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石ころテントと歩く異世界  作者: 天色白磁
第二章 ギルド島
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第六十六話 青組と同行

 昨夜は一の鐘で来いと言われて返事をしたが、ギルド島には教会がない事に気が付き、ジュンは首をかしげた。鐘の音は確かに聞こえているのだ。

 コラードに、聞こえているのは本部にある時の鐘の音だと教えられた。


「いつかちゃんと島を見て歩こう。コラードみたいな懐中時計がほしいかも」

 独り言をつぶやきながら、ジュンは左目を使い、特務隊の自室でダンジョンの予習をしている。


 今日は人生で初のダンジョンなのである。

 ジェンナが言ったように、この世界には四つのダンジョンがある。

 

 カブラタ・ダンジョンは人間族の国、カブラタの砂漠にある。

 ヘルネー・ダンジョンは獣人族の国、ヘルネーの森。

 テンダル・ダンジョンはドワーフの国、テンダルの山あい。

 アルトロア・ダンジョンは魔人族の国、アルトロアにある。

 

 どのダンジョンも、入場料として毎回大銀貨一枚が必要で、その収入は均等に各国に分けられる。ダンジョンの入り口にはダンジョン町があり、その町の税金がその国の収益になるらしい。


「特務隊が行くダンジョンは、できたてだから、町なんかはないだろうけど、いつか行ってみたい。ゲームと同じかなぁ。仕事ではなくてプライベートがいいなぁ」



 ジュンは集合場所である広間に向かった。


「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「おぉ。来たな。今日は初めてだろう? 青組は私が盾を務める。忘れるなよ」

 チェイスはそう言うと、空間から大盾を取り出して見せる。倉庫持ちでもあるようだ。


「うっす」

 黒い髪と紫の瞳の彼は、目が合うとそれだけを言って、まるで興味がないかのようにナイフを器用に空中で遊ばせる。

「ブレ、お前は全く。こいつはブレイデン。ブレでいい。魔法とナイフを使う」


「ぼくはバルドゥール。バルでいいよ」

 茶色の髪と青い瞳。とがった耳でエルフ族だとわかる。体は細いが、筋肉はあるのだろう、両手剣を使うようだ。


「ワシはアロイス。見ての通りドワーフだす。相棒はこのショートソード。新しいワナを見つけるのが楽しみだす。皆はアロと呼ぶだす」

 小さな体に不釣り合いな、量の多い黒髪。茶色の瞳が優しげに見える。

 アロは青組の転移を使う魔法師で、ワナの処理が担当のようだ。


 チェイスがそこで、皆に告げる。

「最近は新ダンジョンが立て続けに見つかっている。まぁ竜騎士隊も頑張ってくれているので、浅い物や小さい物も多い。毎回言っているが、だからといって今回もそうとは限らない。油断だけはしないように」


 チェイスは皆の顔を見て続ける。

「今日は初心者のジュンが入る。前衛はいつも通り私とバル。後衛はブレが攻撃メインで、ジュンは回復メインだ。ワナとサポートはアロ。後は臨機応変にな」


 全員がそれぞれ了解の返事をして、アロの転移でダンジョンの前に着く。

「昨日の偵察ではなかっただす。一晩で転送石ができただす」

 そう言うアロの前に、一メートル程の高さの、先の丸い円柱の石がある。


「ジュン。ダンジョンには階層主の部屋が必ずある。そこにはその階で一番強い魔物がいる。それを倒さなければ次の場所には行けない。階層主の部屋を出ると、すぐにこれと同じ石がある。それに魔力を流せば、一瞬でこの場所に戻って来る。さらにこの石は、ダンジョン内に戻る事もできる。ただし記憶した本人のみだがな」


「はい。では今この石に、魔力を流せば良いのですか?」

「私たちが来る時点で石があることは少ない。用心のために登録しておけ」


 ジュンは石に手を置き、魔力を流す。

(あれ。これって流しているんじゃない。必要な分を吸い取られているんだ。たいした量ではないけど、気味が悪い)


