヒュドラの解体を依頼した。ヒュドラは薬の材料として、希少価値があるらしく、血液を半分渡す事で快く解体をしてもらえた。


 人手があるので、明日には解体が終わると聞いて、ジュンはギルドの直営店で野菜や炭を大量に買い込み帰宅した。

 ジュンは庭の片隅でテントを開けると中に入り、野菜などの準備を始めた。


 野菜の下ゆでをしている間に、肉のタレを用意する。

 酸味のない酒を火に掛け、アルコールを飛ばして、モロミ汁、おろしニンニク、蜂蜜、ゴマ油を混ぜて沸騰させずに火を通す。

 タマネギとジンジャーはすりおろして軽く火を通して、すりおろしたリンゴを混ぜた物を、先程のタレの半分に混ぜる。肉の下漬け用に二日ほど時の魔法で寝かせると出来上がった。


 ジュンは準備が終わると、床に寝転がり大きく伸びをした。


「部屋でも良かったんだけど、テントの天井は空がいいよなぁ。天井に天井が見えているのは、自然な不自然だからね」


 コラードたちが心配をするので、ジュンは夜には自室に戻る。


 ジュンは以前、レオに渡した通信機をコラードに持たせ、使う練習をさせた。携帯電話も電話もないこの世界の、文明に関わるつもりはないようだが、コラードとは連絡が取れるようにしたかったようである。


「明日から、拠点の場所を探しに行くよ。何か用事があるときは、それを使って連絡をして欲しいんだ。僕もそうするからね」

 コラードは心配そうに尋ねる。

「未知領域へ、お一人で行かれるのでしょうか?」


「むちゃはしないから、心配はしないで。ただ、何人で行ったって、すぐに良い場所なんて探せないと思うんだ。良さそうな場所を見つけたら、一番にコラードを迎えに来るよ。行った場所には転移ができるからね」