 特務隊は全員、魔力が高い。それぞれが、身体強化の魔法をかけて、真っ暗にしか見えない洞窟に入っていく。

 ダンジョンの中には当然、窓や照明などはないのだが、薄暗いが物を見るのに不自由はしない。キョロキョロと見回すジュンにアロは笑う。


「明かりはないだす。壁も床も天井も薄く光を出しているのが、ダンジョンの特徴だす。まぁ、夜目がきく魔物ばかりじゃないだすから」

「なるほど」


 細い通路が急に開けた。

「これはやっかいだな。小部屋のダンジョンか」

 チェイスの言葉にアロが説明を入れる。

「細い通路でつながっている、大小の部屋に魔物がいるんだす。階層主の部屋にたどり着くのに時間が掛かるだす」


「来るぞ! ゴブリンワーカーだ。全員武器で蹴散らせ」


 ゴブリンは小さい。ツルハシをもって襲って来るゴブリンを、それぞれが、武器でいとも簡単に倒していき、部屋にゴブリンは見当たらなくなった。


「ゴブリンは緑だけではないのですか?」

 ジュンの言葉にチェイスが答える。

「森林ゴブリンは緑で、鉱山ゴブリンは茶色だ。名前は一緒だが別物だな。森林ゴブリンは集落を作るが知能は低い。鉱山ゴブリンは国を作ると言われていてな。知能は魔物にしては高い。顔も違うだろ?」


「はい。老け顔ですよね?」

 皆は笑うが、ジュンはゴブリンを見て不思議そうに首をかしげる。

「あぁ。時間がたてばダンジョンが吸収する。魔物も人も全てな」


 チェイスの言葉にジュンは無言でうなずく。

「ワーカーは魔石も小さくて手間が掛かるから取らないだす、消える前に魔石を取るのが普通だす。冒険者は貴重な部位や魔石が収入源だす」


 アロの言葉で、ジュンは思い出したように尋ねる。

「ダンジョンではマジックバックや、良質の武器や防具が、手に入ると聞いていたのですが」

 チェイスはジュンに答える。


「できたてのダンジョンの階層主は宝石しか出さない。人や魔物や物を吸収すると

マジックバックや武器・防具が階層主の部屋に出るようになる。どのように加工しているかは謎だが、形を模写して、魔物や鉱物を材料に作ると言われているが、学者の推理でしかないな」


(ダンジョンにはお宝だよね? 結構地味。まぁお宝はゴロゴロ出ないからお宝なんだよね。世界中の人が冒険者になっても困るからね)


 ゴブリンを払いながら、四つの部屋を通り抜けた。

 盾と鈍器を持ったゴブリン・ガードが時々出現する程度だが、とにかく小走りでしつこく追いかけてくるので、バルが部屋を走り回り、ゴブリンを出口に連れて来たところを、ブレが火魔法で焼き尽くす方法で片付けていく。


 七つ目の部屋の前には、大きな扉があった。


「木でも金属でもなさそうですけど、こんなに大きな扉を、人の力で動かせるのでしょうか?」

「驚くよね。ダンジョンの扉は、どんなに大きくても簡単に動くよ。だって入り口は入るためにあるんだからね」

 ジュンの疑問に、振り向いたバルが笑顔で答えた。


(実家の物置の引き戸は蹴って開けるんだよ? 入り口と出口を兼ねているから、迷って開かないとか言われそうだよね)


「階層主の部屋だな。思っていたより大きい。さて行くぞ」

 そう言うと、チェイスは大きな扉を開けた。

 それぞれが中に入り、最後にジュンが入る。

「覚えておけ。階層主の部屋の扉を開けた者は、メンバーが全員入るまで、扉から手を離してはいけない。手を離したとたんに扉は消える。扉が消えると外からは開けられない。戦闘中は入れないので、階層主が扉を作ると言われている」

 チェイスの言葉にジュンはうなずく。


「とまれ! わかりやすいワナだす」


 アロはすぐ横の地面の土を触りながら続けた。

「このほぼ丸い部屋の一周は、おそらく槍が地面から出るだす。鉱山ゴブリンがよく使うワナだす。それを合図に雑魚ゴブリンが沸くだす。出口の前にいるでかいゴブリン・ウォーリア亜種が階層主。護衛は普通サイズのウォーリア二体とガード二体だす」


 アロの言葉にチェイスがうなずく。

「扉が閉まると同時に中央まで走れ。敵がワナの方向に倒れるとやっかいだ。私が主のタゲを維持する。四体はお前らが手こずる相手ではない。一人一体を確実に片付けろ」

 チェイスが扉から手を離すのと同時に、ジュンも部屋の中央に向かう。


 走って来る敵を待って剣で戦う必要もないので、ゴブリン・ガードの盾を避け両足にエアーカッターを飛ばす。それから確実に息の根を止めた。それぞれがチェイスの指示通りに魔物を倒した。ジュンはメンバーを見回したが、幸い回復を必要とするケガ人はいなかった。


 一階層の主は、特務隊の敵にもならず、倒れるとすぐに地面に吸い込まれ宝石の袋だけが残った。


 階層主の部屋の出口を抜けるとアロが告げる。

「まずいだす。この階の通路はバットがいるだす。ジュン、コウモリだすよ」

「はい」

 ジュンはアロの親切な説明に笑顔で返事をした。

 

 それを聞いていたチェイスが言う。

「早いが、昼飯にしよう」


 扉の横には転送石がある。だが、このダンジョンがあるのは、未知領域なので、外が安全とは言い切れない。

 チェイスから昼食の紙包みを受け取り、転送石の周りにそれぞれが座った。

 

 包みの中は、靴のような大きさのパンで、切れ目からソースの付いた肉のフライと野菜がはみ出ている、ボリュームのある物だった。

 チェイスはカップに入った温かなポタージュスープを皆に配る。


「ジュン。スープはヘルタスからの差し入れだ。いつでも遊びに来いってよ」

「食堂にですか?」

 チェイスは笑う。


「新人が思っていた以上に不器用らしい。まぁ、それでも面倒見の良いあいつは、育てるのだろうがな」

「そうでしょうね」

 ヘルタスの大きな体とあのジョンの大きな体を思い出したのか、ジュンは小さく笑った。


「二階は通路にバットがいるとなると、奥にはブラッド・バットがいる可能性がある。止まれないぞ。階層の主の部屋が近いと良いのだがな。私とバルが魔法でバットを落としながら進む。三人は部屋まで魔力温存だな」

 

 不安そうな顔のジュンを見てアロが言う。

「特務隊は全員高魔力だす。心配はないだす。ただ、新ダンジョンは情報がないから、最悪に備えるのだす。盾と剣は身体強化分の魔力を残しておけばいいだす」


 階層が一つ違っただけで、魔物の力は大きく変わる。とは言っても、ゴブリンなのだが。

 スピアや、剣と盾、メイスを持ったゴブリンまで現れ、体も一階が小学生なら、この階は高学年か中学生程はある。

 進むにつれて、バットはブラッドバットになり通路にワナが出現する。


 十部屋程をクリアして、ようやく階層主の部屋の扉に着いた。

 ここでようやく、休息を取る事になった。


「階層主の扉の前は魔物が近付かない。連れてきた場合は戦うしかないが」

 チェイスは蜂蜜水を配りながら、ジュンに説明した。


「ここが最後だと良いだすが……」

 アロは扉を見つめてため息をつく。

 誰もが疲れていた。昼食から八時間以上はたっているが、休みはほとんどなかったのだ。回復魔法は気力を回復するほど、万能ではない。


「広かったから疲れた? でも、他のダンジョンよりは楽だったよ。相手はゴブリンだしね」

 バルの言葉に無口なブレが言う。

「おかしい。ゴブリンの上位種がまだ出て来ない。油断はできないぞ? 飛び階層かもしれない」


 ブレの話を聞いて、アロがジュンに言う。

「飛び階層は普通のダンジョンにはないだす。ダンジョンが新しくできる時、たまに一階の次に五階や十階ができる事があるだす。そういうダンジョンは成長が早いだす」

「上位種と言っても、所詮ゴブリンだよ。このダンジョンはゴブリンダンジョンで決まりだよ。サクッと終わらせて帰ろうよ」


 バルの言葉で全員が立ち上がり、チェイスが扉を開けた。

 扉の中は今までの部屋より、はるかに広く、階層主どころか、普通のゴブリンの姿もなかった。アロはワナもないと言うので、扉を閉めて歩き出した。


 部屋の中央まで差し掛かった時だった。

 ジュンたちは何かの大きな力で吹き飛ばされた。


「くっ、いってぇ……何?」

 ジュンの体の下になっているバルの言葉で、ジュンは反射的に結界を張った。

 






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