 コラードは少々心配そうな顔をしたが、いつも通りの笑顔で告げた。

「お待ちしております。たまにはお戻りくださいますように」

「うん。今回は額の石は付けないで行くからね」


 ジュンの言葉にコラードは尋ねた。

「ジェンナ様がご心配なさるでしょうね。理由をお聞かせいただけますか?」

「ジェンナ様の手元に記録として残っては困るからだよ。そんな手段を使うつもりなんだ。だから、コラードにも結果報告になるけど、信じて待っていて欲しい」


 コラードはジュンの顔を見て、ゆっくりとうなずいた。

「かしこまりました」



 次の日。

 ジュンはギルド本部で、解体されたヒュドラを受け取ると、竜王を訪ねた。


『来た早々、料理か?』

 竜王の言葉にジュンは笑顔でうなずく。

『えぇ。この前お土産に頂いたミノタウロスが、とてもおいしかったので、食べていただこうかと思いましてね。今回は食器も新調したので、食べやすいですよ』


 ジュンの行動に興味があるようで、竜王の息子がそばを離れない。

『火を燃やして、消えそうになってから使うんだね?』

『火が強いと、肉が焼ける前に焦げるからね』


 ジュンはヒュドラの肉を付け込んでから、ミノタウロスのステーキを焼く。

 下ゆでしておいた野菜なども焼き、仕上げにマヨネーズをかけた。


『ジュン! おいしい! ジュンの真似をして火竜に焼いてもらったんだよ。真っ黒になって、すごくまずかったんだ』

 息子の言葉に竜王は困ったように笑う。


『これは、人間の食べ物だ。こうしてジュンが作ってくれたときの、楽しみにしておけ。我らは、内臓を食べて力をもらう。肉は空腹を満たす物だからな』

『うん。野菜だっけ、これも熱々でおいしい』

『確かにうまいな。肉にも負けない味の濃さだ』


 少し蜂蜜を入れたマヨネーズは、芋やニンジンなどと相性が良い。

 ジュンは漬け込んでいたヒュドラの肉を焼き、半分にはタレを掛けて二頭の前に置いた。

『味を付けて焼いてみました。気に入っていただけると良いのですが』


 二頭はその味が気に入ったようで、ジュンは何度も焼く事になった。途中でつまみ食いをしながら、ご飯を食べると竜王の息子が興味を示した。

 熱々のご飯の上に、タップリとタレをまぶした肉をのせて出して見る。

 竜王は今回、マヨネーズの野菜の方が好みのようだが、息子は肉の味がするご飯が気に入ったようだった。


 食後の片付けが終わる頃には、腹が膨れたのか、竜王の息子は、丸くなって眠っていた。ゆっくりと果実水を味わいながら、ジュンは竜王に尋ねた。


『竜王は海にある島に、カイを連れて行った時のことを覚えていますか?』

『あぁ。出会ったばかりの頃にな。あの島は水竜の島の一つだった。息子の母は水竜だったのでな。あの島を遊び場として譲り受けたのだ』

 竜王の言葉にジュンは驚いたように目を見開く。


『え? どういう事ですか? カイは人様の物を取る男ではないと思いますが』

『いや、そうではない。竜とて赤子の内から強い訳ではない。王は群れを持たぬのでな。遊ぶ場所や教育をする場所が必要だったのだ。カイと出会った頃はすでに息子は赤子ではなかったのでな。カイの住み家にさせたのだ。息子を守ってくれた礼にと水竜たちも快諾してくれた』


『実は、あの島に家を建てようと思っているんです。それが許された場所が未知領域でして……』


『そうか、あの場所か』

 竜は懐かしむように目を細める。

『知っているのですか?』


『あぁ。カイがここから去る時に言っておったからな。カイが儂の息子と遊び。自分の息子たちと遊んだ場所は守るようにしておいたとな』

『それで、亡くなったシオン様の物にしたのか……。でも、そこを僕が使っていいのかなぁ?』


 ジュンの言葉に竜王は目を細めてうなずく。

『カイは戻っては来ない。カイがこの世界にいたら、ジュンを一番に連れて行っただろうからな』


『そんなに良い所なんですか?』

『カイは気に入っておったようだ。小さな家を建てたが、時がたち今はもうない』

 ジュンはその返事に表情を明るくした。


『竜王。僕をそこに連れて行ってはもらえませんか? 僕はそこを見てみたい』

 ジュンは熱く竜王を見る。


『ボクが行く。ボクがジュンを連れていく!』

 途中から目を開けて、話を聞いていた竜王の息子が、突然体を起こして宣言をする。

 その懸命さが、かわいくてジュンは笑みを浮かべる。


『連れて行くのは良いが、儂らは(くら)などは付けないので、背に乗せるのは危険だ。息子の足にしがみついてここまで来た娘もいたが、人の町を横切り島まで行くのには、空を高く飛ばねばならない。おそらく人では息ができない。その前に寒さで体が持つまい。カイがいた頃は人里も少なくて、儂がくわえて飛べたのだがな』


 そこで竜の息子が小首をかしげながら言う。

『ジュンは小さな石に入れるのだから、平気でしょう?』

『そうであったな。あの大きさならば、儂らが姿を消すと共に人には見えなくなるだろう。だが、ジュンは島の全容を見たいのだろう? 石の中では見えないが?』


 ジュンは石ころテントを取り出して竜王を見る。

『この丸い方を下にしてもらえると、景色が見えるのですが、この石は違う空間になるのです。声や音は聞こえるのですが、高魔力の交信はできなくなります』

 初めて竜王に出会った時、外に出るまで竜たちの声は聞こえなかったのだ。


『そう長い時間でもない。出てきてから話をしても良いだろう。できるだけ島を見せるように飛ぼう』

 竜王の言葉にジュンは満面の笑みを浮かべた。

『はい。よろしくお願いいたします』


 テントの扉は入る者により大きさは変わるが、テントの大きさは変わらないので、竜たちは顔を入れる事すらできない。

 それでも交互に扉から中をのぞいては、楽しそうに目を細めていた。


 竜王の親子が飛び立った。

 テントの天井にあった地面がどんどんと遠のいて行く。

 ジュンは何かを思いだしたのか、声を出して笑う。


「石は扉が出た時点で、テントだからね。でも小さい石の中は確かに、のぞいてみたいよね。竜王たちには、どのように見えたんだろ。こちらから見ると扉からのぞく片方だけの目が、愛らしかったけどね」

 



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